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マイナ保険証になっても、捨てたら損! アナログな「お薬手帳」、4つのメリット

  • 2024.12.15
【薬学部教授が解説】2024年12月、従来の紙の健康保険証が廃止され、新規発行・再発行はされなくなりました。マイナンバーカードを健康保険証として利用登録する「マイナ保険証」で、お薬手帳は変わるのでしょうか? 分かりやすく解説します。
【薬学部教授が解説】2024年12月、従来の紙の健康保険証が廃止され、新規発行・再発行はされなくなりました。マイナンバーカードを健康保険証として利用登録する「マイナ保険証」で、お薬手帳は変わるのでしょうか? 分かりやすく解説します。

Q. 「マイナ保険証」で、お薬手帳はいらなくなりますか?

Q.「マイナ保険証で薬の履歴がわかるようになると聞きました。これまで使っていた『お薬手帳』は不要になりますか? 自分で見返すこともないと思うので、昔のお薬手帳は捨ててしまっても大丈夫でしょうか?」

A. 現状のマイナ保険証だけでは不安です。従来のお薬手帳もぜひ持参を

2024年12月2日に健康保険証の新規発行・再発行が停止され、マイナンバーカードが健康保険証としても使える「マイナ保険証」の利用が本格化されました。

マイナ保険証の導入を推進してきたデジタル庁のホームページでは、そのメリットを次のように説明しています。

『マイナ保険証で受診し、診療情報や過去の薬剤情報、また、特定健診の情報の提供に同意すると、他の医療機関で診療した内容も含め、自身が服用した薬や注射薬、さらに診療歴、健康診断の結果を、診療する医師や服薬指導する薬剤師に、データで正確に伝えることができます。

また、お薬手帳に通常記載されない院内処方薬なども正確に共有されます。口頭では不正確になりがちな医療情報を正しく伝え、診療等に生かすことで、患者により適した医療を提供できるようになります。』

『さらに、電子処方箋を導入している薬局では、紙の処方箋の場合も含め、薬剤師が調剤する際に、他の薬局の薬剤情報をチェックし、飲み合わせの調整が必要な薬(併用禁忌等)や重複した投薬がないかどうかを、最新の薬剤情報を元に確認することができます。

システム的にチェックすることで、紙のお薬手帳より正確に薬の情報を確認することが可能になり、必要な薬を安心・安全に服用することができます。

また、電子処方箋を導入している医療機関においても、マイナ保険証で受診することで、医師・歯科医師が最新の情報を確認し、併用禁忌や重複投薬を見つけやすくなります。』

この説明通りにいけば、マイナ保険証だけで、過去に処方された薬の情報が医師や薬局に見えるようになるということです。これまでの「お薬手帳」を持ち歩かなくても、他の病院で処方された薬との重複処方や飲み合わせなどのリスクが防ぎやすくなると期待されます。

特定健診情報も共有されるため、医師や薬剤師が患者の健康状態を把握しやすくなり、持病や健康リスクに応じた薬の提案や注意が受けられるようになるはずです。

しかし、筆者は薬の専門家として、今までと変わらず「お薬手帳」も持参することをおすすめします。その4つの理由を、以下で分かりやすく解説したいと思います。

1. 紙のお薬手帳なら、システム障害や災害時でも使える

第一に、マイナ保険証を提示するだけでオンライン確認できるとは言っても、システム障害などが発生した場合は、まったく使い物にならないという点です。そのようなときは紙媒体の「お薬手帳」が役立ちます。

災害時も同じです。停電や通信障害が発生して機器が使えない状況では、マイナ保険証には頼れません。いざというときに備えて、「防災セット」と一緒に「お薬手帳」またはそのコピーも準備しておくことをおすすめします。

2. 紙のお薬手帳なら、「自由診療分」のお薬も漏れなく記載可能

第二に、マイナ保険証と連動したシステムに過去の服薬歴が記録されているとは言っても、本当に漏れなく情報が記録される保証はないという点です。しかも、記録対象となるのは「保険診療」の分だけです。公的医療保険制度が適用されない「自由診療」として服用した薬の情報は含まれません。

そのため、システム上の情報だけを鵜呑みにしてしまうと、不測の重複処方や好ましくない飲み合わせなどのリスクが生じる恐れがあります。システムの情報だけに頼らず、医師や薬剤師が患者に丁寧に聞き取りを行うことが求められます。

過去何年にもわたる記録がちゃんと残され、しかも自由診療の薬の分も記載されたお薬手帳を患者が持参していれば、医療現場も助かります。

3. 紙のお薬手帳ならタイムラグがない

第三に、マイナ保険証と連動したデータには、タイムラグがあるという点です。たとえば、ある日の午前中に内科、午後に別の眼科を受診してそれぞれで薬を処方してもらった場合、午前中のデータを、午後の診療で参照することはできません。

医療機関等での情報は行政手続のオンライン窓口である「マイナポータル」に連携されますが、マイナポータルに情報が反映されるのは、原則として毎月11日であり、その前月分までの情報に限られます。

しかも、その情報の基になっているのは、保険医療機関・保険薬局が審査支払機関(保険者から審査支払を委託された機関)へ電子請求した診療・調剤報酬明細書の情報だけです。さらに 医療機関や薬局から審査支払機関への報告が遅れていた場合などは、前月分以前の診療・薬剤情報が表示されないことも起こります。

ですから、現状のシステムでは「1ヶ月以上前のデータしか反映されていない」と考えて、医師や薬剤師は対応しなければなりません。

この欠点は、とくに頻繁に受診する方にとっては大問題です。マイナ保険証だけに頼っていると、情報の遅れによってトラブルが発生する恐れがあります。これも紙媒体での処方箋やお薬手帳があれば、避けられます。

4. 紙のお薬手帳なら、市販薬や関連情報も自由に記載可能

第四に、お薬手帳には自由記入が可能ですが、マイナ保険証のシステムにはそういった機能がないという点です。お薬手帳は、病院や薬局で書いてもらうものと思っている方が多いと思いますが、実は、自分の病気や薬に関することを、自分で自由に書き込んでも構いません。

たとえば、風邪をひいたときに病院は受診せず自分でドラッグストアで買って利用した市販薬の情報や、日常的に利用しているサプリメントや健康食品がある方は、商品名や利用歴などを自分で手帳に書いておけば、薬局を訪ねたときに、それらのリスクがないかを薬剤師さんが確認してくれます。

また、アレルギーの有無や、過去にかかった病気、体調の変化なども、可能な限り書き込んでおくと、薬局でいろいろなアドバイスをしてもらえます。

IT化が進めば、私たちはデジタルデータを活用することで、便利な暮らしを手に入れることができます。しかし、現時点ではデジタルデータは万能ではありません。一時的なシステム障害も含め、悪意のある書き換えや、データの消失が起こってしまってはお終いです。

しかも、上述した通り、現時点でマイナ保険証だけに頼ってしまうと、薬の飲み合わせ事故などが起きやすくなるという問題点も無視できません。

現状で、最新の情報を確実に医療機関に伝達できる手段としては、アナログな方法ですが紙の「お薬手帳」の良さを改めて理解し、変わらず活用していただきたいと思います。

阿部 和穂プロフィール

薬学博士・大学薬学部教授。東京大学薬学部卒業後、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員等を経て、現在は武蔵野大学薬学部教授として教鞭をとる。専門である脳科学・医薬分野に関し、新聞・雑誌への寄稿、生涯学習講座や市民大学での講演などを通じ、幅広く情報発信を行っている。

文:阿部 和穂(脳科学者・医薬研究者)

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