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切り取られた「脳を再生」できるウーパールーパーの秘密を解説!

  • 2024.12.15
Credit:Canva . ナゾロジー編集部

ウーパールーパーには脳や脊髄、心臓など体の中核となる部分を再生する能力があることが知られています。

さらにスイス連邦工科大学チューリッヒ校(ETHZ)による2022年の研究では、ウーパールーパーの脳再生の様子を調べたところ、切り取られた全ての脳細胞の型が復活し、神経も以前と同じように再接続されていることが判明したのです。

再生した脳が以前と同じような神経接続を行うことで、再生した部分も元の機能を取り戻せるという。

そのため、ウーパールーパーの脳再生能力を人間に応用できれば、事故や病気によって失われた脳を再生し、神経を再接続することが可能になるかもしれません。

では、ウーパールーパーが脳を再生する秘密に迫ってみましょう。

研究の詳細は2022年9月2日に科学雑誌『Science』に掲載されています。

目次

  • ウーパールーパーの脳再生は「3ステップ」で進行する
  • 脳再生では「ありふれた遺伝子」たちが活躍していた

ウーパールーパーの脳再生は「3ステップ」で進行する

切り取られた「脳を再生」するウーパールーパーの秘密とは?/ Credit:Canva

人間やマウスなどの哺乳類は、失った手足や脳などを元通りに再生することはできません。

ところがウーパールーパー(アホロートル)の名前で知られる両生類たちには、手足や心臓を再生できるだけでなく、脳や脊髄のような中枢神経すら再生する能力があります。

しかしウーパールーパーの脳再生がどんな仕組みで行われているかを細胞レベル・遺伝子レベルで詳しく調べることは困難でした。

そこでスイス連邦工科大学チューリッヒ校は2022年に、ウーパールーパーの終脳(人間の大脳に相当する部分)において、どのような細胞が再生され、内部でどのような遺伝子が活性化しているかを調べてみました。

するとウーパールーパーの終脳には、カメやマウスの海馬(記憶を司る)や嗅覚皮質(匂いや感覚を司る)にあるニューロンと類似した遺伝子活性を持つ脳細胞が存在することが判明しています。

この結果は、両生類から哺乳類に至るまで、脳には種を超えた類似性が存在しており、哺乳類の新皮質が両生類の終脳に先祖となる細胞型を持っていることを示しました。

どうやらウーパールーパーと哺乳類は種としては大きな違いがあるものの、脳には似たような細胞が存在していたようです。

次にチームは、ウーパールーパーの頭部を切開して終脳の一部を取り除き、損傷後1週間から12週間までさまざまな段階を調査し、再生過程においてどんな細胞が現れるかを調べてみました。

すると、脳の再生は3段階にわかれていたことが判明します。

第1段階ではニューロンの元となる細胞(前駆細胞)の急激な増加が起こり、それらの細胞の一部が治癒過程のスイッチを活性化していました。

第2段階では、増えた前駆細胞が中間となる神経芽細胞に分化。

第3段階では神経芽細胞は失われた脳と同じタイプのニューロンに変化していきます。

そして最終的には、切り取られた全ての細胞タイプが完全に復元されていることが確認できました。

また驚くべきことに、再生した脳領域と残った脳領域の神経が元と同じように再接続されていることも観察されたのです。

このような再配線は、再生された脳領域が単に穴埋めされただけでなく、元の機能を取り戻している可能性を示します。

しかしより興味深いのは、脳再生が行われているときだけ活性化する遺伝子の存在でした。

脳再生という気興味深い現象は、いったいどんな遺伝子によって駆動していたのでしょうか?

脳再生では「ありふれた遺伝子」たちが活躍していた

脳再生はどんな遺伝子によって引き起こされていたのか?

その謎を解明するため、チームは再生中のウーパールーパーの脳から細胞を取り出して、遺伝子活性を調査しました。

結果、最初に活性化する遺伝子「RunX1」「Kazald1」はカエルの手足の元となる細胞で働いているものと同じものだと判明。

また「RunX1」は再生中のプラナリアの新生細胞でも働いていることが知られています。

これらの遺伝子は細胞の種類や種に関係なく、一般的な治癒反応に関与していると考えられます。

(左)単一核マルチオームシーケンスにより、ウーパールーパーの終脳(大脳)における細胞タイプと特異的遺伝子の包括的データを概観を得ることができました。 (真ん中)単一細胞データの種間比較により、ウーパールーパーの脳細胞が爬虫類や哺乳類に似た細胞を持つことが判明。 (右)脳損傷後のsnRNA-seqによる時間経過から、再生と恒常的な神経新生の違いと類似性を明らかにしました。
(左)単一核マルチオームシーケンスにより、ウーパールーパーの終脳(大脳)における細胞タイプと特異的遺伝子の包括的データを概観を得ることができました。 (真ん中)単一細胞データの種間比較により、ウーパールーパーの脳細胞が爬虫類や哺乳類に似た細胞を持つことが判明。 (右)脳損傷後のsnRNA-seqによる時間経過から、再生と恒常的な神経新生の違いと類似性を明らかにしました。 / Credit:KATHARINA LUST et al . Single-cell analyses of axolotl telencephalon organization, neurogenesis, and regeneration (2022) . Science

また初期の反応とは別に、神経が再生する時期にも、通常の神経新生のときに現れるのと非常に似た遺伝子たちが働くことが判明しました。

(※ 哺乳類の脳でも限定的ながら神経の新生が起こっていることが知られています)

つまり脳再生という奇妙な現象でも、一般的な傷治療や神経新生に使われる、ある意味で、ありふれた遺伝子たちが活躍していたのです。

これらの結果から研究者たちは、ウーパールーパーの脳再生を研究することは、人間の脳再生という再生医療における究極の目的の手助けになると結論しています。

人間の脳については、認知症や神経変性などによって機能が制限させる症状が報告されています。

もしかしたら未来の再生医療では、損傷した手足や内臓と共に、損傷した脳さえも交換することが可能になるのかもしれません。

※この記事は2022年9月に掲載したものを再編集してお送りしています。

参考文献

Axolotls Can Regenerate Their Brains
https://neurosciencenews.com/axolotls-brain-regeneration-21355/

元論文

Single-cell analyses of axolotl telencephalon organization, neurogenesis, and regeneration
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abp9262

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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