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[インタビュー]舞台芸術を支え、後進の指導育成に尽力した2人を讃える 「ニッセイ・バックステージ賞」レポート!

  • 2024.12.23

舞台は役者だけが作っているわけじゃない! 「ニッセイ・バックステージ賞」とは、華やかな舞台芸術を支える舞台技術者たち、いわゆる“裏方さん”にスポットを当て、その功績を讃えるアワード。第30回となる2024年の贈賞式の様子と受賞者のお二人へのインタビューをご覧ください!


ニッセイ・バックステージ賞とは?

2024年は30回目の節目の年
公益財団法人ニッセイ文化振興財団主催。大道具や照明、音響、衣裳、舞台機構の操作技術者、舞台監督、劇場運営など、舞台の成功を裏から支えている舞台技術者に贈られる賞のこと。1995年の第1回目より、今年で30回目の開催。受賞者には賞金200万円と、年金年額50万円(65歳支払開始、10年確定年金)が贈られる。

2024年は全国の舞台芸術関係者約2,200名に推薦をお願いし、のべ46名が候補者として推薦されました。選考基準は、永きにわたって舞台芸術を支え、優れた実績を積み重ねているだけではなく、後進の指導・育成にも尽力されている方。

バックステージ賞を受賞したのは2名

バックステージ賞には、児童演劇統括団体の運営に携わる石坂慎二さんと、ステージグリーンコーディネーターの櫻井忍さんの二名が受賞。

児童演劇統括団体運営・石坂慎二さん

児童劇作家の斎田喬氏に師事し、1970年に「学生児童劇団<ピッポ>」を創立。1988年、日本児童青少年演劇協会の事務局長に就任後、50年以上にわたり、児童演劇の普及と発展に取り組む。

ステージグリーンコーディネーター・櫻井忍さん

武蔵野美術短期大学卒業後、百貨店の生花装飾などに携わる。1991年、夫の櫻井俊郎氏が有限会社C-COMを設立したことをきっかけに舞台の世界へ。生花装飾や植物の知識を応用しながら、ステージグリーンコーディネーターとして数多くの実績を築き上げる。

【石坂さん、櫻井さんにインタビュー!】

受賞が決まった時の気持ちは?

半世紀の長きにおいて、「演劇に触れる機会を子どもたちに届ける」という一心で、児童青少年演劇の発展・普及に貢献されてきた石坂慎二さん。児童演劇の国際交流においても大きな役割を担っていたそう。
そして生の植物を使えない舞台上で、長期公演や場面転換にふさわしい植物を作り出す櫻井忍さん。ステージグリーンコーディネーターという職種を確立させた唯一無二の存在として、国内外の多くの美術家・演出家から支持を集めています。
素晴らしい功績をあげたお二人に、今回の受賞が決まったときの気持ちや仕事への熱い想いをお聞きしました。 ——この度は「ニッセイ・バックステージ賞」の受賞、おめでとうございます! まずは今の率直なお気持ちをお聞かせください。 石坂さん(以下、石坂):いい仕事をやってきたなと実感しています。私は運がいい、ということも。というのも、仲間や諸先輩方が素晴らしく、後輩も一生懸命やってくれています。とにかく仲間に恵まれたことで、ここまで続けることができました。 櫻井さん(以下、櫻井):石坂さんもおっしゃる通り、私も仲間たちに深く感謝しています。ステージグリーンの仕事は、一人ではできないお仕事です。今回の受賞を機に、後輩や次の世代のために、ますます努力したいと思います。

仕事に出会ったきっかけ

——今のお仕事と出会ったきっかけを教えていただけますか? 石坂:私は、もともとは脚本家を志していたのですが、私の師匠が児童演劇作家の斎田喬氏でした。先生と巡り合い、事務的なほうが向いているかも知れないと児童演劇の裏方の世界へ進むことになりました。

石坂慎二さんのこれまでの実績がパネルに。

櫻井:夫が大道具製作会社を設立し、植栽に関するお仕事があり「ちょっと手伝ってくれ」の一言がきっかけです。それ以前は、お花のディスプレイやウェディングブーケなど、お花や園芸にまつわる仕事をしていました。それと、小さい頃から昆虫が好きで、植物と木に対する知識は豊富だったんです。舞台のストーリーが、どんな場所でどの季節なのかにより、生えている植物は違うので、背景を考えて表現する。舞台上の一本の木がその場所と空気と全てを表します。だんだん舞台の仕事の方が多くなり、今に至ります。

会場では、櫻井さんが手がけたグリーンを再現。

[仕事を続ける原動力、大切にしていることは?]

——石坂さんは半世紀以上、櫻井さんは30年以上。一つの仕事と真剣に向き合い、ひたむきに続けてこられた原動力を教えてください。
石坂:やっぱり子供が喜ぶ笑顔です。離島や過疎地など全国各地のあらゆる場所で、児童演劇の公演のお手伝いをしてきました。劇団に感謝の手紙が寄せられることもあり、そういう手紙を読むと、元気が出ます。一番感動したのは、障がいを持つ子どもたちに向けて公演をしたとき。保護者の方は、劇ではなく、わが子の顔を見ていたんですね。後日お母さんから「生まれて初めてあんな表情をしたんです」とお手紙をもらったときは、涙が溢れました。
櫻井:やっぱり舞台が出来上がった瞬間ですね。準備期間からさまざまなことを乗り越えて、役者さんとセット、演出など全てがひとつになるとき、「これで完成だ!」と一区切りつけることができます。その瞬間のために頑張れているような気がします。 ——お仕事のこだわりや大事にされていることを教えてください。
石坂:仲間たちを大切にすることですね。私たちは「全ては子どもたちのために」という共通の大きな目標があります。だから素敵な仲間が集まってきて、みんな仲良いですよ。それはありがたいことなのですが、なかなかお金にならないのも現状です。それでも皆、子どもたちのために汗水を流している。その想いを絶やさないように、大事にしたいというのが私の役割かなと思います。
櫻井:最初の打ち合わせから、何か月も前から準備をします。舞台の内容から予算、さらに美術家と演出家の意向も全てお聞きしたうえで制作をスタートします。皆さんの心の中にある風景を作り出すのが私たちの仕事。決して一人ではできないので、チーム一丸となって柔軟な対応ができるように取り組んでいます。また、若手のスタッフには年長者がついて、順番に教えて、しっかり技術が身につくように。次の世代につながるように丁寧に進めることを大切にしています。

贈賞式当日、日生劇場のロビーには受賞者二人の功績やプロフィールが展示されていました。

[今後の展望や何か叶えたいことは?]

石坂:とにかく子ども達に演劇を見せてあげたい、その一心ですね。少しでも多く機会を作るためにまだまだ努力したいと思っています。また、私は家族3世代で演劇を観ていただきたいと、ことあるごとに伝えています。家族みんなで同じ演劇を観て、ぜひ感想を話し合ってほしい。きっと家族の絆も深まると思います。
櫻井:授賞式にも来てくださった美術家さんたちのお仕事が次々に決まっています。私たちは常に複数の演目のために同時進行で制作を進行しています。ストーリーも方向性もまるで違うお仕事になるので、しっかり心を切り替えて、丁寧に対応していきたいと思っています。また、後進の育成に関しても一層取り組んでいきたいです。多くの仕事がそうですが、私たちの仕事も方法が教科書に書いてあるものではなく、終着駅もありません。いろんなものを見聞きして、ものを見る目を養い、現場ではどんどん手を動かして学んでいってほしいなと思っています。

今年は特別に「第30回記念特別表彰」も。奨励賞をかつら製作の新井智子さん、舞台美術・背景製作の牧純子さん、舞台美術製作の山本周平さん三名が受賞。現在第一線で活躍中の次世代の若手たち。

[読者へのメッセージ]

石坂:お子さんがいる読者の方は、ぜひお子さんに芝居をたくさん見せてあげてください。最近では、残念ながら学校での学芸会や演劇公演も少なくなってしまっています。子どもは、芝居することや表現すること大好きだと思うんです。保護者の言葉で学校や自治体が動いてくれることもありますので、ぜひ全国のお母さん方、声をあげてください!
櫻井:特に女性は、優れた柔軟性があると思っています。チームで仕事をしているとき、困難なことにぶつかっても「一緒にやってみましょうか!」と、臨機応変に模索しながら、みんなをゴールに導いていく力が本当に素晴らしいと思っています。これからますます皆さんのパワーやご活躍に期待しています。


撮影=松橋晶子 取材・文=阿部里歩

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