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東京にこだわらない女たち 「ここには余白がない」

  • 2024.12.21

情報爆発時代の中で、私たちはさまざまな「HAVE TO:しなければならないこと」に囲まれている。でもそれって本当にやらなきゃいけないこと? 働く女性たちを研究している博報堂キャリジョ研プラスによる連載「XXしない女たち」。今回は「東京にこだわらない女たち」。「東京」という場所から離れて、日本各地、様々な場所で自由に活躍する女性たちに話を聞きました。

「上りのエスカレーター」を降りたかった

教育事業に携わるYさん(34)は神奈川県出身。28歳のタイミングで島根県に移住した。当時、名前を知られた大手企業に勤めていたYさんは、企業のブランドで自分の実力以上の評価をされているように感じていた。神奈川県に生まれ、東京の中高一貫校に進学し、一流大学を卒業し、大手企業に就職。いわゆる“エリート”だったYさんは、社会人6年目、そろそろ転職をと考えてみた際、「全然違う土地に行って、等身大の自分を見つめてみたい」と思った。

「上りのエスカレーターを一度降りたかったのかもしれません。島根だったら、私のことをみんな全然知らない状況だったし、そうした素の自分に興味がありました」。親も都会育ちで、価値観が偏っているな、と幼少期からうっすら思っていたので、違う土地に住んでみたかったという。「せっかくなら、自分のやりたいことをやれる場所で、と思い、大学時代から興味のあった教育事業に、島根で携わり始めることにしました」

Chris Ryan/ OJO Images/ Getty Images Plus

移住してからも、Yさんは「とても楽しい毎日」と語る。正直、最初は島根という土地が合わなかったら東京にいつでも帰ろう、くらいの気持ちだったという。でも、行ってみたら1か月で楽しさを実感した。

「東京は人が多いけど、おもしろい人に会える確率はそんなに高くない。島根では、本気で人生をかけておもしろいことをやろうとしている人たちに出会える確率が高くて、こういう人たちと働いていた方が心地よいなと感じました。私が住んでいる場所は島根の中では都会なので、車がなくても自転車で生活もできて、心地よい。島根の人たちには『よそから島根に来てくれてありがとう』という雰囲気があり、思ったよりも早くなじむことができました」

「どこでも生きていける」選択肢を持っていたい

Yさんは、なぜ東京にこだわらないのか。

「東京でしか働けない、暮らしていけない、っていう縛りより、どこでも生きていけるという選択肢を持っていたいというのがありました。どうしても東京に住むには、お金の問題が付きまとう。私は、東京でしか生きていけないというこだわりを手放したかったのです」

「東京には余白がないと思います。ぎゅっと詰まっている中で、みんなが必死に生きている。一方で、地方は足りないことがたくさんある。例えば、電車の本数、買い物できる施設の数、スーパーの数など。不便がたくさんあるからこそ、その中で新しく創り出す方が、自分の生き方として心地よいのです」

「中高の同級生たちが東京でキャリアに邁進している姿を見ていると、もしかしたら私は違う道を捨ててしまったのかな、と思ったりすることも時々あります。でも、戻りたくなったらいつでも戻れるし、今はこの選択が合っているなと思っています」

Masao / iStock / Getty Images Plus

東京で生まれているからこそ、こだわりがない

Kさん(33)は、東京都出身で2021年に北海道に移住した。Kさんはもともと都内でコンサル会社に勤めていたが、移住をきっかけに独立。いまは北海道で学校を経営している。転勤族の家庭で育ち、東京だけでなく海外在住も経験した。そんなKさんは、東京で生まれているからこそ、東京にこだわりがない、と語る。

「そもそも『東京だ~!』って思って生きてこなかったし、そんなに意識していなかったですね。小さいときから東京以外で生活した経験が長く、この先もずっと東京にいるっていう感じではないです。ただ、たまたま今実家がある場所が東京で、自分が長い時間育った場所、という感覚ですかね。これからどうなるかわからない時代に、『東京が絶対居心地よい』と決めつけるのが嫌でした。自分は変化する人間で、フレキシブルさを大事にしたいと思っています」

そんなKさんは、いつかは自然の多い場所に移住したいなと漠然と思っていたものの、自分とパートナーの仕事の都合もあり、最初は東京都と北海道の2拠点生活から始めたという。そして、コロナ禍でのリモートワークの浸透が後押しになり、完全に移住した。

「小さいときから転勤族だったので移住することに抵抗はなかったです。パートナーも私も温泉が好きだったので、温泉が多くて、水がきれいな場所に移住したいね、という会話をよくしていました。また、当時は会社員でしたが、私の夢は学校づくりだったので、それができる場所に移り住みたいというのもありました」

maruco /iStock / Getty Images Plus

そんなときに北海道に移住した夫婦と出会うきっかけがあり、自分も移住して事業を起こしてみたいと思うようになった。北海道と東京の2拠点生活、当初は1-2年やってみて、無理だったら東京に帰ろうと思っていたという。自分の親からも批判をあびたが、とにかくその場所で事業をやってみたかったので、体力を削りながらもどうにか1年半は続けた。

体力も気力も限界だったころ、コロナ禍がきっかけで東京の家を手放した。「緊急事態宣言で移動が難しくなり、コロナ禍が終わらないから、東京には戻らないのに家賃払うのがもったいないね、と。パートナーの仕事の都合がオンラインOKという変化もあり、完全に2人で移住することができました。いまは事業も軌道に乗り始め、北海道にマイホームも建てました。街の人とのつながりも増え、とても楽しく過ごせています。移住してよかったです」

完全移住したKさんだが、実は2ー3か月に1度は東京に“帰る”ようにしているという。

「東京には文化を享受できる場所が数多くあります。美術館、展覧会、週末どこかにいけば、何かしらやっているのが東京。定期的に東京に行くと、自分の感覚が研ぎ澄まされる感じがします。また、ちゃんとおしゃれしようっていう美意識も芽生えますね。1日に見える人の量が多い分、東京を歩いていると、おもしろい。あんな髪型もいいな!こんな服可愛い!と刺激がある。一方で、刺激があるから、モヤモヤする気持ちも多い。東京にいると、社会の制度に対する違和感、時には理不尽さを感じることもあります。毎日刺激はいらないけど、たまにはこういう刺激もあった方が、バランスがとれているなと思います」

maruco /iStock / Getty Images Plus

ほどよい距離感が心地よい

ウエディングプランナーのAさん(38)は、福岡県出身。就職して東京に住んだ後、現在は大阪に住んでいる。Kさんが大阪に住む一番の理由は、地理的に大阪が「日本の真ん中」で、「遊び心がある街だから」だという。

福岡でも東京でも働いたことがあるが、大阪がとても居心地がいいという。「大阪は、福岡にも帰りやすい、東京にも行きやすい。交通の便で大阪を日本の真ん中だと思っています。程よい街の距離感もいい。大阪市内に住めば、自転車である程度行きたい場所に行けることも便利です。私にとって東京は住む場所ではなく、刺激をもらいにいく場所で、福岡は帰る場所っていう感覚ですね。東京に住んでみたものの、結果的に今は『東京にこだわらない』というこだわりを持っている気がします」

Aさんのウエディングプランナーという仕事は、0から交渉して結婚式の場所を探していく。東京ではお金さえ出せば場所を貸してもらえる場合が多いが、大阪では「それ、おもろい」って思ったら貸してもらえる感覚だという。「どちらが合っているかは人それぞれですが、自分にとっては大阪の方が居心地良くて、チャレンジしがいがある、そう感じました」

west / iStock / Getty Images Plus

東京にこだわらない層は6割

博報堂キャリジョ研プラスは2024年8月、20-59才の女性150人を対象に「居住地に関する調査」を行った。

グラフ1は東京在住経験の有無と東京にこだわりをもっているかどうかの設問である。回答者150人のうち、東京に在住経験のある46人の結果をグラフ化している。グラフ1をみると、「現在東京に住んでいるが、東京にこだわりはない」、もしくは「過去東京に住んでいたが、東京にこだわりはない」を合わせると63%(29名)おり、東京在住経験のある人の中で、過半数の女性が東京にこだわりをもっていないことがわかった。

【グラフ1】

博報堂キャリジョ研プラス「居住地に関する調査」グラフ1 (母数=東京在住経験がある46人)

「東京にこだわりがない」と答えた女性たちに、その理由を聞いたところ、最も多かったのは「人が多すぎるから」62%、次いで「家が狭いから、高いから」46%、「通勤が大変だから」23%という結果となった。

【グラフ2】

博報堂キャリジョ研プラス「居住地に関する調査」グラフ2 (母数=「東京にこだわりがない」と答えた113人)

また、調査対象者全員に、住む町に求めることを聞いたところ、最も多かったのは「アクセスの良さ・利便性」59%、次いで「買い物のしやすさ」57%、「病院・学校など公共施設が充実」43%という結果となった。

【グラフ3】

博報堂キャリジョ研プラス「居住地に関する調査」グラフ3 (母数=調査対象者150人全員)

インタビューの結果、東京にこだわらない女たちは、衝動的に移住した人もいれば、長い期間をかけて少しずつ移住に踏み切った人もいる。いずれも共通しているのは、自分にとっての優先順位をそれまで長い時間をかけて整理してきて、「自分の意思で」移住を決めていることだった。東京のことを嫌いになったというより、「住む場所ではない」と判断した人が多いようだった。

周囲の友人やコミュニティに流されるのではなく、自身がどう生きたいのか、この先何をしたいのかを考えた結果が「東京にこだわらない」理由ともいえる。また、はじめから完全に移住できなかったとしても、長い期間をかけて自分自身も、そして家族や周囲に理解してもらうという選択肢も見られた。

リモートワークが浸透し、暮らしの選択肢が増えている今だからこそ、自分の感覚を研ぎ澄ませ、「私はどこで生きたいのか」をもう一度、自身に問いかけてみてもよいのかもしれない。

■松下 裕美子のプロフィール
「博報堂キャリジョ研プラス」所属。1996年生まれ。入社後、ビジネスプロデュース職にて広告コミュニケーションの企画制作に携わる。現在はマーケティングプラナーとして、戦略立案、統合コミュニケーション・プラニングに従事。世の中の一人ひとりが少しでも生きやすくなるための社会を目指して、日々のプランニングに邁進中。週末は国内外を飛び回る大の旅行好き。趣味はクラシックバレエ。

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