1. トップ
  2. 恋愛
  3. NMB48 安部若菜「アイドルは“夢ハラスメント”を受けている」現役アイドルが芸能スクールを舞台に描く、理想の居場所とは?【インタビュー】

NMB48 安部若菜「アイドルは“夢ハラスメント”を受けている」現役アイドルが芸能スクールを舞台に描く、理想の居場所とは?【インタビュー】

  • 2024.12.18

NMB48の現役アイドルでありながら、小説家として処女作『アイドル失格』が大きな注目をあびた安部若菜さん。このほど2冊目となる小説『私の居場所はここじゃない』(どちらもKADOKAWA)を出版することになった。どのような思いを物語にこめたのか、お話をうかがった。

「芸能スクール」を舞台にアイドル経験を活かして描く

――まずはこの物語を書こうと思ったきっかけから教えてください。

安部若菜さん(以下、安部):1作目の『アイドル失格』では自分のアイドル経験を思いっきり詰め込んだ話を書きましたが、2作目をどうするかすごく迷ったんですね。やっぱり自分のアイドル経験はどこかに活かしたいと思ったので、それで「芸能スクール」を舞台にしようと決めて、そこから「夢」を目指す物語にしました。

夢というのは自分の中でもすごく大きなテーマで、「アイドルになりたい!」と思ってオーディションを受けて夢を叶えたものの、実際になってみたその先でいろいろ思うところがあって。なので、夢の明るい面とちょっと暗い面と両方を描きたいと思ったんです。

――良い面と暗い面とは、例えばどういうことでしょう?

安部:ライブはもちろん「アイドル」としての一つ一つの仕事はとにかく楽しくて幸せなんですが、一方でいつも「アイドルを卒業した後のこと」を見据えて活動しなくちゃいけないところがあって。

私はただアイドルになりたかっただけなので、その次の夢なんてそんなにポンポン出てくるものじゃないし、でも「夢を持たなきゃいけない!」「何者かになれっ!」みたいなプレッシャーがずっとあって。夢ハラスメントみたいっていうか。ずっと「夢って何なんだろう?」って思っていたので、そんな気持ちがこの本には活かせたかなと思っています。

――物語では「オーディション」が特別な場所への切符のような象徴的な存在になっています。確かに受かったことがゴールじゃなくて、問題はその先なんですよね。

安部:この物語は「夢を追いかけている子たち」の物語なので、彼らは必死にそこに向かっているんですけど、それでもふとした時に、本当に夢を叶えた先は自分の居場所なのかなっていう不安を持っていると思うんですね。「夢を追いかける」という時は「叶えること」がゴールになっているので、夢は良いものとして語られることが多い気がしますが、ほんとはそんなこともないかなっていう。夢がキラキラしすぎていても、それはそれでしんどいよなと思って、そんなに夢を追いかけなくてもいいんだよっていう気持ちも込めました。

――オーディションで勝ち取った先が「居場所」なのかどうか。この本のタイトルにも「居場所」とあります。かつては「自分探し」と盛んに言われましたが、今は「居場所探し」の時代なんだなって思いました。

安部:そうですね。私は高校時代に一時期不登校になったんですけど、その時に「学校に無理して行かなくてもいい」って言ってもらえたし、昔よりは自分の居場所を自由に選べるようになってきているんだと思います。

でも自由になったからこそ、自由すぎるからこそ、「今いる場所」が本当にあっているのか、もっと別のとこも選べるけどいいのかみたいな、自由がゆえに居場所が不安定になっている部分があるのかもしれません。

――居場所を勝ち取るためにいろいろ努力はするけれど、今の「自分」そのものは保全したままで、居場所を変えればなんとかなるって信じる感じは少し気になりました。

安部:同世代の子を見ていても、自分が場所に染まるっていうよりは、自分にあう場所を探すっていう方がメインになってきている感じがすごくします。SNSで情報も山ほど入ってくるので、他の場所のこともいろいろ見えてきますから。自分も他のグループが魅力的に見える時があったりしますし、やっぱり情報が多いからなんだと思います。

意識して生々しく描いたセンシティブな友情

――登場人物たちの「友情」みたいなものもすごくセンシティブに描かれていますね。心の距離が近づいても、あくまでもライバルというピリッとした何かがあって。

安部:ただの仲良しこよしにはならないし、やっぱり5人いたら、「この子とは仲良いけど、実はこの子はちょっと苦手」みたいなのもすごくあると思うので、そのあたりは意識して割と生々しく描きました。私は普段NMB48のメンバーと話すことが一番多いんですが、数年間ずっと一緒に夢を追いかけるような場所にいても、それでもやっぱりそれぞれ人には言えないこともありますし、腹を割って話しているようでも、私だって他のいろんな思いを抱えていたりしますから。やっぱり羨ましいとか嫉妬とか、そういうのだってずっと底の部分にはあると思いますし。

――本音をさらけ出し合うのが理想なわけじゃないですけど、ちょっとさみしい? ご自身にとって「理想の友情」ってどんなものだと思いますか?

安部:私は全部話すのがいいこととも思わないですね。話せないことがあって当たり前だし、それこそ人によって、この人にはこっちの方面話せるけど、この人にはこっちの方面とか、割り振られているぐらいが一番ちょうどいいのかなと思います。

――とはいえ、やっぱり孤独よりは誰かとつながっていたいというか。物語の彼らも最初こそライバル視バリバリでみんな孤独だけど、だんだんゆるくつながっていく。その空気感って悪いもんじゃないですよね。

安部:そうですね、一人でがんばって成長していく部分もあるんですけど、人と関わることで自分が変えられていくっていうのが一番大きいと私も感じています。人との関わりによって変わっていくけど、ただそれでもやっぱり孤独な自分もいるっていうのを、書きながらあらためて思いました。人と関わることっていいよなっていう部分もありつつ、でもそれが全てじゃないよなって、ある種の諦めみたいな感じというか。

――その諦観、伝わってきました。やはりアイドルっていうお仕事は厳しい面もあるじゃないですか。だからすごく安部さんの視点は「大人」なのかな?って思ったんですが、自覚はありますか?

安部:なんかすごく自分自身を俯瞰で、いつも引いて見ちゃうタイプなような気はしてます。

――確かに! だからこそ小説も書けるんだろうなって思いました。

安部:嬉しいです。結構アイドルしていると、俯瞰で見るのがあんまり役に立たないことが多いので。例えばダンスの先生から「もっと自分が前に出るっていうのを出して!」みたいによく怒られることもあります。

でも小説を書いてみて、そういうアイドルとして活かせなかった自分の部分をちょっとうまく出せているかなとは思っています。だから小説を書くのが楽しくて、日常であったいろんなことを「これいつか使いたいな」とかメモしたりしています。

「与えられた居場所で咲けばいい」は嫌い

――ダ・ヴィンチWebでも連載を始められましたが、「与えられた居場所で咲けばいい」って言葉が嫌いって書かれていたのがすごく印象的でした。

安部:やっぱりそんな風に簡単にいかないよって思うし、違和感があるんですよね。この本にも通じることですけど、自分から掴み取れる場所だってあるわけですから。

もちろん与えられた場所でがんばるのも大事ですけど、それがあわない場所だったら無理して潰れちゃうのが一番もったいないってずっと思っていて。本当に選択肢が増えた時代なので、違う場所を探したらいいところが見つかるかもしれないし、そこもダメだったらほかに変えたっていいし。

――本の中では夢を諦める子が出てきます。でもすごくスッキリとやめていて、諦めることの清々しさも伝わってきました。

安部:「いつ諦めるか?」っていうのが一番難しい選択だと思うんですけど、程よく粘りつつ、でも無理に「ここしかダメだ」っていうんじゃなくて、別に違う夢を探してみようかなぐらいの軽さがあっていいんだろうと思います。

自分にとって譲れないものだけ一個持っていたら、なんでもかんでもしんどいのにやらなくてもいいし、逆にしんどいからってなんでもすぐに辞めていたら、後々の自分にも悪いことになっていくように思います。しんどいけどがんばりたいのか、ただしんどいだけなのか、じっくりじっくり考えてみたらいいんじゃないかな、と。

――ちなみにご自身にとっては、絶対譲れないのってどんなものですか?

安部:なんだろう。でもなんか「勝って終わりたいな」っていう思いはずっと自分の中にありますね。NMB48に入った最初の頃はなかなかうまくいかなくて、ずっと「辞めたい辞めたい」って思っていたんですけど、親に「3年は続けろ」って言われて仕方なく続けました。

でもやっぱり何年か続けると、「ここまでやったのに、最後にしんどいで終わるのがいやだな」って思うようになってきて、どんなことでも一番気持ちよく終われるまではしんどくてもがんばろうって思っています。

誰かの「居場所」になる作家になりたい

――ちなみにこの本はどんな人に届けたいと思って書いたんでしょう?

安部:自分と同世代の20代、この本の主人公たちの10代とか、ちょうど夢とか自分の居場所とかに悩んでいる子に読んでほしい。苦しんでいる中で、何かちょっと息抜きになるような本になったらいいなっていう思いで書いていました。

――作者としてはこの登場人物たちはどうなっていってほしいですか?

安部:彼らは芸能界に入りたいっていう夢を持っているので、もちろんそれが叶えてくれるのが一番いいかもしれません。

けど、でもその芸能界が本当にその子にあってるかどうかはまた別の話なので、いろんな紆余曲折を経て、30、40歳とかになった時に「ここが居場所だったんだな」って思える場所を見つけてくれたら一番嬉しいですね。夢を叶えたからといって居場所じゃないよなっていう思いは、やっぱり一番あるので。

――ちなみにご自身にとって、理想の居場所ってどういうものですか?

安部:そこにいてしっくりくるというか、もうちょっとここにいたいなとか思える場所かな。ああ幸せだな、みたいに思えるというか。もしそこでしんどいことや大変なことがあったとしても、でもやっぱりそこにいる自分が「好き」って思えるなら、それが一番理想の居場所かなと思います。

仕事とか家庭とかにでもなく、趣味の場所が自分にとって安らぐ居場所って人もいると思うし、この本のような夢の先に限らずに居場所はいろいろあるんだと思います。

――ちなみにご自身も小説だけでなく、落語や投資といろんなことにトライされていますよね。どこか「居場所を探す」みたいなところもある?

安部:すごくあります。アイドルっていろんなことをやってみて「一番はこれだ」みたいなのを探せる仕事でもあると思うんです。私はアイドルになった次にやりたいことがなかったので、とにかくバラエティとかいろんなことを「まずはやってみる」ことから始めました。

でもこうやって本を書くのが、今は一番楽しいと思っています。2作目も出させていただけて、自分にとって「書くこと」が支えになってきているのを実感します。

――いいですね! これからどんな作家になりたいですか?

安部:今はまだ「自分で作家って名乗っていいのかな?」ぐらいの感じですが、私も本が好きで、「この作家さんの新刊出るのが楽しみだな」とか、それを読んでいる時間が支えになったりとかしているので、私もいつか誰かに「この人の本を読むためにがんばって生きよう」って思えるぐらいの人になりたいです。

――「居場所」になるんですね!

安部:はい。居場所になれるような作家になりたいです。

取材・文=荒井理恵、撮影=中林香

元記事で読む
の記事をもっとみる