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岡村靖幸「吉川晃司、尾崎豊と知り合えたことは幸福だった」。対談集『幸福への道』で語った“人と会う情熱”【インタビュー】

  • 2024.12.21

岡村靖幸が、ゲストに「幸せとは何か?」について話を聞く「週刊文春WOMAN」の連載をまとめた書籍『幸福への道』(文藝春秋)が発売された。2018年からコロナ禍を経た現在に至るまで、神田伯山、千原ジュニア、オードリー・タン、吉川晃司といった多彩なゲスト22人と対談。芸能から政治、社会問題までさまざまなテーマについて語り合う時間に、岡村はどう向き合ったのだろうか。取材にかける思いや、岡村が考える幸福の形まで、幅広く話を聞いた。

幸福は十人十色。「幸福とは?」はみんなのテーマだから面白い

――「幸福」というと岡村さんのアルバム『幸福』が思い出されますが、あのジャケットの絵を見た時、岡村さんが、結婚や子育てというありふれた幸福を、畏怖を抱くものとして捉えていると感じました。

あの絵を描いてくださったのは会田誠さんなんですけど、僕は『幸福』というタイトルを伝えただけで、何のリクエストもしなかったんですよ。会田さんが、僕自身がああいうものを望んでるのではないかという想像のもとに描いてくれたんだと思います。

――あの絵をご覧になった時はどう思われましたか?

ああいうささやかで、簡単そうで手に入らないプライスレスな瞬間が幸せなんだろうなと思いました。僕があの絵を描いてくれと言ったわけではないけど、それに気づかされましたね。会田さんは僕と同い年で、彼はお子さんがいますけど、いろんな経験をして、いろんなことを感じて至った心境で、あれを描いたんだと思います。

――あのアルバムは、なぜ、「幸福」というタイトルをつけたのでしょうか。

幸福って十人十色ですよね。たとえば、いいマンションに住むとか、いい車を持つとか、物質的なものに依存してる人や、恋愛を最上の幸せと考えている人もいて。家族を作ることや子育てを最上の幸福と思ってる人もいるし、社会的な地位や、趣味を楽しむことを最上と思ってる人もいる。幸福というのは、人によっても違うし、年齢によっても変わっていくものなのかもしれませんね。だから面白いし、みんなが「幸福ってなんだろう」ということに共感するだろうなと。それに、わかりやすいタイトルなのにあまり聞いたことがないから、これはいいなと思ってつけました。

「結婚」の先にある「幸福」とは何かをみんなに聞いてみたい

――2018年に「週刊文春WOMAN」で「幸福への道」という連載をスタートされましたが、幸福というのは、それ以前から興味のあるテーマだったのでしょうか。

以前、マガジンハウスの雑誌「GINZA」で6年、「結婚への道」という連載をやっていて、毎月、いろんな人に結婚について聞いたんです。「結婚とはどういうものですか?」とか「子どもを作ることをどう感じていらっしゃいますか?」とか、何度も結婚されている方に「離婚って?」ということを聞いたりして、それをまとめた本も2冊出したんですけど。それがいち段落した後、今度は文春WOMANさんが「連載をやりましょう」と言ってくれたんです。そこでまたひとつ、ステージを変えて、結婚の先にある「幸福」についていろんな人に聞いてみましょう、ということで始まりました。

――この連載では、幸福に関してだけではなく、芸能や宗教や政治、社会問題などの幅広いテーマに言及されていますが、連載開始時から、これほど話題が幅広いテーマに及ぶとイメージされていましたか?

週刊文春WOMANでの連載なので、文春らしい連載になるとは思ってはいました。「結婚への道」はファッション誌での連載で、華やかさや写真も大事にしていたのに比べると、この連載は、もっと記事の内容に力を入れたものになるだろうなと。スターや有名人だけでなく、週刊文春WOMANの読者が興味を持つようないろいろな方にお話を聞くことになると思っていましたし、実際、そうなりましたね。

相手を楽しませるためインタビューを盛り上げようと腐心

――岡村さんは以前も取材のための勉強が楽しいとおっしゃっていましたが、各ジャンルの専門家の方へのインタビューは、事前準備が特に大変ではありませんでしたか?

そうですね。でも、歳を重ねるとだんだん勉強する機会が減っていくので、隔月のインタビューをきっかけに勉強させてもらえるのは恵まれていると思います。普通、勉強するとしたら、自主的に学校に行ったり本を読んだりするんでしょうけど、仕事のために勉強しなければならないというのは有難いことだし、どのジャンルの方に関しても勉強するのは楽しくて。特にこの連載は、対談相手が芸能関係ではない方が多いので、勉強のしがいがあります。僕があまり気を使われることもないのも良いです。別に週刊文春WOMANに載らなくてもかまわない、という方もいるでしょうし。

――岡村さんのことをご存じない方もいるかもしれないですよね。

僕を知らない人もいらっしゃるので、相手の方もこの連載に興味を持ってくれて、話すのが楽しいと思ってもらえるように、インタビューをなるべく盛り上げようということには腐心しましたね(笑)。

――この本の冒頭に収録されている神田伯山さんとの対談も、かなり事前準備をされましたか?

そうですね。インタビュー前に講談とはどういうものなのかをいろいろ調べましたし、伯山さんの寄席も見に行きました。それもとても勉強になりましたし、実際に話すと、彼の人となりは「歯に衣着せぬ男」というパブリックイメージとはまた違っていて、それを知れたのも面白かったですね。

お酒でみっともない姿をさらせることも幸せ

――神田さんとの対談では、岡村さんが「お酒で惨めったらしい気分になって生まれる音楽がある」というお話をされていたのが印象的でした。僕は岡村さんの“Lion Heart”にある「今日はどんなお酒でも酔えないよ」という歌詞は、まさにそういう感覚なのかなと思いました。

もしかしたらそうなのかもしれないですね。

――でも、お酒を飲んで惨めな気持ちになって曲を書くことと、一般的な幸福は、イメージが結構遠いような気がします。

かもしれませんね。でも、お酒を飲んで酔えるとか、お酒飲んで憂さを晴らせるとか、お酒を飲んで、普段は言えない恥ずかしいことを言えること自体が、格好は良くないですけど、健康じゃないとできないことですからね。友達がいないと憂さを晴らすような話もできないし。本当に不幸な状態は、お酒さえも飲めないとか、お酒を飲んでも一緒に憂さを晴らせる友達がいないことであって。惨めったらしい姿をさらしても、お酒や友達に甘えられること自体、幸福なんだと思いますね。

――ちなみに岡村さんは、ここ数年お酒を飲み始めたそうですが、それまではお酒に興味がなかったんですか?

お酒、あんまり美味しいと思わなかったんですよ。

――今は、美味しいから飲まれているんですか?

今は美味しいですね。それにお酒って、コミュニケーションツールとしては最強ですから。対談をきっかけに仲良くなった人も何人かいて、その後、お酒の場で会うようにもなって。するとやっぱり、お酒がお互いの心をほぐすから、もっと深い話ができたり、もっと惨めったらしいエピソードが聞けたりするのが、楽しいものですよね。それを話すこと自体に、自分自身の浄化作用もありますしね。

40年前、人と会うことはもっと情熱的だった

――吉川晃司さんとの対談で語られていた、尾崎豊さんとの3人のエピソードはとても素敵で、それを語るおふたりは幸せそうでした。

そうですね。吉川さんと出会ったのは19歳か20歳ぐらいですから、40年近い付き合いになるわけですね。40年近くこの世界でサバイブしてる彼を本当に誇らしく思います。今も第一線で大河ドラマに出たり、文春が彼との対談をしてほしいと思うような人物であることも、40年来の友人として誇らしいです。

――今、振り返ると、3人で遊んでいた頃は幸せだったと思いますか?

振り返ってみて幸せだったかどうかはわからないけど、いい人たちと出会えたなと思いますね。今、言ったように吉川晃司さんは今でも活躍なさってるし、尾崎豊さんは未だにリスナーに愛されているし、そういう人たちと知り合えたことは幸運だし、幸福だと思いますね。

――仲が良かったというのは有名な話ですが、3人の写真が残っていなくて。そのエピソードが、思い出の中だけに残っているのも尊いなと感じます。

当時はiPhoneもなかったし、カメラを持ち歩くわけでもないですから。ぱっと写真を撮ろう、みたいな時代ではなくて。留守電さえなかったですからね。

――それでも毎晩、会えたわけですよね。当時はいい時代だったな、という感覚もありますか?

今のようなネットが普及した情報過多社会に比べると、当時は、人と会うことに非常に喜びを感じていましたよね。人と会うことや、本やテレビ、ラジオからしか情報を得られなかったので、人と会う時は、本当に真剣に会っていたと思います。いつ会えなくなるかわからないから、一期一会感もすごくあったし。若い方は知らないと思うんですけど、駅に掲示板があったんですよね。当時、携帯がないので、カップルが待ち合わせで会えなくて連絡が取れなくなると、「何時にどこで待ってる」って掲示板に書き残したりして。当時の人と会う時の情熱っていうのは、やっぱり、今の感覚とは違う気がしますね。

取材=金沢俊吾、文=川辺美希、撮影=杉山拓也(文藝春秋)

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