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実家から届いた宅急便。見慣れた母の字で書かれた新姓を見て涙が出た

  • 2024.12.20

実家から宅配便が届いた。宛名のところには、丸っこくて大きな母の手書き文字で、『田中海様』と書いてあった。それを見たら、悲しくて悲しくてどうしようもなくなって、ダンボールを抱えたまま泣いてしまった。

◎ ◎

当時私は結婚したてで、『田中』という名字になったばかりだった。それについて、特別うれしいとは思っていなかったけれど、だからといって嫌だとも思っておらず、なんとなく「そんなもんだろう」と考えていたつもりだったのだが、見慣れた母の字で書かれた『田中海』を目にしたとき、唐突に耐えられなくなったのだ。

ごめんねお母さん。『田中海』なんて書かせてごめん。

別に母は、私が改姓することに疑問なんて持っていなかった。母にとってみれば、結婚して女性側の名字が変わるのは当たり前のことだったと思う。その証拠に、母は二度結婚していて、そのたびに改姓している。

◎ ◎

だけど私には無理だった。母が私に『田中海』と書くこと。私が『田中海』になったこと。結婚したら名前を変えなきゃならないこと。それらすべてが、じつは耐えられないくらい嫌だったんだと気づいてしまった。

でも、なぜ改姓が嫌なんだろうか。

諸々の手続きが面倒くさいから? そういう理由を挙げる人もいるけれど、私にはあんまり当てはまらない。

自分の過去の功績が消えてしまうから? 残念ながら、私には功績なんてひとつもないのでこれも違う。

自分が自分じゃなくなるような感じがするから? たしかにそれはある。あるけど、ドンズバな理由ではない気がする。

◎ ◎

そうして私が行き着いたのは、「2番手になった感じがするから」という答えだ。自分の人生なのに、「主人(公)」が別にいて、私は「その次」になったように感じたのだ。

小さいころから、私が主人公の物語を生きてきた。なのに結婚したとたん、田中が主人公の物語の一員になった気がして、どうにもしっくりこないのだ。もちろん、田中の物語にスッとなじんでいく人、田中の物語に入るのがうれしい人、というのもたくさんいると思う。そういう人はそれでいい。でも私は違うのだ。私が主人公の物語を続けていきたいのだ。

だから、母の書く『田中海』が耐え難かったのだと思う。ごめんねお母さん。ずっと主人公でいさせてくれたのに、2番手になってごめん。

◎ ◎

あれから15年近く経ち、結局私は田中ではなくなった。別姓を主張してのペーパー離婚ではなく、単に婚姻関係を続けるのが難しくなっただけなのがちょっとわびしいけれど、自分が1番手の人生を、今はそれなりに楽しく生きている。

もう2番手にはなりたくないので、今後誰かと結婚したいと思ったとしても、そのときは事実婚を選ぶだろう。いつまでたっても夫婦別姓が認められないので、しかたがない。

◎ ◎

ちなみに母は、私が結婚した数年後、63歳で他界してしまった。昨日まで元気だったのに、突然心臓が止まって、驚くほど鮮やかにいなくなった。

人生には、そういうことがときどき起こる。だから、法律が変わることだってあるかもしれない。全然、対比させることじゃないのだけれど。

■ウミのプロフィール
40代・独身・個人事業主。右往左往しながら生きています。
X:@iitttoooo https://x.com/iitttoooo

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