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私には選択肢がなかった。結婚から10年経った今も心に残るしこり

  • 2024.12.19

同い年の夫は、大学院の同期だ。夫が博士課程を修了した直後に入籍、私はまだ在学中だった。どちらもイエのしがらみは特段なく、結婚式も「〇〇家・△△家」のものとしてではなくあくまで2人のものとして自由にカジュアルに行った。夫は私を1人の人間として尊重してくれ、「男だから、女だから」という考えはない人だった。一点、名字の選択を除いては。

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結婚準備を進めながら、私が何気なく「名字はどうする?」と聞くと、夫はキョトンとした。「名字は夫の姓にすべきだ」と考えていたというより、男性側が名字を変えるという選択肢をそもそも考えたこともないということだった。これは夫が悪いのではなく、圧倒的大多数が男性の姓を選び女性の姓を選ぶと「何で?」と聞かれる社会が悪いのかもしれない。研究者が名字を変えることは不利益がある。すでに研究業績がある夫とほとんどない私なら、私が姓を変える方がいいだろう。そう考え、釈然としない思いを多少抱えながらも、議論することなく私が姓を変えた。

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10年の時が経ち、夫とはずっと仲良く幸せに過ごしている。しかし、あの時のモヤモヤはまだ私の心に巣食い、選択的夫婦別姓に関する記事を読んだ時などに、時々涙目になりながら夫に気持ちをぶつけてしまう。そのたびに夫は、「ちゃんと考えてなくてごめん」と申し訳なさそうに下を向く。もちろん夫にだけ非があるわけではない。あの時、引っ掛かりを感じながらも真剣に向き合うことなく、何となく受け入れてしまった自分もよくなかった。

私は、夫の姓が嫌なわけではない。自分の旧姓に特に愛着はなかった。改姓によってアイデンティティが崩壊したとは感じていない。研究者としての2人のキャリアを考えても、夫の姓を残したのは正解だっただろう。仕事でも旧姓は使用していない。夫と同じ姓になれたのだって、嬉しかった。もし当時夫婦別姓制度が認められていたとしても、熟慮した結果、夫の姓に変えたかもしれない。つまりは、結果的に不都合はさほどないと言える。ではなぜ、こんなにも心が乱されるか。

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おそらく私は、自分に選択肢がなかったことが悔しかったのだ。夫婦同姓が強制され、それも夫の姓を選ぶのが当たり前だった。別姓、夫の姓、妻の姓、すべての選択肢が揃った中から納得して選んだのだったら、同じ選択であっても引きずることはなかったのではないか。

これから結婚するカップルには、すべての選択肢が用意されていてほしい。結婚という喜ばしい門出に、誰にも名字のことで悲しい嫌な思いはしてほしくない。心からそう願う。別姓にしたければ別姓を選べ、同姓にするにしてもどちらの姓にするか自由にフラットに選べる―そんな社会になってほしい。なるべきだ。

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今回、このように自分のしこりを文章として吐き出したことで、少しは気持ちの整理がついた。選択的夫婦別姓が法制化されれば、私もこのわだかまりに一区切りをつけられるのではないかと思っている。

■いつきのプロフィール
午前中で仕事が終わった時、ランチでひとり酒をするのが至福。小学生の息子に振り回される日々。

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