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労働環境の改善に苦心する魔王vs.パワハラ気質な勇者!? どこの会社よりもホワイトな「魔王軍」を描いたお仕事コメディ

  • 2024.12.20

一般に「勇者」といえば人類の期待を一身に背負い、悪の魔王を倒すために尽力する清廉で温和なヒーローだ。かたや「魔王」は部下に厳しくあたる非情な暴君で、「魔王軍」は実力主義の殺伐とした組織をイメージするのではないだろうか。ところが『魔王軍はホワイト企業』(スガラジカル/主婦の友社)に出てくる両者の内実は、まったくの逆だといっていい。

魔王は平和を愛し、常に部下の働きやすさに気をつかう。ひきいる魔王軍には週に2日は休みがあり、残業もない。育休や有休の使用が推奨され託児所までも完備している。一方で、勇者は、まるでパワハラ気質の上司のようだし、人間同士でも、たがいにツラく、厳しく接する不文律がまかり通っている。

『魔王軍はホワイト企業』は、そんな善悪のイメージが逆転したホワイト企業「魔王軍」を描いたお仕事コメディなのだ。

大きな角の生えた怖そうなビジュアルの魔王が、ワークライフバランスに多大な配慮をし、もっと休みを増やせないだろうか、有休の取得率90%を目指さなければ、と思案する様はギャップにあふれており、思わず笑ってしまう。

所属する魔族たちもそうだ。竜のような、いかつい見た目をしていながらも、子守をしながら仕事をしていたり、古代兵器として恐れられた存在が休養を取って南国でバカンスしていたり。その組織としてのおおらかさと、ゆるい空気にいやされること間違いなしだ。

しかも魔王軍は、多数の種族が混在しているだけでなく、敵対しているはずの人間にも門戸が開かれ、多様性を尊重する精神がつらぬかれている。素質を確認するための研修制度が拡充され、テレワークや兼業もできる。独立開業するために軍を抜けることも容易だ。現実に存在する企業をかんがみても、最先端の組織といってもいいのではないだろうか。

人間の世界にはパワハラ気質の上司や、居心地の悪い職場が無数に存在している。日々、心身を消耗させながら厳しい環境で労働している人もいる。そんな人たちにとって、組織トップの強い意志にのっとり、さらに良い職場環境を作ろうと尽力している魔王軍の姿は、もはや神々しく見えるのではないだろうか。誘われたら、二つ返事で魔王軍に降る人がいてなんの不思議もない。実際、作中でも魔王軍に降る人間が続出しているのも無理からぬことだ。

魔族の懐の広さをこれでもかと見せつけることで、人間の器の小ささを感じさせてくれるのが面白くも、ほろ苦く、どこか切ない。また、魔族の駆逐を目論む勇者の一見優しそうに見えて根性論を振りかざす姿は、まるで当たり前かのように時間外労働ややりがい搾取を行うパワハラ上司のようだ。そんな勇者の笑顔が、だんだん悪魔の笑いのように見えてきて、危うく人間は滅んだほうが良いのでは……?という気にさえなってきてしまう。

労働環境の改善に苦心する魔王という存在だけでもギャップあふれる強さがあり、とりまく魔族がそんな先を走る魔王の思慮に戸惑う姿も笑いを誘う。ある意味人間らしい勇者にはシニカルに笑わされる。あなたなら人間と魔族、どちらの軍勢に助力するだろうか? 本作を読んで一度、自らの胸に問いかけてみてほしい。

文=ネゴト / たけのこ

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