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のんさん「純度の高い『好き』を見つけると強くなる」 映画『私にふさわしいホテル』に主演

  • 2024.12.23

のんさんが、12月27日公開の映画『私にふさわしいホテル』に主演します。柚木麻子さん原作の同名小説を堤幸彦監督が映画化。不遇な新人作家の“文壇下克上”を描く本作で、主役を演じた心境や、役柄のようになかなか評価を得られない時期の乗り越え方について聞きました。

文豪の愛したホテルでシャンパンをぶちまける

――のんさんが演じる新人作家の中島加代子が、憧れの山の上ホテルに宿泊。因縁の大御所作家・東十条宗典(滝藤賢一さん)がちょうど上の階に泊まっていることを知った加代子のある大胆な行動から、物語が展開していきます。撮影は、川端康成や三島由紀夫など数々の文豪に愛され、2024年2月に休館した山の上ホテルで行ったそうですが、この場所で演じてみていかがでしたか?

のん: そうそうたる文豪の方たちが実際に泊まった部屋を使用させていただき、緊張もありましたが、至福の時でした。予告編にも使用されていますが、東十条先生の原稿にシャンパンをかけるシーンがあって「この机で文豪の方たちが原稿を書いていたかもしれない」と思うと、すごくいけないことをしているような気分になり、興奮しました(笑)。

朝日新聞telling,(テリング)

――しがらみだらけの文学界で、新人賞を受賞したのにまだ単行本を出版したことのない加代子。新人作家でありながら、大御所作家も利用するホテルに自腹で宿泊します。のんさんも日頃、背伸びをして贅沢な時間を味わう瞬間はありますか?

のん: 最近ようやくわざわざ旅することの楽しさがわかってきて、私も加代子のように、いいホテルに泊まって、ゆったりとした時間を過ごすことがあります。特に自然の音しか聞こえないような静かな空間が好きで、そこで台本を読むと、いつもよりずっと集中できるんです。ホテルだと掃除や料理をお任せできるので「目の前のことだけに没頭する時間」をもらいにいく感覚ですね。ちょっと背伸びして源泉掛け流しの温泉がついている部屋にしちゃおうかな、なんて選んでいる時間も贅沢に感じます。

今の自分を培った10代の頃の「何もない時間」

――加代子は、文壇の権威の象徴である東十条先生の酷評によってデビューの場を失い、まだ単行本を出してもらえない状況にありますが、大学時代の先輩で大手出版社の編集者・遠藤道雄(田中圭さん)の力も借り、いつかのし上がってやると闘志を燃やしています。のんさんにも、加代子のようになかなか評価を得られないと感じた時期はありましたか?

のん: 加代子のようなフラストレーションを私が抱えていたのは、10代の頃です。オーディションになかなか受からず「もっと演技をしたいのに」と、ずっと思っていました。思うように評価が得られなくて、鬱屈した思いを抱えていましたね。

ただ時間はたっぷりあったので、映画を観たり、散歩をしたり、友達と遊んだり、意味もなく降りたことのない駅に降りてみたりと、インプットに時間を使うようにしていました。本屋さんで一日中過ごして、あまりに長い時間いるから、店員さんから「何をしに来たんだろう」と怪しまれているのではないか、いやいや店員さんの目をかいくぐってもうちょっと居座ろう、なんて勝手に脳内で店員さんと攻防を繰り広げたことも(笑)。何もない時間をすごく楽しんでいましたね。今の自分が好きなものは、10代のその時間で培われた気がします。

朝日新聞telling,(テリング)

――ひと芝居を打つなどさまざまな作戦を講じてチャンスをつかみ取ろうとする加代子はなんともたくましいですが、気持ちを切り替えられずに、鬱屈した気持ちを引きずってしまうと「評価されないということは、自分には向いていなかったのか」「才能がなかったのかも」と考えてしまう人もいると思います。どうすれば自分を諦めずにいられるのでしょうか。

のん: 誰かの気持ちや評価が入り込む余地がないくらい、純度の高い好きなものを見つけた人は、強いですよね。加代子の「自分の書いたものをたくさんの人に読んでもらうんだ」という情熱が途切れないのは、すごく純粋に、小説や書くことが好きだからだと思うんです。その「好き」の純度が高いから、評価されなくても強くいられるし、敵も味方も振り回すくらいのバイタリティが生まれるんじゃないかな。

加代子は本当に孤独だと思うんです。味方だと思っていた人も100%味方というわけではなかったり、同じ気持ちを共有している人が、自分の小説家としての人生を邪魔している人だったりする。周りが敵だらけで、たったひとりで戦っているんですが、あそこまで強くいられるのはなかなかできません。私は、自分の好きな気持ちに賛同してくれる人を見つけて、話を聞いてもらうことも大切にしています。

朝日新聞telling,(テリング)

「好き」を見つけるセンサーを磨いて

――これから“純度の高い好きなもの”と出合いたい人へのアドバイスはありますか?

のん: 自分の「これが好き」と思えるセンサーを鋭くしていくこと。自分の好きな気持ちを認めるまでは、「誰かに何か言われるかも」「他の人から見たらそんなに素敵じゃないのかも」と、いろいろな気持ちが湧き上がるかもしれません。でも、そんなことは置いておいて「自分は一体これの何が好きなんだろう?」と考えていくと、他にも自分がいいなと思うものと自然とつながっていくんですよね。そうすると「私はこういうものが本当に好きなんだ」と確信が持てていく。その「好き」のつながりを辿っていった先で、“純度の高い好きなもの”を見つけられるんじゃないかな。

スタイリスト:町野泉美
ヘアメイク:菅野史絵

■塚田智恵美のプロフィール
ライター・編集者。1988年、神奈川県横須賀市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後ベネッセコーポレーションに入社し、編集者として勤務。2016年フリーランスに。雑誌やWEB、書籍で取材・執筆を手がける他に、子ども向けの教育コンテンツ企画・編集も行う。文京区在住。お酒と料理が好き。

■植田真紗美のプロフィール
出版社写真部、東京都広報課写真担当を経て独立。日本写真芸術専門学校講師。 第1回キヤノンフォトグラファーズセッション最優秀賞受賞 。第19回写真「1_WALL」ファイナリスト。 2013年より写真作品の発表場として写真誌『WOMB』を制作・発行。 2021年東京恵比寿にKoma galleryを共同設立。主な写真集に『海へ』(Trace)。

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