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『カルキ 2898-AD』とインド神話「マハーバーラタ」のつながりとは!?これさえ知っていれば映画が120%楽しめる!

  • 2024.12.21

世界中で注目されているインド映画界から、なんとあの『RRR』(22)を超える110億円の製作費をかけた、インド史上最大規模のSFスペクタクルアクション『カルキ 2898-AD』が2025年1月3日(金)に、日本で公開される。

【写真を見る】『RRR』を上回る製作費110億円をかけたインドが贈る超大作『カルキ 2898-AD』をイラストで徹底解説

本作の主演は、「バーフバリ」シリーズや『SALAAR/サラール』(23)のプラバース、ボリウッドの美の女神ディーピカー・パードゥコーン、そして伝説の大俳優アミターブ・バッチャンである。インドを代表する新旧の大スターたちが共演する夢の映画というだけでもすごいのだが、本作のストーリーはインド神話や古代インド叙事詩「マハーバーラタ」が下敷きになっていることでも注目されている。

本稿では『カルキ 2898-AD』の魅力や見どころ、本作を観る前に読んでおいてほしい、背景となる「マハーバーラタ」のあらすじをイラストとともに紹介していきたい。

未来世界を舞台に繰り広げられる爽快なSFアクション『カルキ 2898-AD』

【写真を見る】『RRR』を上回る製作費110億円をかけたインドが贈る超大作『カルキ 2898-AD』をイラストで徹底解説 [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
【写真を見る】『RRR』を上回る製作費110億円をかけたインドが贈る超大作『カルキ 2898-AD』をイラストで徹底解説 [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.

『カルキ 2898-AD』は、「マハーバーラタ」の大戦争から物語がはじまる。大戦争の後、神の呪いによって不死となった英雄アシュヴァッターマン(アミターブ・バッチャン)は、いつの日かこの世に生まれてくる救世主の母親を守る運命を背負うことになった。

6000年後。世界は荒廃し、地上最後の都市カーシーは、巨大要塞コンプレックスに支配されていた。運命の子を身籠った女性をめぐり、反乱軍とコンプレックスが衝突するなか、賞金稼ぎのバイラヴァ(プラバース)は、不死身の戦士アシュヴァッターマンと出会う。彼らの運命が交差するとき、新たな物語が幕を開ける。

本作は、「スターウォーズ」や「デューン」シリーズを彷彿とさせる未来世界を舞台に、バイラヴァたちが縦横無尽に活躍する爽快なSFアクション映画だ。インド神話や「マハーバーラタ」を知らなくても十分に楽しむことができるだろう。しかし、ほんの少しだけ背景となる文化を理解しておくと、おもしろさが何十倍にも跳ね上がる。

話の根幹になる「マハーバーラタ」とは?

スマティを守ろうとするアシュヴァッターマンと、スマティにかけられた懸賞金を狙うバイラヴァ [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
スマティを守ろうとするアシュヴァッターマンと、スマティにかけられた懸賞金を狙うバイラヴァ [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.

「マハーバーラタ」を一行で説明すると「正義の五人の王子と悪の百人の王子が、王位継承権をめぐって争い、大戦争で多くの人が亡くなる」という悲しい話である。しかし、インドでは国民的な人気があり、「マハーバーラタ」のエピソードは、子どものころからテレビドラマや映画、小説、漫画や絵本など、様々なかたちで親しんでいる。日本で例えるとすれば、「桃太郎」や「平家物語」「忠臣蔵」の立場に近い作品と言えるかもしれない。

「マハーバーラタ」は紀元前3世紀から紀元後3世紀ごろに形になったと考えられている。全18巻という大長編で、王家の物語を中心としながら、ヒンドゥー教の聖典としての神話や宗教的な規範や思想、説話などが挿話として山ほど盛り込まれている。そのためインド文化に馴染みがない人には理解しづらい箇所もあるかもしれない。

でも、安心してほしい。ここに「マハーバーラタ」の中核となるエピソードを、3分で読める内容にまとめてみた。これさえ知っていれば『カルキ 2989-AD』を楽しむことができる。

3分でわかる「マハーバーラタ」のあらすじ

パーンドゥ王の五王子は、すばらしい資質をもっていた。しかし、パーンドゥ王は若くして亡くなり、盲目であった兄弟が王位を継いだ。盲目王には百人の王子がいたが、長男であるドゥルヨーダナは、邪悪で嫉妬深い性格の持ち主だった。一方、パーンドゥ王の長男・ユディシュティラは人望があり、「ドゥルヨーダナよりユディシュティラのほうがクル国の次期王にふさわしい」という声が上がっていた。不安に苛まれていたドゥルヨーダナは五王子を憎み、暗殺しようと計画する。命をねらわれた五王子は城を逃げ出し森で暮らした。その後、盲目王は五王子に領地を与え、百王子と争わないように取り計らった。五王子の都はとても栄えた。

インド人なら誰もが知っている神話「マハーバーラタ」 イラスト/石川三千花
インド人なら誰もが知っている神話「マハーバーラタ」 イラスト/石川三千花

しかし、美しい都を見たドゥルヨーダナは嫉妬し、五王子から富を奪おうと、「敗者は12年間森に住んだあと、1年間正体を知られることなく隠れて暮さねばならない」という条件を挙げ、叔父と一緒に謀ったイカサマ賭博にユディシュティラを誘う。百王子の謀略が成功し、すべてを失った五王子は、国を出て放浪生活をすることになった。13年後、約束の期限がきたので五王子は国に戻ったが、百王子は奪ったものを何も返さなかった。

五王子と百王子の諍いはすぐに周辺国を巻き込んだ大戦争に発展した。どちらの陣営にも、神の武器を使える戦士たちがいた。戦いは激しさを増し、大地は血で染まり、数多の兵が亡くなった。誰も戦争を止めることができず、戦況は混沌としていき、五王子たちは勝利を収めるために不正を行う。最終的に五王子が百王子陣営を倒したが、五王子と僅かな者しか生き残らなかった。

戦争のあと、国を平和に統治した五王子たちは、寿命を悟りヒマラヤにある天国へと向かい、この世を去った。

悪役すら憎めない!魅力的に「マハーバーラタ」のキャラクターたち

映画と神話のアシュヴァッターマンはどう違う? [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
映画と神話のアシュヴァッターマンはどう違う? [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.

「マハーバーラタ」では、秩序を守るパーンダヴァ(五王子陣営)は正義で、秩序を乱し、欲望に忠実なカウラヴァ(百王子陣営)は悪だ。しかし、どちらの陣営にも個性的な人物が勢揃いしている。

五王子の長兄ユディシュティラは、正義の神ダルマの子である。次男のビーマは風神ヴァーユの子で、大食漢で力持ち。一番人気は三男のアルジュナだ。彼は雷神インドラの子で、神弓ガーンディーヴァを操る類稀なる弓使いである。双子のナクラとサハデーヴァは、アシュヴィン双神の子である。四男のナクラは見目麗しく剣が得意、五男のサハデーヴァはとても賢かった。

実は五王子たちの本当の父は神々である。パーンドゥ王は呪いで子を成せなかったので、妃のクンティーが持っていた神の子を授かる呪文を使い、五王子を授かったのだった。

五王子たちに力を貸すのは、ヤーダヴァ族の王であるクリシュナだ。クリシュナは実はヴィシュヌ神の化身である。大戦争では、クリシュナはアルジュナの御者となり、アルジュナに人の生きる道を解く。クリシュナとアルジュナの対話は「バガヴァッド・ギーター」と呼ばれ、ヒンドゥー教でもっとも重要な聖典とされている。

運命の子を身籠ったスマティ [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
運命の子を身籠ったスマティ [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.

五王子共通の妻となったドラウパディーはとても強い女性だ。彼女はイカサマ賭博のあと、公衆の面前で百王子の次男ドゥフシャーサナに服を剥がされそうになった。辱められたドラウパディーはカウラヴァを恨み、夫たちにカウラヴァを倒すようにと願い続ける。

一方、悪役のカウラヴァ陣営にも魅力的な人物がいる。両陣営の王子たちの成長を見守り、戦争を反対していた長老ビーシュマ。大戦争の元凶であるにもかかわらず、どこか憎めない百王子の長兄ドゥルヨーダナ。アルジュナのライバルであるカルナ。額に宝石がある戦士アシュヴァッターマン。聖仙から武術を習った最強のバラモンであるドローナは、アシュヴァッターマンの父であり、王子たちの師である。

「マハーバーラタ」では、パーンダヴァが正義であるが、現代では既存のルールや身分制度を壊し、新しい世界を作る存在としてカウラヴァが注目されることがあり、カウラヴァ側の人物を主人公にした小説や映画も登場している。「マハーバーラタ」は地方によってさまざまなバージョンがあり、内容を短くまとめた抄訳本や再話本もある。日本語に翻訳されている作品あるので、気になったら読んでみるのもおすすめだ。

冒頭の映像がわかれば、『カルキ 2898-AD』をより楽しめる!

最強の賞金稼ぎバイラヴァと、不死身の戦士アシュヴァッターマンの闘いが見どころ! イラスト/石川三千花
最強の賞金稼ぎバイラヴァと、不死身の戦士アシュヴァッターマンの闘いが見どころ! イラスト/石川三千花

『カルキ 2898-AD』は、「マハーバーラタ」の大戦争のクライマックスからはじまる。カウラヴァ軍の長老ビーシュマは死期を悟り、身体中に受けた矢を寝床にして戦場を見守る。パーンダヴァ軍のアルジュナの息子アビマニユは、孤立無援の状態で武器を奪われ、車輪(チャクラ)を手にして果敢に戦うが、敵に取り囲まれて惨殺されてしまう。

カウラヴァ軍のドローナは、「象のアシュヴァッターマンが死んだ」というユディシュティラの声を聞いて、息子のアシュヴァッターマンが戦死したと勘違いし、戦いを止めたところを殺される。ユディシュティラはクリシュナからの提案で、ドローナの戦意を挫くためにわざと言ったのだが、ドローナは高潔なユディシュティラの言葉を信じてしまったのだ。

その後、カウラヴァ軍は劣勢になり、ドゥルヨーダナはビーマに敗れる。父を騙し討ちにされ、主も倒されたアシュヴァッターマンは、復讐のためにパーンダヴァ軍を夜襲で皆殺しにしたあと、神の武器でパーンダヴァの血を引く胎児を殺す。アビマニユの妻ウッタラーの腹にいた子は、のちにクリシュナに命を救われた。

地上最後の都市カーシーを支配するスプリーム・ヤスキンの目的は… [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
地上最後の都市カーシーを支配するスプリーム・ヤスキンの目的は… [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.

胎児殺しの罪を背負ったアシュヴァッターマンは、クリシュナに呪われ不死となり、額の宝石を奪われ、3000年間世界を放浪することになる(映画では6000年だが)。ヒンドゥー教の価値観では来世が救いであるため、現世を生きながらえることは最大の罰なのである。

また、カウラヴァにはもう1人、有名な戦士がいる。カルナだ。カルナは五王子たちを苦しめる悪役だが、本来は五王子たちの兄で、太陽神スーリヤの息子である。母クンティーは神の子を授かる呪文を使い、カルナを身籠ったが、結婚前だったので生まれてすぐに川に流した。拾われたカルナは御者の子として育ち、王子たちと一緒にドローナの教えを受ける。カルナは御前試合で身分が低いと五王子に馬鹿にされるが、ドゥルヨーダナに実力を認められ、アンガ国を得て王となった。ドゥルヨーダナとカルナは永遠の友情を結んだ。

カルナはアルジュナとの決戦のとき、埋まった戦車の車輪を引き上げようとしていたところを、アルジュナに射殺される。カルナは出自を知ったあともドゥルヨーダナに仕え、数々の呪いを受けつつも宿命の相手であるアルジュナと戦い、戦場に散った。悪役ながらその姿は今でも人々を魅了し続けている。

『カルキ 2898-AD』と「マハーバーラタ」のつながりとは?

登場人物たちの対立関係が一目でわかる! イラスト/石川三千花
登場人物たちの対立関係が一目でわかる! イラスト/石川三千花

では「マハーバーラタ」と、6000年後の未来がどうつながっているのだろうか。本作は、インド人が待ち望んだ「マハーバーラタ」の続きを、舞台を未来に移して描いた作品である。「マハーバーラタ」の中では、不死になり世界を彷徨う罪を背負ったアシュヴァッターマンが、その後どうなったかは語られていない。

しかし、本作は「マハーバーラタ」をただ焼き直したものではない。アシュヴァッターマンは未来の救世主を守るよう命じられるが、このような設定は「マハーバーラタ」には無い。ほかにもコンプレックスの主の目的など作中の謎は多く、映画がどのような結末を迎えるのか誰も予想できない。

また、映画のタイトルにもなっているカルキとは、ヒンドゥー教の主神であるヴィシュヌ神の十番目の化身である。白馬に乗り、剣を携えた姿で描かれるカルキは、世界の終末にあらわれる救世主とされる。「マハーバーラタ」よりも後の時代にできた聖典では、シャンバラで生まれたカルキが人々を救うという物語がある。

インド映画の最新型を体験できる『カルキ 2898-AD』 [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
インド映画の最新型を体験できる『カルキ 2898-AD』 [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.

つまり本作は、インド神話の「マハーバーラタ」と「カルキ伝説」をミックスした世界を下敷きにしつつ、新たな解釈で未来を描いた作品なのである。

映画の舞台となるカーシーは、ガンジス川流域にあった古代王国の名前でもある。古代と神話とSFの融合はいかにもインドらしい構想である。設定を盛りすぎと思う人もいるかもしれない。

しかし、インドではかっこいい設定はいくら盛っても問題ない。むしろこれは古代から続く伝統だ。額に宝石があり、大地を揺るがす神の武器が使え、荒ぶるシヴァ神の力を宿し、呪いで不死になった最強の戦士アシュヴァッターマンが証明してくれる。山盛りの設定を楽しむのがインド映画の醍醐味と言えるだろう。

最強の賞金稼ぎバイラヴァ(プラバース) [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.
最強の賞金稼ぎバイラヴァ(プラバース) [c]2024 VYJAYANTHI MOVIES. All Rights Reserved.

筆者は本作の日本公開を心待ちにしていたインド映画ファンの一人である。本作はインドでの公開前から日本でも話題になっていた。仮題「Project K」が「Kalki 2898 AD」と発表されたとき、プラバースの新作はいったいどんな作品なのかと心躍った。インドで一足先に本作を観た友人たちは、興奮気味に感想を語り、インド神話だと口を揃えて言った。そのため、観る前に心の準備はしていたつもりだった。しかし甘かった。それだけではなかった。

敵を圧倒する力があるにもかかわらず、ピュアな心を持ったバイラヴァは、プラバースのイメージにぴったりだった。人の命が軽すぎるディストピアで、運命に抗う女性を演じたディーピカー・パードゥコーンは、強く美しかった。そしてアミターブ・バッチャンのアシュヴァッターマンは、あまりにもアシュヴァッターマンその人だった。現代の生ける伝説が、神話時代の伝説の戦士を演じたのだ。ありがたくて手を合わせてしまった。

ギャップ萌え!実はお茶目などころもあるバイラヴァ イラスト/石川三千花
ギャップ萌え!実はお茶目などころもあるバイラヴァ イラスト/石川三千花

観終わったとき、インドに新たな神話が生まれようとしている、まさにその瞬間を目にすることができたのだと思い、思わず天を仰いだ。

『カルキ 2898-AD』は、インド神話を下敷きにした、壮大なスケールで描かれるシネマティック・サーガである。賞金稼ぎのバイラヴァは、本作でどのような役割を負うのか。アシュヴァッターマンは使命を果たすことができるのか。そして運命の子を宿した女性の運命は。ぜひ映画館で彼らの活躍をその目で確かめてほしい。

文/天竺奇譚

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