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【生ける仏】推定188歳とSNS上で話題になった老人の正体とは?

  • 2024.12.21
Credit:canva

骨と皮だけのしなびた肉体、年輪のように深く刻まれた全身のシワ。

ひと目見ただけで、この老人が何か特別な存在であることが伺えます。

この老人は最近、SNS上で大きな話題を集めた人物で、当初は「洞窟から救出された188歳の男性である」との説明付きで世界中に拡散されました。

しかし皆さんもご想像の通り、これが誤った情報であることはすぐに明らかになっています。

ただ、異様な雰囲気をまとい、人々の視線を一点に集めるこの老人が実在することは確かです。

では、彼は一体何者だったのでしょうか?

目次

  • 老人の正体はヒンドゥー教の聖人「シヤラム・ババ」と判明
  • 先日「94歳で亡くなった」と報道される
  • 「即身仏とは?」生きながら自らをミイラにするための修行

老人の正体はヒンドゥー教の聖人「シヤラム・ババ」と判明

この映像がSNS上で最初に拡散された際は「インド南部のベンガルール近くにある洞窟から救出された188歳の男性である」とキャプションで説明されていました。

しかし動画が多くの注目を集める中で、直ちにその内容が誤りであることが指摘されています。

こちらが最初に拡散された実際の動画。

識者によりますと、この老人は「シヤラム・ババ(Siyaram baba)」という名前の男性で、ヒンドゥー教の導師(グル)として、インドのヒンドゥー教徒の間では非常に有名な人物だといいます。

シヤラム・ババはインド中央部のマディヤ・プラデーシュ州にあるカルゴン地区に居住しており、ヒンドゥー教の聖典の一つ『ラーマーヤナ』の教えに生涯を捧げてきました。

ヒンドゥー教に基づいた厳格なライフスタイルで知られており、1日に21時間(!)にわたって聖典を読み続けていたり、瞑想と祈りに時間を費やしていたというのです。

また厳しい苦行の一環として、約10年間にわたり片足で立って生活するという偉業も成し遂げたと伝えられています。

シヤラム・ババは基本的に薄いふんどし一枚だけを身につけており、現代人のように冷房や暖房を一切使用することなく、どんな気候も同じ姿で生活し続けました。

周囲の人々は「シヤラム・ババは長年の瞑想と精神的な修行によって、どんな過酷な気候条件にも体を適応させられる能力を手にいれたのだ」と信じられています。

聖典を読むシヤラム・ババの様子。

彼の生き方は多くのヒンドゥー教徒の尊敬を集め、しばしばインド中から教徒たちが彼の元を訪れ、祝福や導きを求めてきました。

そのためか、シヤラム・ババは教徒たちから膨大な額の寄付金を受けたのですが、彼は命を繋げるだけのわずかな食糧を買うこと以外にはお金を使わず、残りはすべて寄付に回したのです。

そして彼の実際の年齢は188歳ではなく、110〜120歳が正しいとされていますが、実は調べてみると、この情報も正しくはありませんでした。

というのも「シヤラム・ババは最近、94歳で亡くなった」とするニュースが報じられたからです。

先日「94歳で亡くなった」と報道される

タイムズ・オブ・インディアによると、シヤラム・ババは12月11日(水)の午前6時10分に肺炎のため亡くなったと伝えられています。

彼の葬儀も先日執り行われ、多くの教徒たちが訪れました。

こちらが葬儀の一部を撮影したニュース映像です。

(※ 音量にご注意ください。ニュースタイトルには「110歳」とありますが、説明文には「94歳で亡くなった」とあり、こちらが正しい情報と見られる)

また報道によると、シヤラム・ババの亡骸は最後のダルシャンのために保管されたと述べられています。

ダルシャンとは、ヒンドゥー教において「聖人との謁見」を意味する宗教用語であり、聖人に会うこと、そして足に触れることで徳を積もうとすることを指します。

シヤラム・ババはまさに、日本の仏教でいう「即身仏(そくしんぶつ)」のような存在となったのです。

ここまで述べてきたシヤラム・ババの信心深く、質素で厳しい生活は、即身仏になるための修行と非常に近似していました。

「即身仏とは?」生きながら自らをミイラにするための修行

即身仏とは主に、日本の仏教に見られる僧侶のミイラのことを指す言葉です。

即身仏の歴史は古く、疫病や飢饉に苦しむ人々を救うために、僧侶が自らの意思で自らの肉体を生きながらミイラ化し、死してなお衆生の救済を祈り続ける生き仏になるという目的がありました。

即身仏になるには、非常に過酷で厳しい苦行に耐えなければなりません。

まず、死んだ後に肉体が腐ってしまわないよう、全身の脂肪分をできるだけ削り落とす必要がありました。

そこで僧侶たちは米を含む穀類の摂取を絶って、木の実や葉っぱの芯を中心に食べていたのです。

さらに体の防腐目的として漆(うるし)を混ぜたお茶を毎日飲んでいました。

これにはまた、体の拒絶反応を起こして嘔吐することで、体の水分を少なくする目的もあったといいます。

江戸後期の書籍『北越雪譜』(ほくえつせっぷ)』に描かれた即身仏のミイラの図絵/ Credit: ja.wikipedia

この恐るべき苦行は約3000日間続き、体が限界に近づいてくると、僧侶は深さ3メートルほどの石室にこもり、完全な断食に入ります。

そして僧侶は読経を繰り返しながら、鈴を鳴らすのです。

なぜ鈴を鳴らすのか?

それはまだ自分が生きていることを外の者に伝えるためです。

この鈴が聞こえなくなったら、僧侶は永遠の瞑想に入ることを意味する「入定(にゅうじょう)」の状態に移ったと判断され、そのミイラ化した肉体が即身仏として祀られました。

シヤラム・ババの生前の生活も形は違えど、仏教でいう即身仏になるための修行に近いものだったと言えるのではないでしょうか。

参考文献

Who is Siyaram Baba and why he is trending
https://timesofindia.indiatimes.com/etimes/trending/who-is-siyaram-baba-and-why-he-is-trending/articleshow/116234381.cms

Who is Siyaram Baba and why is ‘188-year-old’ man trending on social media?
https://english.mathrubhumi.com/news/india/siyaram-baba-cave-rescue-video-fact-check-188-year-old-man-1.9960410

Who is Siyaram Baba? Madhya Pradesh’s revered saint passes away at 94
https://www.livemint.com/news/trends/who-is-siyaram-baba-madhya-pradeshs-revered-saint-passes-away-at-94-11733896655967.html

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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