1. トップ
  2. エンタメ
  3. 【映画レビュー『ライオン・キング:ムファサ』】物語、血筋、音楽、メッセージ-すべてが『ライオン・キング』とつながる見事な前日譚! 切ない兄弟仲の描き方にも注目

【映画レビュー『ライオン・キング:ムファサ』】物語、血筋、音楽、メッセージ-すべてが『ライオン・キング』とつながる見事な前日譚! 切ない兄弟仲の描き方にも注目

  • 2024.12.21

ディズニーの名作『ライオン・キング』の前日譚となる『ライオン・キング:ムファサ』が12月20日(金)より日本公開となる。今作は『ライオン・キング』が生んだレガシーを利用するのではなく、人気キャラクターの過去を効果的に補完する見事な前日譚だ。

『ライオン・キング:ムファサ』概要

息子シンバを命がけで守った父ムファサ王。孤児であった彼の運命を変えたのは、ムファサの命を奪った“ヴィラン”スカー(タカ)との幼き日の出会いだった…。血のつながりを越えて兄弟の絆でむすばれたムファサとタカは、冷酷な敵ライオンから群れを守るため、新天地を目指す旅に出る。
「ずっと“兄弟”でいたかった」…ムファサを偉大な王にした兄弟の絆に隠された、驚くべき“秘密”とは?心ゆさぶる楽曲にのせて、超実写版で描くキング・オブ・エンターテイメント!本当の“ライオン・キング”は、ムファサで完成する。

レビュー本文

ドラマチックでハイクオリティな前日譚

『ライオン・キング:ムファサ』は、前作『ライオン・キング』(2019年)に引き続き“超実写”を謳う、あまりにハイクオリティなCG映像が圧倒的な没入感を与えてくれるだけでなく、今回は完全オリジナルとなる物語がストレートに深く心に刺さり、秀逸な前日譚として見事に仕上がっている。

予告編でも「ずっと弟がほしかったんだ」と楽しそうに告げていた姿が印象的なタカ。後の“スカー”であるタカと、ムファサの兄弟仲はなぜこじれたのか。そして“よそ者”だったムファサはいかにしてプライドランドの王になったのか。今作が描く物語はムファサにもタカにも、そしてムファサの後のパートナーであるサラビにもそれぞれ共感できる、非常にドラマチックなものだ。

ムファサの“王らしくない”部分も、“王の素質”といえる部分も描きながらムファサの成長を綴り、その物語をムファサの孫、シンバの娘であるキアラが目を輝かせて聞いている。その構図は“継承”を描く「ライオン・キング」シリーズらしいし、『ライオン・キング2』のファンとしてもキアラ(アニメ版でも“超実写”版でも1作目では名前に触れられていない)の大々的な登場は嬉しいところだ。

受け継ぐメッセージを、未来にも

『ライオン・キング』はドラマチックな物語と可愛らしく個性的なキャラクター、キャッチーな音楽を使いながらも、「絶やしてはならない食物連鎖」や「命がけのリーダー争い」といったシビアな大自然の世界を描いたが、今作もその核の部分を確実に受け継いでいる。単に「ムファサとスカーの過去に泣ける」というエモーショナルな作品にするだけではなく、自然災害やライオン同士の小競り合いといった厳しい現実を物語に落とし込んでいるのだ。

「信じられるのは血のつながりだけ」と主張し、よそ者の子ライオンに攻撃的な目を向けるオバシの行動・言動は非常に残酷に見えるが、実際にライオンの群れにおいては自身の子孫を残すためによその子どもを食べてしまうという習性があり、これも生物本来の姿である。逆に心優しいエシェがそうするように、群れの子どもではない個体、それどころか違う動物の子どもを育てる“無償の愛”“母性”のようなものを見せる動物がいることも知られている。

マッツ・ミケルセンが声を演じたキロスを筆頭に、“はぐれもの”と呼ばれる凶暴な白いライオンたちも印象的だが、これも自然界ではしばしば起きることがもとになっており、色素異常(アルビノ)で生まれた動物は人間には美しく見えても、病弱で群れの他の仲間と異なる彼らは仲間はずれにされがちだというシビアな現実がある。

ムファサとキロスの対立構造においては、「食い荒らすのではなく、未来につなぐ生き方を」という力強いメッセージが感じられる。ここには我々人間へのメッセージも込められているのではないか。今ある資源を食べ尽くし、使い尽くすことは、一時的な快楽・幸福感しかもたらさず、最終的に困るのは自分やその子孫であるという教訓は、“持続可能性”が重視される現代社会に即したものといえよう。

音楽やキャラクターが感じさせる“つながり”

印象的なのが、『ミラベルと魔法だらけの家』のリン=マヌエル・ミランダが手がけたすばらしい歌曲の数々だ。1曲1曲はオリジナリティにあふれていながら、それぞれの楽曲の物語上の位置付けは、前作『ライオン・キング』の楽曲たちとどこか対応しているように感じられ、ムファサの歩んだ道のりと、その息子シンバが『ライオン・キング』で辿る成長の過程が、親から子へ継承されるサイクルとして強調されているように感じる。

たとえば『ライオン・キング』のオープニング楽曲「サークル・オブ・ライフ」の代わりに、今作では「遥かなミレーレ」(Milele)が理想の故郷への想いを感じさせる。同じように今作の「ブラザー/君みたいな兄弟」(I Always Wanted A Brother)が「王様になるのが待ちきれない」(I Just Can’t Wait to Be King)に、「バイバイ」が「準備をしておけ」(Be Prepared)に、「一緒に行こう」(We Go Together)が「ハクナ・マタタ」に、「聞かせて」(Tell Me It’s You)と「裏切りの兄弟」(Brother Betrayed)がティモンとプンバァパートも含む「愛を感じて」(Can You Feel the Love Tonight)にあたる展開に用意されているのだ。

さらに、今作ではライオンたちだけでなく、猿(マンドリル)のラフィキや鳥のザズーといったシリーズおなじみのキャラクターたちがいかにしてプライドランドで重宝されるポジションについたのかも垣間見られる。世界観が楽しく深掘りされる、ディズニーファンにはたまらない1作といえるだろう。

ドラマチックな物語で人気キャラクターの過去を補完しながら、自然や野生の厳しさや前作をリスペクトしたつながりも感じさせる『ライオン・キング:ムファサ』は12月20日(金)日本公開。ぜひ映画館の大画面で、ドラマとスリル、そして音楽を味わっていただきたい。

作品情報

タイトル:『ライオン・キング:ムファサ』
原題:Mufasa: The Lion King
全米公開:2024年12月20日
監督:バリー・ジェンキンス
字幕版声優:アーロン・ピエール、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ティファニー・ブーン、マッツ・ミケルセン、ドナルド・グローヴァー、ブルー・アイビー・カーター、ビヨンセ・ノウルズ=カーター、ジョン・カニ、セス・ローゲン、ビリー・アイクナー、プレストン・ナイマン、カギソ・レディガ
超実写プレミアム吹替版声優:尾上右近、松田元太(Travis Japan)、MARIA-E、吉原光夫、和音美桜、悠木碧、LiLiCo、賀来賢人、門山葉子、佐藤二朗、ミキ亜生、駒谷昌男、渡辺謙
© 2024 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン

元記事で読む
の記事をもっとみる