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「角野栄子あたらしい童話大賞」応募数2000超の中から受賞作が決定! 審査委員長・角野栄子「見たこともないような新しい幼年童話を生み出してほしい」《贈呈式レポート》

  • 2024.12.15

無我夢中で本を読んだ子どもの頃の記憶は、大人になってからも人生を支えてくれるもの。2024年からスタートした「角野栄子あたらしい童話大賞」は、まさに子どもたちを夢中にさせる作品を求めて創設された童話賞です。

審査委員長は「アッチ・コッチ・ソッチの小さなおばけ」シリーズ(ポプラ社)、「魔女の宅急便」シリーズ(福音館書店)などの角野栄子さん。特別審査員に「かいけつゾロリ」シリーズ(ポプラ社)の原ゆたかさん。現代を代表する児童文学作家に作品を読んでもらえる絶好の機会ということもあり、同賞には2289作品という予想をはるかに上回る数の応募がありました。

「これまでの童話のイメージにとらわれず、自由な表現で、5~8歳の“自分で本を読み始めた”子どもたちに向けて書かれたもの」という条件のもと、記念すべき第1回の受賞作に選ばれたのは4つの童話。2024年11月26日の贈呈式で語られた受賞者の言葉、審査員のおふたりによる選評をお届けします。

2024大賞 迂回ひなたさん『びょうき銀行にあずけちゃえ』

【あらすじ】病気を預けたり引き出したりできる「びょうき銀行」という斬新なアイデアが光る作品。

【角野栄子氏・選評】びょうき銀行にATMのカードがあったりして、本筋とはちょっと離れたところのこまやかな気配りに、作者の日常の暮らしの豊かさが見えます。それが作品を魅力的にしているし、読む側の想像力もそこから広がって楽しませてもらえる。ただ、この病院は大人でも子どもでもいいのか、どんな病気でもいいのか、そのあたりがぼやけているので、ちゃんと書いてあるといい。何回も書き直しをして、これからもどんどん成長していただきたい。

【原ゆたか氏・選評】この作品を読んだ後、実際に病院に行く機会があり、トイレに行った時、奥にびょうき銀行があって病気を預けられないかな…と思ってしまった。“ひょっとしたら本当にあるんじゃないか”というリアリティにドキドキする。子どもにとって興味のあるテーマだった。ただ、子どもにとって便利なだけのシステムだとずるをするお話になってしまう。甘えるだけではうまくいかなかった、という教訓がどこかにあるといいと思います。

【受賞者・迂回さんの言葉】普段は小学校の教員をしております。「先生は言葉で子どもに魔法をかけるお仕事なのよ」という恩師の言葉を心に留めながら、このお話を書きました(小学校教員。新潟県新潟市出身、神奈川県在住)。

2024優秀賞 卯月きいろさん『ねこふとん』

【あらすじ】ふとんのセールスマンである猫が、人間の子どもに「ねこふとん」を売りに来るかわいらしいお話。

【角野栄子氏・選評】“こうなったら面白いな”と読者を引っ張る力のある作品ですが、最後の場面で作者が悩んだ気持ちが伝わってきました。何回も最初から書き直すと、新しい発見があって物語が動いていくんですね。読者があっと驚きながらも納得する最後も見えてきます。面白い世界を書きたい気持ちが伝わりました。これからも頑張ってください。

【原ゆたか氏・選評】私自身も子どもたちをびっくりさせるような意外なラストを書くほうなので、このお話のラストの意図もわかります。ただ、ラストのオチに繋げるための伏線がほしかったです。または逆に、驚かせるというより、ほのぼのとしたドラマに仕上げた方が良かったかもしれません。

【受賞者・卯月さんの言葉】先生方のお言葉にありましたように、推敲を重ねながら、これからも書き続けていきたいと思います(塾講師。静岡県在住)。

2024奨励賞 黒石かおるさん『タロウくんのいつものとくべつないちにち』

【あらすじ】花山小学校1年3組 田中タロウくんの、生まれてから2555日目のいつもの朝をコミカルに描く。

【角野栄子氏・選評】主人公の一日を実況放送する設定が面白かった。平凡だけど特別な一日は誰にでもあって、それを実況放送すれば連作になる可能性も秘めている。作者が日常でいろんなことに興味を持ち、どれだけ冒険するのかが勝負のしどころ。天才は(物語を)パッと書けるかもしれないけど、私のような凡才は職人のようにいつも書いていないと。でもね、それがまた楽しいんですよ。これからも大いに期待しています。

【原ゆたか氏・選評】小学生の日常を実況中継するっていうアイデアがものすごく面白い。もっとこうなったら、ああなったら…と想像できて、昔絵描きだった頃の自分なら絵を描いてみたいと思うようなお話でした。実況をもっと派手にしてもいいし、ワクワクするような事件がたくさん作れそうです。

【受賞者・黒石さんの言葉】(贈呈式が行われた)魔法の文学館の本棚を見ていたら、子どもの頃に何回も読み返した本に出会い、大人になってから忘れていたいろんな記憶がよみがえって、童話の素晴らしさを実感しました。これからも楽しいお話を書いていきたいです(会社員。兵庫県神戸市出身、東京都在住)。

2024奨励賞 こなみるいさん『ロブくんのぼうけんレストラン』

【あらすじ】シェフであり冒険家であるロブスターのロブくんが、冒険の思い出話と共に料理をふるまう。イラストも満載。

【角野栄子氏・選評】シェフで冒険家のロブくんしか作れないような、びっくりするような料理を見せてもらったらグンと面白くなりますよ。気になったのは、ザリガニとワニの大きさにリアリティがないんです。ファンタジー作品やナンセンス作品だからこそ、ちょっとしたところにリアリティがほしい。発想はとてもユニークで、驚くようなお話を書ける作家さん。ロブくんストーリーをどんどん書いてほしい。楽しみにしています。

【原ゆたか氏・選評】子どもは食べ物が大好きだから、お話の中で書く時には、どんな味がするんだろう…と想像させるところまでいかないともったいないなと。みんなが食べてみたいと思えるような未知の料理とワクワクさせる冒険が合体したら、シリーズ化できそう。大きな可能性を感じました。

【受賞者・こなみさんの言葉】応募した日に落選の夢を見るほど自信がなかったのですが、このような賞をいただき、そちらのほうが夢のようです(デザイナー。北海道札幌市出身、東京都在住)。

その人の体の一部になるような幼年童話を

審査委員長・角野栄子さんのゆかりの地に建てられた「魔法の文学館(江戸川区角野栄子児童文学館)」で行われた贈呈式。著者の将来性を鑑みながら選考された4作品は、これから編集者がついて刊行を目指していくそうです。

贈呈の後には角野さんが、本賞に対する想いや、幼年童話の必要性についてスピーチ。

「自分で字を読み始めることの楽しさを知るのが5歳から7~8歳くらい。この頃に読んだ本の潤いが、その人の体の一部のようになって人生についてまわるような気がします。私自身もそうでした。作家自身が楽しみながら書ける場を作り上げたら、子どもたちが面白いと思える作品が書けるんじゃないかな、と。今回の受賞作はみんな主人公が素晴らしかった。でも欲張りなもので、“形ができてしまっている”とも感じました。見たこともないような新しい幼年童話にこれからも期待しています」

また、「子どもの頃に面白い本に出会ったら、本好きの大人に育っていくのだから、幼年童話はもっとも継承しなければならない文学。日本の出版文化もそこから始まっていくのだと考えています。この文学館にはピカピカした読者がいっぱい来て、みんな楽しそうに本を読んでいます。そういう風景がずっと続いてほしい」と幼年童話の今後に期待を寄せる言葉もあり、大きな拍手がおくられました。

子どもの人生そのものに伴走するような幼年童話を——。本賞が抱える大きな可能性を示すような贈呈式となりました。

取材・文=吉田あき 撮影=島本絵梨佳

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