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カップルの元に“軽トラで突っ込む仕事”をしている「軽トラおじさん」とは? 突拍子もないのになぜかホロッとする“不条理”短編集

  • 2024.12.24
ダ・ヴィンチWeb
『たとえ軽トラが突っ込んでも僕たちは恋をやめない』(加藤よしき/KADOKAWA)

Xのポストが“万バズ”するほど話題を集め、Web小説サイト「カクヨム」での投稿を経て書籍化された、哀愁と不条理の短編集『たとえ軽トラが突っ込んでも僕たちは恋をやめない』(加藤よしき/KADOKAWA)を読んだ。

タイトルからは当初、その内容を連想できなかった。しかし、物語が進むにつれて“なるほど”と。恋愛、ホラー、コメディ、果ては、小説家かつ映画ライターである著者“ぼく”の私小説まで、想像で生まれた「軽トラおじさん」を軸として描かれる群像の数々はなぜかリアルで、心の奥がホロッとする。

本書の柱にあるのは「何かの危機に直面したカップルに軽トラが突っ込む」というシチュエーションをバリエーション豊かに表現した、著者によるXのポストだった。

謎の存在「軽トラおじさん」とは、何者か。本書の冒頭、おじさんは自前の「軽トラでいろんな所に突っ込んで、生計を立てとるんちゃ。突っ込む先は、主にカップルやね」と“独白”する。いや、分からん…。しかし、「こんなイイ歳した中年の変態をね、『いい仕事をするヤツや』って、よんでくれるモノ好きがおるんよ」とも言うおじさんの温かさは、登場人物もさまざまな短編の数々を通して、じんわりしみわたってくる。

短編はいずれも突拍子もないシチュエーションばかりだが、だからこそ“登場人物たちはどうなるのか。そして、おじさんはいつ突っ込んでくるのか”と、その展開にグッと引き込まれてしまう。

例えば、その1編である「ものつくりなふたり」では、奥手な彼氏への悩みから大好きなはずの即席ラーメン「うまかっちゃん」が最近「美味しくない」と感じるようになってしまった女子大生の主人公が登場する。

恋人へのイラだちが募る日々で、ふと、図書館で同期のカップルが“行為”に及ぼうとする場面に遭遇。自分は恋人と上手くいっていないのに、コイツらは何してくれているのか…。そんな、心の声も聞こえてきそうな場面で主人公がカップルを罵倒したそのとき、いよいよ、おじさんの乗った軽トラが図書館に突っ込んでくるのだ。

主人公に向けておじさんが放った「我慢ばっかしよったら、メシが不味くなる。味がせんくなる。そんでメシが不味くなったら、人生が嫌になるんちゃ」との一言は、なぜか、本書を読むこちらの心までえぐってくる。

教訓というと大げさで、本書のテイストにはおそらく合わない。しかし、おじさんの言葉はどれも芯を打つ。そして、年齢を重ねるにつれて“ああ、こんなおじさんになれたら”と、不思議と憧れてしまうのだ。

文=カネコシュウヘイ

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