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結婚して26年。夫は「面倒くさい」を一緒にやってくれる人だった

  • 2024.12.18

まだ私が恋に焦がれる乙女ちゃんだった頃、好きな男の子の名字を書き、その横に自分の下の名前を書いてニヤニヤしていた。
今考えるとちょっと怖い気もするが、好きな人を遠くから眺めること以外に出来ることはそのくらいしかなかった。
好きな相手に告白するでもなく、ただただ好きな人の名字を見るだけでキュンっとなったものだ。

教室で、街中で、好きな人と同じ名字を聞くとドキンと心臓が跳ね上がる。もしかしたらどこかにいるのかも? とキョロキョロ辺りを見回してみたりして。

若くてうぶだったあの頃、好きな人の名字を聞くだけで心と体の温度が上がっていた。
誰かを好きになったりいいなって思った時、その人の名字が特別なものになる。
今まで普通に思っていた名字が、好きな人の名字と同じと言うだけでプレミアがつく。
なんて簡単な魔法だろう。

◎ ◎

私も乙女ちゃん時代から数年が経ち、いろんな名字の好きな人と出会い、つきあい、別れた。

恋愛に疲れて結婚なんてできない。
そう思っていた時に運命の人が流星のごとく目の前に現れた。
もう恋愛なんて面倒くさい、と思っていたのに彼に一目惚れをしたのである。

彼の名字は横山といって、いつも「横山さん」と呼んでいた。
付き合い始めてもなかなか下の名前を呼ぶことが出来なくて、いつまでたっても「横山さん」だった。
結婚した後も夫のことを「横山さん」と呼ぶ私に「自分も横山じゃん」と優しく笑ってくれた夫。
乙女時代の影響があるのかもしれないが、好きな人の名字を口にするだけで幸福感に満ちあふれる。

その後職場や銀行窓口で「横山さん」と呼ばれると自分が呼ばれてると気がつかず、「私の好きな人と同じ名字だ」とぼんやり宙を眺めニヤニヤすること数秒……「まてまて、私も横山さんになったんだ!」と自分が呼ばれていることに気づき、照れながら返事をしていた。
それからもしばらく「横山さん」と呼ばれるたびに「うおっ!」とか「あー!」とか小さく叫び飛び跳ねていて、どこからどうみたって怪しい人物だった。そんな私も結婚して26年経ち、ようやく横山と呼ばれることに慣れてきたと思う。

◎ ◎

生まれ育ってきた自分の名字に執着はなく、好きな人と同じ名字になれた嬉しさが今も変わらずにある。
私の育った時代には夫婦別姓など耳にしなかった。それがいいことか悪いことかわからない。いろんな考え方があるし、置かれた立場も様々だから。ただ一つ言えることは今の時代はあらゆる選択肢があるのだから「自分の好き」を進んでいけばいいと思っている。
若い世代の娘に結婚して名字を変える事について聞いてみると「面倒くさいよね」という一言が帰ってきた。

確かにあらゆるものを変更しなくてはならない。免許証に通帳など、手間はかかる。今考えると確かに面倒くさいと思う気持ちも分かる。
私の時はどんな気持ちだったっけ? と自分の名字変更手続きのことを思い出してみたが嬉しいとか、ひゃーっと高揚した気持ちしか思い出せなかった。夫のことが相当好きだったんだろう。

そういえば、私が名字変更の手続きをするときは夫も一緒に行ってくれたのだ。
「今日から同じ名字だね」って笑った夫の顔が嬉しそうで私も嬉しかった。
名字が変わることで好きな人の一部になったように感じていたのかもしれない。
生きてきた年数の半分以上好きな人の名字で過ごせていて今も有り難く思う。

娘がいつか人生を一緒に過ごしていきたい人が現れたとき、名字を変えるのかそのままなのかわからない。確かに結婚すると名字を変えること以上に面倒くさくて大変なことは多い。でもそういったこと全てひっくるめた「面倒くさい」を一緒に楽しめる人と出会えたらいいなと思っている。

■横山小寿々のプロフィール
書く描く作る作家。セラピストを20年間してきた後、ME/CFSになりほぼ寝たきりの毎日に。Love&Peace+笑いがモットー。https://note.com/kosuzu77/

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