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三菱一号館美術館「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」で考える、「不在」と「存在」の関係性

  • 2024.12.16

2010年4月の開館以来、19世紀の近代美術を中心とする多彩な企画展を40本開催してきた三菱一号館美術館。2023年4月から設備メンテナンスのために長期休館となっていたが、2024年11月23日(土)より、リニューアル・オープン最初の展覧会となる「再開館記念『不在』―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル」が開催されている。

本展では、三菱一号館美術館のコレクション、そして展覧会活動の核をなすアンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(1864~1901)の作品を改めて展示し、そこにフランスの鬼才、ソフィ・カルを招聘。同館の美術館活動に新たな視点を取り込み、今後の発展につなげていくことを目指すという。

「不在」の考察を続けるフランスの鬼才、ソフィ・カルの創作活動を多彩に

今フランスで最も有名な現代アーティストのひとり、ソフィ・カルは、制作活動を始めた1979年以降、自伝的作品をまとめた『本当の話』(1994年)や、自身の失恋体験による痛みとその治癒を主題とした『限局性激痛』(1999年)など、テキストや写真、映像などを組み合わせた作品を数多く生み出してきた。また、『見ることとはなにか』を追求したシリーズ『盲目の人々』(1986年)、『最後に見たもの』(2010年)などを通して、美術の根幹に関わる視覚や認識、「喪失」や「不在」についての考察を行なっている。

ソフィ・カル氏ポートレート Sophie Calle Photography : Yves GéantHarumari Inc.

本展では、そんなソフィ・カルの多くの作品に通ずる「不在」をテーマに、作家自身や家族の死にまつわる『自伝』や、テキストと写真を融合した手法で構成された『なぜなら』といった代表的なシリーズを紹介。美術館における絵画の盗難に端を発したシリーズ『あなたには何が見えますか』(2013年)や、ピカソ(作品)の不在を示す『監禁されたピカソ』(2023年)、映像作品『海を見る』(2011年)など、彼女の多様な創作活動に触れることができる。

「存在」に迫り続けたロートレックのポスター、版画が136点

一方、19世紀末を代表するフランスの画家トゥールーズ=ロートレックは、「不在」と表裏一体の関係にある「存在」についてこんな言葉を残している。

「人間だけが存在する。風景は添え物に過ぎないし、それ以上のものではない。」

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《ジャヌ・アヴリル(ジャルダン・ド・パリ)》、1893年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵Harumari Inc.

ロートレックは、生涯にわたって人間を凝視し、その心理にまで踏み込んで、「存在」それ自体に迫る作品を描き続けた。ポスター画家として評価されがちだが、彼は多彩な版画作品や油彩画なども数多く残している。本展では、ポスター32点のほか、《ロイ・フラー嬢》(1893年)をはじめとする主要版画作品、アンリ=ガブリエル・イベルス(1867~1914)と共作した『カフェ・コンセール』(1893年)や、『彼女たち』(1897年)といった代表的版画集、フランス国立図書館から借用した版画作品11点を加えた136点を展示。

アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《エルドラド、アリスティド・ブリュアン》、1892年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵Harumari Inc.
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック 《メイ・ミルトン》、1895年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵Harumari Inc.
アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック《54号室の女船客》、1896年、リトグラフ/紙、三菱一号館美術館蔵Harumari Inc.

「時代の記録者」ロートレックが描いた人々も「不在」となり、今ではその作品のみが「存在」している。ソフィ・カルから投げかけられた「不在」という主題を通し、私たちは、当事者が関わることができない展覧会や美術館活動の「存在」について、どう考えるだろう。

再開館記念「不在」 ―トゥールーズ=ロートレックとソフィ・カル
会場:三菱一号館美術館(東京都千代田区丸の内2丁目6−2)
会期:2024年11月23日(土)~2025年1月26日(日)
公式WEB:https://mimt.jp/ex/LS2024/Harumari Inc.
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