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【インタビュー】川口かおるさん「限界まで頑張らずに心の声、体の声に気づく」絵本が教えてくれたこと

  • 2024.12.15

閉経前後で心や体が大きく変化する「更年期」。
英語では更年期を「The change of life」と表現します。その言葉通り、また新たなステージへ進むこの時期をどう過ごしていったらいいのか—。
聞き手にキュレーターの石田紀佳さんを迎え、さまざまな女性が歩んだ「それぞれの更年期」のエピソードを伺います。

今回お話を伺ったのは・・・
川口かおるさん
1974年、長崎県五島列島の福江島生まれ。大学卒業後中学校の国語教師として勤務し、出産を機に退職。その後、童話館へ。現在は、童話館出版と童話館の編集企画室室長。著書に、岩波ジュニアスタートブックス『中学生からの絵本のトリセツ』(岩波書店)がある。
https://douwakan.co.jp/

尊重しあえる同志に夫との新しい関係

今年50歳を迎える川口かおるさんは、社会人の娘と夫との3人暮らし。子育てを終え、自分の時間も持つようになった。
 
「ピアノを再開したり、一人で旅行に行くようになりました」 夫との新しい関係も始まった。
 
「ずっとすれ違いの生活でした。 平日が休みの彼と日曜日が休みの私。私が寝る頃に夫が帰ってきて、私が出かける時には彼はまだ寝ている。共働きですが、人それぞれ得意や苦手があるので、苦手なことをしてほしいとは思っていませんでした。
余力があるほうがやればいい。散らかっていると感じるラインも違うので、掃除なども強制したくはないし、むしろその違いがおもしろいと感じていて。
なかには『それでいいの?』という人もいたけど、まったく違う人間なんだって感じられるのは、嫌なことではないんですよね」
 
基本的には生活リズムが違うので、普段は面と向かって話すことは少ない。しかし最近は車で出かけて隣に座って並んで話すことも増えたという。
 
「以前は出かけるとなると家族3人でしたが、この頃は夫と2人が多いんです。以前は話といえば、仕事上のストレスのぶつけ合い、みたいな感じでしたが、今は最も厳しい意見を言ってくれる人であり、尊重しあえる同志みたいな関係です」
 
同世代の伴侶と、時間的にはすれ違いの生活ではあっても、それぞれの場所で、隣り合って同じ方向を向いて歩んでいる。

限界まで頑張らずに心の声、体の声に気づく

充実の50代をスタートしつつあるかおるさんだが、10年前の「見つめ直し」があったからこそ今があるという。
 
2014年、かおるさんが勤務する会社の社長が体調を崩し、しばらくして亡くなった。突然のことだったので、仕事が押し寄せ、かおるさんは「頑張って」しまった。
「この職場に入る時の面接で、れまでどんなことをやってきたかを説明するのに、学生時代の部活動で培った忍耐や努力について話しました。その時社長に『そうやって殴られたり怒鳴られたりしたことに耐えてきたことを美化するなんてバカだよ』って言われていたのに、いざ採用されたら頑張ってしまう自分がいて……」
 
そんなあるとき、大きなサインがあった。当時中学生だった娘が体調を崩して入院。実家の母に家事などを手伝ってもらいながら、仕事に穴を空けないようにした。
そして帰宅するとかおるさんはただただ寝ていた。
 
「母にありがとうという余裕もありませんでした」
 
優先していたはずの仕事でも、会報誌の執筆を休まざるを得ない状況になってしまった。何十年もの間、一度も休むことなく続けてきた、読者と絵本をつなぐ大切な仕事だった。
 
「何があってもこれだけはやらなくちゃって、私だけが思い込んでいたんですよね。会員さんたちは誰も休んだことを責めなかったし、周囲もむしろ心配してくれました」
 
そうして、かおるさんは「誰かに助けてもらうこと」と「できなくてもいいこと」を覚えたそうだ。
「子どもの時も私は、大人ののぞむ役割はこうだろうと先回りして、自分の感覚に目を向けないで、こなしているような子でした」
 
成長につれて何度もそのことに気づき、「自分の気持ちや感覚を鈍らせて器用に生きているつもりだったことを心から恥じた」のに、頑張り症のかおるさんはついつい頑張ってしまう。
けれども、2014年からの2年ほどにわたる「見つめ直し」を経て、小さな予兆に耳を澄ませるようになり、今50代を迎えようとしている。

絵本の役割を伝えること

高校時代に絵本によって文学の扉が開かれて以来、さまざまな場面で絵本に助けられてきた。
かおるさんが助けられてきた絵本は多種多彩だが、それらの物語は勧善懲悪ではなく、喜怒哀楽のある人や動植物などの登場者をそのままに肯定し、「ときには報われない努力もある」という厳しい現実をも描いている。
 
この6月にかおるさんは一冊の本、『中学生からの絵本のトリセツ』(岩波書店)を上梓した。幼い子どもだけでなく、思春期の人たちに向けた内容だ。
 
2022年、夏の甲子園で優勝した仙台育英高校の監督が選手たちに読み聞かせをした絵本『あすはきっと』(童話館出版)が話題になったことも、この本を書くきっかけのひとつだった。
 
しかし、かおるさん自身は、中高生時代に自分の柔らかな感受性を押し殺して、バスケットボール部でしごかれ勝利してきた経験があるので、 「当時は、高校野球と絵本って対極にあるように感じていて。野球はサインや指示などトップダウン要素が大きくて、個人の主体性や感情よりもチームが優先。いっぽう絵本は、個人の感情に働きかけて、読んだ人が自由に想像の翼を広げるものだと。でも監督の須江航さんとお話ししたら、絵本の内容に素直に感動している様子がわかりました。それを生徒たちにも共有したかったんですよね」(著書より一部抜粋)。
 
振り返れば、自分も図書館で絵本を手にとってその魅力に気づいたのは高校生のときだった。 「中学生や高校生、そして大人だって、絵本は心を豊かにしてくれるんです」

年を重ねるほど自由になっていく

50歳ってすべてを経験済みってイメージでしたけど、まだまだ新しい発見がありますね。老眼になって戸惑ったり、どうなるかわからないことも多くて、これからが楽しみです(笑)」
 
そしてかおるさんは続けて、「人は変わっていきますから」と、きっぱりと言った。だからこそ、「今後は、大人にも絵本の魅力と効用を伝えていきたい」。
 
その大人の中に、かおるさん自身も含まれているのだろう。 「だんだんと気持ちが自由になってきて、出会いが増えてきました。仕事は大変なこともあるけど、助けてくれる人もいて、とてもありがたいです」

童話館が大人のために絵本をセレクト、配本してくれるサービス「こすもすコース」も人気。

「人生経験を積み、さまざまな感情に出会っている大人だからこそ、より深く味わえると思う絵本を選んでいます」。

この6月には表参道の「salon de nanadecor」で、川口さんたちがセレクトした絵本を展示し、「懐かしい夜の過ごし方」などを語り合うイベントを開催。
多くの人が参加した。(好評につき、次回開催も検討中)。
また、「アート」「推し」「10代の悩み」など、さまざまな切り口で絵本の魅力を紹介する『中学生からの絵本のトリセツ』(岩波書店)を上梓。絵本の輪を広げている。

〜私を支えるもの〜

「長崎の雑貨屋さんで見つけた手作りポーチの中に癒しグッズを入れていつも持ち歩いています」。
チャコットのマッサージボールは足や背中にゴロゴロ当てると心地よい。
また、欠かせないのが、オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリーのフレグランスマッチ(ルトゥール・デジプトの香り)や日本香堂の伽羅大観、ナリンの四十種類のハーブをブレンドしたオイルなど、香り系のアイテム。
「気分を変えたいときや頭痛がしそうなとき使っています」

娘に読み聞かせした絵本をはじめ、出合った絵本のすべてが「私を支えてくれています」

『けしつぶクッキー』(童話館出版)は復刊にあたって原書に忠実な色彩にするために、かおるさんが探し出して手に入れた古書を参考にした。
現実の世界と想像の世界を自由に行き来する子どもの姿をありのままに描いている。

「手紙は古いものもずっと取ってあります」。今はもういない人の言葉を読み返すことも多いという。
仕事柄、会員の方からの手紙も多く、手紙に込められた気持ちに励まされる。写真はお気に入りの「未草」特製の便箋と封筒。そして父の遺品の万年筆。

撮影/白井裕介 聞き手・文/石田紀佳 編集/鈴木香里
撮影協力:salon de nanadecor https://www.nanadecor.com/

※大人のおしゃれ手帖2024年12月号から抜粋
※画像・文章の無断転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

大人のおしゃれ手帖編集部

大人のおしゃれ手帖編集部

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