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使い分けていた名前たちは、どれも私が私であるために必要だった

  • 2024.12.15

私は名前で何を表現しているのだろう? 今使っている名前は、本名、書道の雅号、アマチュア創作活動で使うペンネーム。

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雅号は、何か趣味が欲しくて始めた書道で、師匠に「馨扇(こうせん)」とつけてもらった。自分が新しくなった気持ちがした。ペンネームは、朗読したり詩を書いたりする時、例えば仕事仲間に本名を検索されてもプライベートの活動がヒットしないように使い始めた。

アマチュアのアーティスト仲間との合同イベントで、私が書道と詩の2ジャンルを出した時には、仲間から「名前は何にする?」と訊かれた。「書道はこっち」「朗読はこっち」と自分に意外とこだわりがあったことに気づく。「私」の顔も名前も1つでなくてもいい。

離婚歴がある。結婚していた時は、パートナーの希望で名字を変えた。選択的夫婦別姓の法案が認められるか、当時もニュースになっていた。私は別姓を選びたかったが、法律は間に合わない。事実婚には元夫は反対で、昔ながらの妻が名前を変える夫婦の形を求めた。

もしかしたら、彼の心に妻の上に立ちたい気持ちがあったかもしれない。彼によると「結婚して名字を変えるのはご飯を食べて排泄するくらい当たり前」というような説明だった。悲しかった。でも言い出したら譲らない彼と言い合いを続けても時間の無駄。

結局私が折れ、名字を変えた。せめてもの抵抗で、職場では旧姓使用した。本名、旧姓、雅号、ペンネーム、名前が4つ。気の置けない仲間には「よく使い分けるね」と笑われたが、どれも私が私であるために必要だったと思う。

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名前の問題が自分事となると、結婚して名字を変えるのが圧倒的に女性が多いのも不公平だと思ったし、また、たまに会う程度の仕事の関係者に「改姓しました」と結婚のプライバシーを知らせるのも煩わしい。そして名前を変えたために、同じ仕事なのに書面上は途中から別人がやったように見えるのも不本意だった。

ぎくしゃく始まった結婚生活。元夫は「お弁当作ったから持っていきな」と朝早く出勤する私に声をかけるような気のいいところもあったが、拘ると意固地になる性格が徐々に明らかになり、彼が怒って暴力沙汰になることもあった。結婚前の名前のやり取りが象徴的だったのかもしれない。そんな生活に耐えられなくなり、私は逃げた。

離婚が成立するまで約3年。時を経て旧姓に戻った時は、押し殺して小さくなった自分を捨てて、身軽になった気がした。ただ、クレジットカード、銀行通帳など、契約していたものの名前を変える作業の煩わしかったこと! 窓口に電話すると「手数料〇円いただきます」と言われるのも悔しかった。

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私の教員免許状には、備考欄に「平成××年10月1日、書換により〇〇(元夫の姓)を△△(現姓)に改める」と一行追加で記載されている。それを見るたび、渦の中でもがいていた自分を思い出し痛みを感じる。学校に就職する時にプライバシーが知られてしまう文、いらないよな…。

ある時、インプロと呼ばれる即興劇のワークショップに行った。ワークショップリーダーから「自分の呼ばれたい名前をシールに書いて貼ってください。本名でもニックネームでも、今思いついたものでも何でもいいです」と言われた。呼ばれたい名前か。そう言われると迷う。結局私は下の名前を平仮名で書いた。私は私が名付けていい。

名字は自分が自分であることだけのために使いたい。代々続く家の名字を継ぐとか、結婚を機に名字を変えて新たな気分になるとか、本人の希望があれば自由だが、そこに人間の上下関係が現れるのは苦しく感じる。名前を廻る事情はいろいろあるだろう。誰でも顔はひとつだけではないだろうから、呼ばれ方もいろいろあっていいはず。とりあえず、私は今3つの名前と仲良くしていこう。

■芦田みのりのプロフィール
好奇心旺盛に生きています。不器用ながら、世代を越えた繋がりを求めて模索中。教育関連の職歴あり。朗読と書道と登山とカフェとチョコレートが好き。海外とも交流したい!

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