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留学前は知りもしなかった、長く楽しい夢から覚め「帰る」ことの怖さ

  • 2024.12.23

「年寄りのいいところは、驚かなくなることね」

映画「ハウルの動く城」でソフィーが言っていた。

◎ ◎

初めて映画を観たときはそんなものなのかとしか思っていなかったが、今となっては少しだけわかる気がする。まだ年寄りというには程遠い年齢だけれど、およそ10年前に高校を卒業したばかりの何も知らない頃に比べれば、驚く頻度も格段に減った。驚くことが減るということは、得体の知れないものに出会ってもだいたい冷静でいられるということ、すなわち怖がることも減ったのである。

私は今、海外留学をしている。同じような繰り返しの日々に飽き、「ちょっとここらで世界を見に行ってみるか」と思い至って仕事を辞め、この身ひとつで日本を飛び出してみた。
留学といえば未知なるもののオンパレードだ。目新しい世界と言葉の異なる環境、見知った人のいない街で一から生活を始めなくてはならない。環境的にも心理的にも“怖い”と感じることが多くなるはずだ。だが、 “楽しい”という感情が圧倒的であり、 “怖い”と思うことはほぼないと言っても過言ではなかった。経験に裏打ちされた度胸と、怖いと感じる暇さえないくらい充実した毎日のおかげである。

◎ ◎

渡航後数ヶ月。怖いものなどないと思って過ごしていたのだが、最近ふと怖いと思ったことがある。それは、非日常のような今の日常がいつか終わってしまうことである。

社会人経験を経ての留学は学生の頃とはまた違った視点でものを見ることができ、なかなか楽しい。しかしその分、学生の頃よりも現実世界を知っている。楽しい時間を過ごしたあとにまた単量な現実へ引き戻されるときの気持ちの落差、離れがたい場所を無理矢理引き離されるようなつらさは、何度経験しても苦しい。

今過ごしている日々はある意味で長く楽しい夢を見ているようなものであり、いつかまた元の日常に帰らなくてはならない日が来る。これが何よりも怖い。具体的なものではなく抽象的な感覚である分、その怖さは何倍も大きい。一度怖いと思ってしまうと、もうそれを怖いと思わなかった頃には戻れず、どんどんその感情に引きずられてしまう。元いた場所に戻るだけのはずなのに、時間と共にそこはいつの間にか遠く見知らぬ世界になってしまい、そこでどのように過ごしていたかさえわからなくなってしまう。帰りたいはずの場所が“怖いから帰りたくない場所”になってしまった。

◎ ◎

それでも日々は刻一刻と過ぎていき、未来は遠ざかるどころか近づいてくるばかりである。経験上、たとえどんなに怖くてもいつかは立ち向かわなくてはならないことも知っている。怖がっていても仕方がないから、怖いと思う暇があるならその感情の扱い方を考える。今のところの打開策としては「怖いと思うから怖くなるのであり、怖いと思わなければいい」「怖くない未来に変えてやればいい」である。

結局のところ、私が怖がっているものは実体のないものなのだから、考え方や視点を変えれば怖くなくなるのである。今は怖いけれど、時間と共に全く怖くない世界になるかもしれない。もっと楽しい未来に変えられるかもしれない。得体の知れないものだから怖いが、だからこそ自分次第で怖くないものにだってできるから、自分を信じて前に進んでいこうと思う。

■紗愁のプロフィール
映画と本と語学が好きな社会人。バルト三国と中華ファンタジーに夢中。チョコレートをこよなく愛す。

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