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パレ・ロワイヤルの1ツ星ノームで、シェフの個性が光る美食の体験。

  • 2024.12.15

2022年9月にパレ・ロワイヤルの脇道にオープンし、2024年に1ツ星を得たレストラン「NHOMe(ノーム)」。オーナー兼シェフはイスラエル人のマタン・ザケン、まだ31歳だ。この店ではシェフのクリエイションを発見する前に、ダイニングスペースにテーブルが1つしかないことに食事客はまずびっくりさせられる。複数のテーブルがなんとなく長方形のようなフォルムを連なって作りあげ、巨大なターブルドットのようなのだ。周囲には最大16人が座れる。といっても、16名が揃って同時に食事をする仕組みではないので、ご安心を。

ミシュランの星付きレストランで食事というと格式やら敷居やらといった言葉が浮かぶかもしれないけれど、ノームの店内では耳障りにならぬ音量でロック系の音楽が流れ、いたってカジュアルな雰囲気。オレンジ色にまとめられた化粧室にも意表を突かれるだろう。料理を食べるより先に、シェフの個性的な世界にどんどん誘い込まれていく感じ。マタンはジョルジュVでクリスチャン・ル=スケールの下で働き、ついで2区のSaturneを経由してロンドンへ......という経歴の持ち主である。

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レストランがあるのは、パレ・ロワイヤルの回廊とリシュリュー通りに挟まれた細い通りで、かつて36番地にジャン・コクトーが暮らしていたアパルトマンがあるモンパンシエ通り。photography: Mariko Omura

彼が提案するのはデギュスタシオンメニューのみ。基本となるディナーメニューは9皿(130ユーロ)。ワインのマリアージュは5杯(+85ユーロ)、7杯(+105ユーロ)の2タイプがあるので、お酒にあまり強くない人も試してみたくなるのでは ?  金曜のみランチ営業していて、6皿メニュー(105ユーロ)と9皿(130ユーロ)のチョイスだ。

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食前酒に迷ったら、シェフのおすすめであるビオのドラピエのシャンパーニュCuvé Clarevallisを。photography: Mariko Omura

メニューはシェフのシグネチャー料理と季節の料理で構成され、植物、海産、肉が盛り込まれている。その幕開けは、3種のアミューズブーシュから。たとえばいまの季節なら、トリュフクリームを詰めたシュー、次いでリヴェッシュの泡をのせた帆立貝のタルト、最後にエシャロットのコンフィとビーフタルタルである。レストランのシグネチャー前菜、それは燻製ウナギとフォアグラという異色の組み合わせだ。それに注がれるのは玉ねぎのブイヨンで、これにはパリの名物オニオン・グラティネを思わせるものというシェフの意図がある。その上に生と火を通した大根、ウナギのブイヨンで茹でたオニオン。小さな葉は高地に生える珍しいアガスタッシュ(アニスヒソップ)で、アニスとフェンネルの味わいとフレッシュさをプラスするものだ。この逸品、最後はうつわに口をつけて、ウナギとフォアグラの味も混じり合ったブイヨンの最後の一滴までを味わうことを勧められる。パリのレストランではし慣れない行為ながら、この忘れがたい食感と味わいのクリエイションへの礼儀正しい振る舞いだろう。なおこれは冬のバージョンで、夏バージョンはウナギと発酵させたトマト、カヴァイヨン産のメロン、カワマスの卵、マリーゴールドだそうだ。こちらも不思議でおいしそう。

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アミューズ・ブーシュ。@lephotographedudimanche
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シグネチャー前菜にブイヨンを注ぐシェフのマタン・ザケン。@lephotographedudimanche
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個性的なうつわでサービスされる。最後は飲み口を見つけて、ブイヨンを飲む。@lephotographedudimanche

このレストランではいまどきちょっと珍しいことにメインに移る前に、トルゥ・ノルモンが登場する。通常はカルヴァドスだが、ノームではフランスのジュラ地方で蒸留されるジンを用い、コリアンダー、エストランゴンのグリーンの風味がフレッシュで、次なる料理へと胃袋の準備が完了! その後、魚はブルターニュのオマール・ブルー。柿をナスのキャビアのように仕立てたというのがアイデア。それにニンジン、レッドオレンジなどが並んだところにオマールのビスクをかけて......。コクと酸味がオマールの味に個性をプラス。肉料理はいまの時期ならジビエとなる。シェフによると、ジビエのセレクションの基準はあまり癖がなく、誰にでも受け入れられるものとして、おいしいビーフに近い新鮮な鹿を選んでいるそうだ。それにハイビスカス、トリュフ、ピエ・ド・ムートン茸......シェフの技、的確な計算が光る深みあるひと皿に仕上げられている。

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デギュスタションメニューは9皿130ユーロ。ワインのペアリングは+85ユーロ(5杯) あるいは+105ユーロ(7杯)。金曜のランチは6皿のデギュスタションメニュー(105ユーロ)か9皿のデギュスタションメニュー。@lephotographedudimanche

チーズの後のデザートにも季節が生かされ、マルメロ(カリン)、バターナッツ、ナスタチウムの花という秋の組み合わせだ。これに添えられる飲み物がおもしろい。昆布茶とマルメロのブランデーに、ナスタチウムオイルが注がれてグリーンの模様がグラスの中に浮かぶのだ。肉料理を食べた後の口内がスッキリする。ミニャルディーズとカフェの前、もうひとつデザートが登場。デザートに野菜というのは最近ではよく見かけるようになったけれど、ノームではさらに一歩先に進んで海藻が取り入れられている。ブルターニュで取れる"海のレタス"ことオオバアオサをラブネ(ルバンタン地方の塩を加えた水切りヨーグルト)、焼いたグレープフルーツや、シトロン・メイヤー、キャビアレモンなどの柑橘類と組み合わせ、そこにオオバアオサのブイヨンを注ぐのだ。甘さはほのか。ちょっと前菜のようなデザート。新世代シェフらしい食事の締めくくりといえよう。

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デザートにいたるまで発想がユニークで個性的だ。photography: Mariko Omura

ノームの食事はうつわにも驚きがある。シェフはポルトガルをベースに活動するアマンド・アーゲンに、陶芸家の彼女が通常は行わないといううつわの制作を依頼した。パンの容器にいたるまで彼女の仕事で、またダイニングルームの壁には彼女の陶素材のアートワークが飾られている。内装と家具は、Studio leLADを率いるギヨーム・テルヴェールが担当。シェフの料理に呼応するように、レストランという言葉にイメージする空間とは少々異なる味わいがある。店がある場所はかつてナイトクラブで、そのダンスフロアだったスペースにテーブルが設けられているのだ。1ツ星の次は2ツ星。それについてシェフは後4~5年か5~6年かな?と。この個性的な料理と店がどのような冒険に挑んでゆくのか行方を見守ろう。

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16名が周囲に座るターブル・ドットが置かれたダイニングルームは、その昔はナイトクラブのダンスホールだったそうだ。photography: Mariko Omura

NHOMe
41, rue de Montpensier 75001 Paris
営)12:00~14:30(金のみ。予約は12:00、12:30、13:00スタート)、19:00~24:00(予約は19:00、19:30、20:00、20:30、21:00スタート)
休)土、日、月~木ランチ

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