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海を守るアートを。プラダとエンツォ・バラッコが変えていく、海洋環境の未来

  • 2024.12.18

シチリア島で地中海を見ながら育った写真家のエンツォ・バラッコにとって、海は昔から、人生になくてならないものだ。「海は私にとって白いキャンバスのようなもので、夢や希望をすべて託していました」と屈託のない表情を浮かべ、ニューヨークの自宅からビデオ通話で語った。「毎日、インスピレーションが絶え間なく湧き出る、素晴らしい海を見ながら育ったんです」

島では海の写真を撮り、パンテレリア島で初の写真展を開催したバラッコは、後にファッションフォトグラファーとしてのキャリアをスタートさせるためにミラノ、そしてロンドンへと旅立った。人生の分岐点となったのは、極地探検家のアーネスト・シャクルトンの半生を描いた、1冊の本との出会い。ページに綴られたエピソードの数々に感化され、さも当たり前のように、自らも南極を目指すことにした。そして実際に探検計画を決行。刺激的であると同時に危険でもあった体験は、彼の将来像も物の見方も大いに変えた。「ロンドンに戻ったとき、ファッションを撮るだけの生活に戻るのは、とても難しかったです」と説明する。

現在はネイチャーフォトグラファーとして、世界中を旅しながら美しい自然を写真に収めているバラッコは、持続可能性と海洋保護に対する意識向上を目指す教育プログラム「SEA BEYOND」を通して、プラダ・グループと綿密なコラボレーションを図っている。今月11日にはプラダPRADA)青山店でのトークイベントで、本プログラムの共同実施者であるユネスコの政府間海洋学委員会(IOC)のシニアプログラムオフィサー、フランチェスカ・サントロと対談。今年初めにニューヨークのエピセンターでローンチされた「SEA BEYOND」トークイベントシリーズの第2弾となる今回の東京編は、前回に引き続き、海洋保護と環境管理への意識向上を目的とした。

「大切なのは、プラダのようなブランドが手本を示すこと」

青山店の5階には、バラッコの最新写真集『The Blue on Fire, Hawai'i』の写真が展示されている。ハワイ諸島の自然の美しさを捉えたこの1冊は、バラッコが世界各国で撮影してきた作品のすべてを足がかりにしている。溶けゆく氷山、希少な野生生物、海のダイナミズム。彼がこれまで収めてきた写真は、自然界の生来のエネルギーと脆さの両方をあらわにし、息を呑むような迫力を湛える。

バラッコとサントロにとって、海洋保護と気候変動について広く伝えるためには、プラダ・グループと手を組むことが不可欠だ。商品生産プロセスなどの透明性を高めるためにサステナビリティ・レポートを発表している同グループとバラッコは前々から協力関係を築いており、2020年には「SEA BEYOND」のアンバサダーに就任した。

今こそ、ファッション界の重鎮たちが責任感を持って持続可能性に取り組むべき重要なときだ。無論、ファッションは環境保護の対極にあることが多い。石油やガスに次ぐ環境汚染産業であるとしばしば言われ、業界の「新しさ」の飽くなき追求を思うと、反論するのは難しい。「教育こそが鍵だと信じています」とバラッコは言う。「プラダは世界中の人にリーチすることができ、私の作品が人々の興味を掻き立て、対話を促すことを願っています」

ユネスコのサントロもバラッコに同意し、環境保護の専門家とファッション界のリーダーが「SEA BEYOND」のようなパートナーシップで手を取り合うことは、自然保護活動の未来にとって極めて重要だと付け加えた。彼女が思うに、大切なのはプラダのようなブランドが手本を示すことだ。「自社の影響力と専門知識を生かして、生産プロセスや生地の使い方をより良いものへ変えているブランドの存在はとても大きいです」

例えばプラダの「リナイロン」コレクション。世界中の海から回収されたプラスチック、漁網、埋め立てごみ、繊維くずを再利用、浄化して作られた再生ナイロンのみを使用しており、コレクションの販売収益の1%は「SEA BEYOND」プロジェクトに寄付されている。さらにプラダは2026年までに、使用するナイロンの80%をリサイクルまたはバイオ由来の原料から調達することを目指している。「ほかのブランドにとって、大きなインスピレーションになると思います。持続可能性は一筋縄ではいかないことを言い訳に、変化を拒むブランドは多いです」と言うサントロ。「しかし、変わることはできると示すものがいれば、もう誰も言い訳はできません」

大規模で構造的な改革が必要な一方で、一人ひとりの行動で大きな変化は生まれる。そう話すバラッコのアドバイスは、シンプルなものだ。「自然ともっと触れ合う。南極のような極地に行く必要はありません。自宅の庭や近所の公園での時間をゆっくり楽しんでみてください。時間をかけて観察すれば、見えてくるはずです。自然の日々の営みが、いかに素晴らしいかを」

エンツォ・バラッコの写真は、プラダ青山店にて2024年12月29日まで展示中。

Text: Ashley Ogawa Clarke Adaptation: Anzu Kawano

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