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『サ道』作者・タナカカツキ「疲れやすい社会に一石を投じたい」。忙しすぎる現代人に勧める“4時起き8時間タスク”とは?【インタビュー】

  • 2024.12.20

サウナブームの火付け役『サ道』(PARCO出版)で知られるマンガ家・タナカカツキ先生が、日常生活を明かす新著『今日もまたそんな日 超朝型ルーティン生活の愉しみ』(集英社)を上梓した。かつて、朝方まで仕事へ没頭する生活で体がボロボロになりかけたのを経て、タナカ先生が手に入れたのは、朝日を浴びて、午後は自由を謳歌する「4時起き 8時間タスク生活」。忙しすぎる現代人にとって、余裕をもたらすヒントとなりうる日常生活を聞いた。

■教え子の大学生たちが「自立して生活する時代」へ飛び込む前に

――新著では、タナカ先生の日常的なルーティン「4時起き 8時間タスク生活」を扱っています。毎日、4時に起床して、午前中は20分ひとコマのタスクを学校での時間割のようにこなし、午後は「定休日」として休む。この生活を58歳の現在まで、10年以上続けていらっしゃるそうですね。

タナカカツキ(以下、タナカ):原点は37歳の冬、サウナの年でした(笑)。20代から30代半ばにかけては、深夜から朝方まで仕事をして12時頃に起きる生活サイクルでしたけど、子どもが生まれたのをきっかけに日常生活を見直したんです。まず、7時起床の生活に切り替え、起きてすぐ窓を開けて朝日を見るのが好きになり、日の出が早い夏に「日が昇るのを見たい」として、4時起きの生活になってからは10年以上が経ちました。

――午前中の8時間で20分ごとのタスクを細切れに実行される生活をされていますが、これも当初からだったのでしょうか?

タナカ:いえ、早起きに切り替えたあとですね。子どもが生まれて「安定的に作品を描き続けるには、どのような生活をするべきか」と考えたんです。生活を見直す以前は、明け方まで作業に没頭していたんですが、体にガタが出てきたんですよ。生理学、心理学、脳科学の書籍を読みあさり、人の行動を学んで、自分が理想とするサイクルへと落ち着きました。

――在宅仕事歴は40年にものぼる今、そのノウハウを本書で伝えようと思った背景も伺いたいです。

タナカ:リモートワークなどもあり、人それぞれが自立して生活する時代が進みつつある今、意味があると思ったんです。ひとつ、きっかけにあったのは大学生とのふれあいでした。2004年から京都精華大学デザイン学部の客員教授として、大学3年生向けの講義も担当しているんですが、いずれ学生たちが表現活動を自宅でやるようになったのを想像したときにふと「彼らに伝えなければ」と思い立ったんです。

本書のもとになったメンズ誌「UOMO」ウェブサイトでの連載がスタートしてからは、似た悩みを抱えているのは学生だけではないとも気が付きました。

大学で同じく教鞭をとる先生から「大学でいつまで働けるか分からないし、副業しよう」と聞きましたが、本業以外のスキルを伸ばそうにも、自宅に帰ってから副業の勉強をしようにも体が疲れていたら、とても、日常にプラスして勉強しようとはならないですよね。それを根性論で説き伏せようとする人もいますが、疲れやすい社会になっているのが根本的な原因ですし、ならば「自分が一石を投じられれば」と思ったのも、作品を手がけた理由でした。

■ただ休むのはかえって「脳の疲労」にもつながる

――作中では、本業のタスクで「あと1コマ」で漫画のページを描き終わるとしても、20分きっちりで次のタスクへと進むのが意外でした。残りわずかであれば、描き切りたいと思ってしまいそうで…。

タナカ:20分ごとのタスクで、何もかも思ったとおりにこなすのが理想なんですけどね。ただ、実際はそう上手くいかないじゃないですか。一つに固執して「何がなんでも終わらせる」となるとくたびれてしまうし、私の目的は集中して作品を量産することなので、無理をすると意欲がそがれてしまうんです。むしろ、あと1コマを残して次の日に持ち越した方が、翌日が楽しくなります。

――タスクには仕事だけではなく「庭いじり」などの余暇も、取り入れています。

タナカ:何もしないのは難しく、脳の疲労にもつながるそうで休憩にならないんです。私にとっての庭いじりは心を静める瞑想の代わりで、五感で気温や風、草花の香りをかみしめています。すべてのタスクに集中する時間では、スマホもまったく見ませんね。社会とつながるのは、午後の「定休日」からと割り切っています。

――タスクは紙のノートに書いて、整理されているそうですね。

タナカ:ノートに書いてタスクの時間が終わったら、チェックしています。昔は、タスクを書いた付せんをパソコンの隅に貼って終わったらはがしたり、ノートに書いた内容に横線をシャッと引いたり、試行錯誤はありました。何冊溜まっているか分かりませんが、たまに、過去のノートも見返しますね。8年前、20分間で2回しかできなかったけんすいを、今では18回もできるようになって、自分の成長を感じられました。友人に聞くとタスク管理の方法もそれぞれで、スマホで整理している人もいます。

――便利そうですが、タナカ先生はスマホを活用されないんでしょうか?

タナカ:本業のコンテンツ作りではパソコンでの作業が多いし、今のところは、タスクに集中する時間は電子機器から離れたいと思っているんです。タスク内で調べ物をしても深入りせず、本題と離れて興味があることにふれたときはいったんメモして、別の日にそのテーマを調べる時間を設けます。

■体がボロボロになる前に「積極的に!」「不真面目に!」

――本題の「タスク生活」は理想的ながら、たとえリモートワークであっても、会社員の方のように“自分以外の誰か”に日々の時間を左右される人にとっては、実現しづらい印象もあって。それでも、わずかでも「タスク生活」を取り入れるための秘けつはありますか?

タナカ:ある程度の権限を得られれば「コイツに任せてもいい」として、自由になる時間が増えると思うんです。ただ、そこへたどりつくためには、やはり、勉強の時間も必要になりますよね。満員電車で職場へ通い、仕事が終わって自宅に着いてから「さあ、勉強しよう」となっても、ヘトヘトであればやる気も起きづらいでしょうし、4時とは言わないまでも、朝にやったほうが積極的に取り組めると思います。頭もシャキッとして気持ちいいですからね、慣れちゃえば。

――「ヘトヘトであればやる気も起きづらい」とは、身にしみます。

タナカ:誰でも、気持ちが沈んでいると意欲がわきませんよね。日中は仕事で頭がいっぱいで、「副業しろ」なんて、言われても無理なんですよ。ただ、くたびれているからといって、自宅のソファで寝そべり延々とスマホを見ているだけでは、体もいつか悲鳴を上げますから。かつて私が読んだ書籍から血流を促すのも大切だと学んで、何か少しでも、体を動かすと気持ちが楽になるんですよね。

――ストレスフリーな生き方を実践されている印象ですが、今ある「タスク生活」は完成形ですか?

タナカ:いえ、マイナーチェンジしているし、常に自分を実験材料としているんです。何がよくて、何が無駄か。続けてみないと分かりませんし、日々、模索していますね。最近では、一時期ハマっていた英会話は翻訳アプリの進化によってやめて、一方で、友人にならってアプリ「ルーチンタイマー」による音声でのタスク管理も少しずつ、試していますね。

――最後に、忙しすぎて目が回りそうな読者にとっても理想的であろう「タスク生活」を実践される立場として、メッセージをお願いします。

タナカ:本書でも書いたんですが「積極的に不真面目に!」とは、伝えておきたいですね。体がボロボロであったとしても、感覚がマヒすると、それが当たり前になってしまうんです。でも、その状態を変えるならば「脳が何を気持ちよく思うか」に目を向けるのは効果的で、私にとっては「4時起き 8時間タスク生活」が気持ちよかったんです。空気のいい朝に鳥の鳴き声を聞き、街中の静けさにひたって、仕事が終わったらサウナで汗を流す自分のように、みなさんにとって「気持ちいい状態」を見つけて、生活してほしいです。

取材・文=カネコシュウヘイ

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