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サッカー元日本代表・中村憲剛さんが考える、思春期の子どもに寄り添う「こころ」とは?【40代からの”心のゆらぎ”のととのえ方】

  • 2024.12.25

J1リーグ3回優勝、最優秀選手賞、十余年にもわたる日本代表MF…輝かしい数々のタイトルに彩られた中村憲剛さんのサッカー人生ですが、中学時代は無名、川崎フロンターレにはテスト生として参加するなど、必ずしも順風満帆ではなかったいわゆる「非エリート」。トップ選手となり40歳で引退するまで、どのように心を磨き、鍛え、整えて、自分の人生を都度高めてきたのか―――。憲剛さんの思考とチームドクターである木村先生の解説とのコンビネーションで40代のさまざまな悩み、心の揺らぎや不安などに生きるエールやヒントをいただきます。(第1回/第3回)

PROFILE

中村憲剛さん
1980年生まれ。中央大学卒業後、2003年加入より川崎フロンターレ一筋でプレーし、J1通算546試合出場83得点を記録。3度のJ1リーグ優勝、個人としては15度のJリーグ優秀選手賞、8度のJリーグベストイレブン、2016年にはJリーグ最優秀選手賞も受賞、日本代表としても、南アフリカ開催のFIFAワールドカップ等で活躍。2020年限りで現役引退後、古巣の川崎FでFROに就任、2024年7月に「S級コーチライセンス」を取得。

木村謙介先生
医学博士。医療法人きむら内科クリニック理事長。Jリーグ川崎フロンターレチームドクター(内科)。慶應義塾大学医学部循環器内科非常勤講師。心と身体を同時に癒す診療が信条。引退セレモニーにおける長男龍剛君の手紙で中村憲剛に強い関心を抱く。彼の心の在り方や考え方を知り、それが悩みを持つ多くの人達の処方箋になると共著出版を提案。

Part1 思春期の子どもに寄り添うための「こころ」のあり方

Q.スポーツをしているわが子がスランプに陥ったり、現実を知ったり、下を向いているとき、親としてどんな風に寄り添うのがいいのでしょうか?

©KAWASAKI FRONTALE

中村憲剛さん:親は当事者じゃないし、経験・体感しているのは子ども本人なので、僕は子どもたちから何か言ってこない限り、あまり言わないようにしています。すると、向こうのほうから自然と話して来るんです。僕はどこか根っこの部分で、親が経験したことで得た教訓は子どもの人生にはそのまま当てはまらない、と思っています。とはいえ、何に悩んでいるかはしっかりと聞き、受け止めてあげて、どうするべきか選択肢を増やしてあげたいとは思っています。

こちらから「なんとかしてあげよう」とは全く思わないです。「自分でなんとかしなさい」とは思います。もちろん話は聞きますけど、解決するのは子ども自身なので…。ただ、選択肢が狭まってたら、こういうのもあるんじゃない、こうした方がいいんじゃない、とこちらからも選択肢は提示はしますけど、こうしなさいと決めつけるように言うことはありません。強めに「こうしたほうがいい」と言うことももちろんできますが、子ども自身が自分の取り組みや選んだ方向性をトライした結果、それがダメだったと振り返る経験や、痛い目を見ることがあってもいいんじゃないかと思っています。

ただし放任ではなく、「なにかあった時にはちゃんと守るよ」と最後の砦として存在したいとは常々思っています。あえて口に出し言うことはしませんが、その分これまでたっぷり、大好きだということは子どもたちにきちんと伝えてきたつもりです。J1に上がり、ACLを戦うようになり、日本代表に選出されるようになってからは本当に家にいない時間が長くて、妻をほぼワンオペにしてしまって、感謝しかないんですが…。限りある、家族と一緒に過ごす時間の中で、妻や子ども達に「大好きだよ」と直接言ってきましたし、遠回しでも伝わるようにしています。

木村先生はこう見る!
子どもに愛情はかけても信頼するのは難しいことだと思います。口を出したり先回りする親が多い昨今、憲剛さんは子どもに口を出すことはせず、独立独歩、自分が選択する道の責任の所在は自分にあるというご自身のお父さんからの教えが軸にあるようです。ご自身のお子さんには自分の道は自分で決めるように、ソフトに促したり、コミュニケーションを密にとってお子さんの意見やその時の状況を大事にし、小さな世界に陥りがちな子どもに選択肢をいくつも提示して、子ども自身に選ばせていることで、お子さんとの信頼関係を上手に構築。たとえ、お子さん自身の選択肢が失敗となっても、いざとなった時に守ってくれる親、自分に厳しいことも言ってくれる親がそばにいるということが安心に繋がり、子どもが堂々とこの世の中を冒険していけるのだと思います。

Q.友人との関係性がうまくいかない、わが子が現状に悩んでいる…、それを打破するようなきっかけや言葉かけをしたいのですが、難しい年ごろのわが子にうまくアドバイスするヒントは?

中村憲剛さん:まずはお子さんが何に悩んでるのか、そこを明確にすることから始まるかなと。そうしないと子どもたちが、「何言ってんの?全然的外れなんだけど…」と思ってしまうし、それだと両者にとってもったいない時間になってしまいます。思春期の子どもは、「わかんなーい」とか「知らなーい」とか適当に単語だけの会話になりがちだから、「何がわからないの?」「何を知らないの?」と、子どもからすればめんどくさい親ですけど、できるだけ何に悩んでいるのかを細分化して引き出すように問いかけていると、そのうち徐々にポツポツとワードが出てきて、最終的にその悩みの原型や根源が見えてくると思います。

それが子ども1人で解決できるものなのか、大人、先生や監督コーチ等が介入するべきかの解決策も見えてくるはず。ふだんから、学校や習いごとからの帰宅時に何が楽しかったかをしつこく聞いたり、親子で思ったことを共有したり、日常的に何気ない会話をできる関係にしておけば、困ったり悩んだりした時には親が話を聞いてくれる、と安心して話をしてくれると思います。僕自身、中学時代に一度サッカーをやめた時期があって、両親と姉2人、それまで家族をつなぐ共通の話題だったサッカーの話がなくなったことで、会話が少なくなり、とても寂しい思いをしたことがありました。その経験から、僕は子どもに対して関心があることを感じ取ってもらえるように、話を聞き出すことを普段から心がけています。

家で子どもが3人集まると喧嘩になったり落ち着いて話ができないことが多いので、習い事や駅までの送迎の車の中で2人っきりで話をする時が、お互い1番オープンになるのでおすすめです。特に高校生になった息子とはじっくり向き合える時間が中学時代よりも格段に少なくなったので、大切にしています。不安や迷いなど親が取り除けるものだったら取り除いてあげたいし、たとえ取り除けなくても、少なくとも親が共有してくれてるなと感じてもらえるように。僕らが子どもたちにとって安全地帯になれば良いなと思って接しています。

木村先生はこう見る!
子どもとの会話の中で決裂したり会話が途切れることも少なくないはずなのに、その悩みの核心を突くところまで踏み込めるのが憲剛さんは上手い人。触れられたくないだろうと子どもを放っておいたり、コミュニケーションが取れない状態のままが一番よくないのです。悩みを聞いてくれる存在となり、聞くことを習慣化すれば、親側が子どものあれこれを真剣に考えていることが伝わって、両者ともにいい関係に繋がります。思春期だから、親の言うことを聞かないで部屋に閉じこもったり、うるさく思われるからと遠慮して空白ができたりすると、再びコミュニケーションを取ろうとした時、タイミングや関係性はますます難しくなるもの。 “親と喋って損はない”という関係性をお子さんと意識的に育むことは、家庭内の風通しの良さや良好な関係性の構築に繋がります。

自分や周囲との関係性に悩んだらこれが効きます!

ケンゴ思考×内科医のコンビで、トップアスリートの思考法やメンタルチューニング術を、日々の生活に応用できる形でまとめた新著は、スポーツに詳しくなくても読みやすく、自分や家族、周囲との関係性を生きやすくする『読む処方箋』です。

撮影/平井敬冶 取材/羽生田由香

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