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高齢者の自動車事故、実は10年間で「減っている」?不安をあおる“データの一面”では見えない高齢者の実態

  • 2024.12.21
高齢者に関するデータを正しく受け取るために…
高齢者に関するデータを正しく受け取るために…

厚生労働省による「令和5年簡易生命表」によると、0歳の男の子の平均余命は81.09年、女の子は87.14年となりました。これは「平均寿命」として毎年発表され、広く使われます。一方、健康寿命は男性が73.08歳、女性が75.90歳で、これは0歳の子が、平均的に何歳で「健康上の理由で日常生活に制限がある」状態になるかを意味します。

この2つの数字を使って、「平均寿命と健康寿命の差は、男性が8年、女性が12年…」という具合に、介護や介助を要する期間が、かなり長いことを強調する広告をよく目にします。しかし、高齢者に関する研究活動を行う筆者が忘れてはいけないと考えるのは、これは「0歳の子」の話であるということです。高齢者には関係がありません。

その広告を見ているのは誰か

このような広告を、高齢者にとって意味があるデータを使って変更すると、次のようになります。

まず余命について、同じく「令和5年簡易生命表」を見ると、65歳の人の平均余命は男性が19.52年、女性が24.38年ですから、65歳の男性は「84.5歳」、女性は「89.4歳」まで平均的に生きます。次に健康寿命について、「要介護2」以上になるまでの期間(日常生活動作が自立している期間=平均自立期間)を見ると、65歳の人の平均自立期間は男性が79.7歳、女性が84.0歳です(公益社団法人 国民健康保険中央会の発表データより)。

この2つの数字を使って同じように言えば、「65歳の人の平均余命と平均自立期間の差は、男女とも5年くらい」となります。つまり、よく広告で示される年数は、高齢者の実際とは男性で3年、女性で7年も差があるわけです。また、公益財団法人生命保険文化センターが発表した「令和3年度生命保険に関する全国実態調査」によると、「平均介護期間」は5年1カ月ですから、やはり先述の「平均寿命と健康寿命の差は、男性が8年、女性が12年…」というのは、高齢者の実態とは全く違うといってよいでしょう。

確かに、0歳の子の平均寿命と健康寿命を使っているので、「間違っている」とはいえません。しかし、その広告を0歳の子や小さな子どもたちが見ているわけではありません(そもそも子どもが平均寿命や健康寿命に関心を持っているはずがありません)。高齢者を対象とした広告において、0歳の子の数字を使うのが果たして適切なのかどうかは、考えてみる必要があると思います。

高齢者の自動車事故や認知症…本当に増えているのか?

他にも、「高齢者の自動車事故や認知症が増えている」という報道がされますが、そもそも高齢者の数が増えているわけですから、それらの数が増えるのは当たり前です。でも、データをよく見てみると印象が変わります。

高齢者の自動車事故について、「免許保有者10万人当たりの事故件数」(警視庁「令和5年中の交通事故の発生状況」)を見てみると、85歳以上の事故件数は2013年から2023年の10年間で、約900件から約500件と大きく減っています。65歳以上の他の年代も、おおよそ同じような割合で減少しています。

ただし、死亡事故を起こす割合は、75歳以上になると10万人当たり5.3件と、16~24歳の若い年代(10万人当たり4.3件)を上回っているので、正確にいえば、「高齢者が自動車事故を起こす割合は減ってきているが、75歳以上になると死亡事故を起こす割合が若年層よりやや高くなる」ということです。

「2022年、厚生労働省の推計で、65歳以上の高齢者における認知症有病者数は443万人となっている。2030年には523万人に上る」と言われてもピンと来ませんし、軽度の認知症の人数も合計して数字を大きくすることによって、危機感をあおっているだけのように見えます。それよりも、「高齢者認知症の有病率は約15%。ただし、重度や中等度はそのうち半分程度である」と言われる方が分かりやすいですし、むやみに不安になることはないはずです。

さらに、「欧米では、過去数十年間で認知症の有病率が2~6割、発症率が2~4割低下したという調査がある」といった事実も付け加えてもらえれば、元気にもなります。認知症をただ恐れるのではなく、生活習慣を見直して予防するといった前向きな姿勢も生まれるでしょう。

私たちは、行政や有識者が発表したり、大企業が広告で使ったりするデータをつい、うのみにしてしまいがちですが、それらは調査全体の一部であり、一面です。例えば、「要介護高齢者が増えている」のも「80代前半では、要介護2以上の人は1割ちょっとしかいない」のも事実ですが、前者のデータだけ知らされると、「それは大変だ」としか思えなくなります。近年、特に高齢者関連についてはネガティブな発表のされ方、使われ方が目に付くので、データの受け止め方には気を付ける必要がありそうです。

NPO法人・老いの工学研究所 理事長 川口雅裕

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