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“面白い”か“悪趣味”か?初回放送から大きな爪痕を残した話題作 横浜流星主演『べらぼう』

  • 2025.1.10
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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1月5日放送(C)NHK

1月5日、2025年の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(NHK、以下『べらぼう』)の放送が始まった。
舞台は江戸幕府誕生からおよそ170年を過ぎた頃。町民文化が花開いた欲深き時代に、江戸のメディア王に成り上がった蔦重こと蔦屋重三郎(横浜流星)の物語が描かれる。

物語冒頭、空撮の奥行きのある映像で江戸の色里・吉原が大火事に見舞われるスペクタクルシーンが展開された後、浮世絵と実写映像をコラージュしたポップなオープニング映像に切り替わる。

そして、吉原の稲荷社で祀られていた狐の神様・九郎助稲荷(綾瀬はるか)が実体化し、スマホを使って吉原という土地について説明するというアクロバティックなナレーションが展開されていく。

綾瀬はるかのポップなナレーション

大河ドラマは時代劇がほとんどなので、舞台となる時代について説明する必要がある。

口調も衣装も価値観も現代とは違う時代を描く際に、視聴者にどこまで説明するかは、大河ドラマの作り手が毎回頭を悩ますところだ。説明不足だと視聴者は置き去りになるし、逆にいちいち細かい解説が入ると物語に集中できなくなってしまう。

そんな中、『べらぼう』は、九郎助稲荷を演じる綾瀬はるかが狐の尻尾を付けた花魁姿で登場して状況説明をするという大胆な手法を用いており、そのシーンだけを単独で見ても華やかでとても見応えがある。

こういった語り部のキャラクターを際立たせる手法は、どちらかというと連続テレビ小説(以下、朝ドラ)で発展してきた手法だが、江戸時代の町人文化を描いたポップな物語となる『べらぼう』に、うまくハマっていると感じた。

そして、九郎助稲荷による吉原の説明を経て、物語はいよいよ主人公の蔦重へと視点が切り替わる。

蔦重は、客の刀や荷物を預かり女郎屋の情報を教える引手茶屋「蔦屋」に務める傍ら、貸本屋も営んでいる。彼が吉原の女郎たちと商売のやりとりをする場面が劇中では描かれるのだが、その過程で格差社会としての吉原の残酷な顔が露わになっていく。

幕府非公認の岡場所や、吉原よりも格安の宿場といった風俗街がのしてきたことで吉原の客は減り、女郎たちはまともな食事に有りつくことができずに、病で亡くなっていた。

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1月5日放送(C)NHK

困窮する女郎たちを心配した蔦重は吉原の女郎屋や引出茶屋の主人である親父たちに「炊き出し」をしてもらえないかと頼むが、女郎は使い捨ての存在だと思っている親父たちは、話を聞いてくれない。
奉行所に訴えても取り合ってもらえず、悩んだ末に蔦重は、庶民の話も親身に聞いてくれると噂されている老中・田沼意次(渡辺謙)に吉原の窮状を訴え、岡場所を警動(不意の手入れ)してほしいと直訴する。しかし、「(吉原には)人を呼ぶ工夫が足りんのではないか? お前は何かしているのか? 客を呼ぶ工夫を」と反論されてしまう。
田沼の言葉を聞いた蔦重は、吉原を盛り上げるためのアイデアを考えるようになり、まず手始めに吉原の魅力を紹介する吉原細見(ガイドブック)の作成を思いつく。

語り部の九郎助稲荷を演じる綾瀬はるかと、主人公の蔦重を演じる横浜流星の演技が楽しく愛嬌があるため、物語のトーンはとてもポップだ。だが、劇中で描かれるのは女郎たちの苦しみという重い問題で、衰弱した女郎・朝顔(愛希れいか)の遺体が、身ぐるみを剥がれ他の女郎の遺体と共に裸で積まれている場面や、吉原の窮状を田沼意次に訴えたことを知った吉原の親父たちが蔦重を集団で殴る蹴るした後、桶の中に三日三晩閉じ込める場面といった残酷な描写が、容赦なく盛り込まれている。

ポップな語り口で残酷な物語を見せる手法を面白いと思うか悪趣味と思うかで、本作の評価は大きく分かれるのではないかと思う。 おそらく作り手は、賛否が出ることをわかった上で、まずは自分たちのやりたいことを包み隠さずに提示したのだろう。映像の作り込みの細かさも含めて、作り手の覚悟を感じたというのが第1話の印象だ。

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1月5日放送(C)NHK

森下佳子は江戸時代の「推し活」を描く?

脚本を担当する森下佳子は、朝ドラの『ごちそうさん』(NHK)や大河ドラマ『おんな城主直虎』(同)などを手掛けたヒットメーカー。 出世作は現代の医師が幕末にタイムスリップするSF時代劇『JIN-仁-』(TBS系)だが、吉原が物語の舞台で同作に出演していた綾瀬はるかが出演していることもあってか、『べらぼう』を観ていると『JIN-仁-』のことを思い出す。

また、森下は2023年に放送された男女逆転SF時代劇『大奥』(NHK)の脚本を担当し、こちらも高い評価を獲得している。
赤面疱瘡という疫病の影響で男の数が激減し、社会の中枢を女性が担うようになった架空の江戸時代の歴史を描いた『大奥』でも、『べらぼう』のもう一人の主人公と言える田沼意次の登場する時代が描かれていた。

時代モノ、中でも江戸時代を舞台にしたドラマを森下は得意としている。その意味で今回の『べらぼう』は、森下のもっとも得意とする世界を真正面から描いた大河ドラマで、それだけに期待も大きかったが、その期待値を軽々かつ大胆に超えてきたのが、今回の第1話である。

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『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』1月5日放送(C)NHK

今後、蔦重は吉原のガイドブックを制作し、女郎の浮世絵を絵師たちに描かせることでメディア王に上り詰めていく。だがその結果、吉原という色宿の制度を強化し別の意味で女郎たちを搾取する残酷なシステムを生み出してしまうのかもしれない。

森下が脚本を書いた隠れた名作に『だから私は推しました』(NHK)という地下アイドルの推し活にハマった女性が主人公のドラマがある。アイドルを推すオタクたちの人間関係や地下アイドル運営の収益構造を大胆に描いた生々しい作品だったが、『べらぼう』の吉原の描写を観ていると、アイドルカルチャーを中心に発展を続ける「推し活」文化を彷彿とさせるシーンがいくつかある。

時代劇には興味がないという人も、劇中の吉原を現代の「推し活」文化と重ねて観たら、様々な発見があるのではないかと思う。


NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』 毎週日曜よる8時放送
NHKプラスで見逃し配信中

ライター:成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)、『テレビドラマクロニクル 1990→2020』(PLANETS)がある。