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これで「子ども1人の誕生につき1000万円支給」を実現できる…エコノミストが提案する新たな"金融商品"

  • 2024.12.14

少子化を抑制する実質的な財政とは何だろうか。畑作をしながら子育てをするエコノミストの崔真淑さんは「子どもを産み育てたいと思わせるインセンティブを設計したうえで、子育てのコストを下げながら、かつ教育環境を充実させることが必要だ」という――。

土手を歩く仲の良い家族
※写真はイメージです
「教育国債」をヒントに「子ども国債」を提案

暦ははや師走も中盤戦。寒暖の差にとまどいながらわが子と冬の畑仕事をしていると、どうしても日本の行く末を考えてしまいます。

「この子が大きくなる頃には、日本はどうなっているんだろう?」

令和になってから生まれたわが子らの世代にとって、これからの社会が良い芽が育つ、良い土壌であってほしい。そのためにはやはり、具体的な政策を国に求めていかなければいけません。理想論でも悲観論でもなく、いわば、コスト感覚に基づいたリアルな政策です。

今回は、教育について。なかでも教育の根本を支えるお金、教育費についてです。

具体的には、国民民主党の政策である「教育国債」(*1)をヒントに、日本の教育と子育て予算の大幅な増額と確保について考えてみます。というのも以前より、子どもの教育費のために「子ども国債」があればいいという考えが私にはありました。今回、当政策上の「教育国債」という文字を見ながら、もしかしたら近い将来ほんとうに実現されるかもしれない、という希望が湧いたのです。

(*1)新・国民民主党 つくろう、新しい答え。「3. 人づくりこそ、国づくり」オフィシャルサイトより

良い教育は良い納税者を育てる

国債とは、国が資金を調達するために発行する債券(借金の証書)のことです。

日本では財務省が発行し、国債を購入した人や機関は、国にお金を貸したことになり、その見返りとして、一定期間後に元本(借りた額)が返済され、利子が支払われるしくみです。要するに国債とは、税収だけではまかないきれない国の予算を補塡ほてんするオルタナティブな手段であり、とても重要な選択肢です。

実際のところ、具体的な政策も施されています。政府は少子化と人口減少の課題に対して「こども未来戦略」(令和5年12月22日閣議決定)を策定し、その中で総額3兆6000億円規模の「こども・子育て支援加速化プラン」を取りまとめました。

さらに本年6月12日には、「子ども・子育て支援金制度」の創設を含む法律が成立し、児童手当拡充の財源の一部として「子ども・子育て支援金」を充てるとしています(*2)。

ここに「子ども国債」をさらに加える、というのが私の提案です。

(*2) こども家庭庁「子ども・子育て支援金制度について」

1、2万円から始められる有益な金融商品

「子ども国債」と名づけるわけですから、用途は子どもの教育のみに使います。この国債によって子どもたちがより良い教育を受けられれば、ひいてはいわば、より良い“納税者”となるわけです。ということは、採算がとれる可能性が高い。むしろ増額するともいえるので、機関投資家に国債を買ってもらうためのIRストーリーが立てやすい。軍事国債やGX(グリーントランスフォーメーション)経済移行債より、よほどリターンが大きい可能性もあります。しかもリターンの実態を想像しやすいことからも、通常の国債よりも売れるのではないか。私はそう考えています。

国債ですから、日本人ばかりでなく外国人投資家も買えます。通常の国債のように1、2万円で「子ども国債」を買うことができれば、個人でも気軽に始められる有益な金融商品になるのではないでしょうか。

そもそも現在の日本の少子化対策は、基本的に子どもを持つ世帯向けのものになっています。しかし少子化の流れを本気で止めるためには、「将来、子どもを産みたい」と思う人を増やすことが先決です。

ですからまずは、子どもを産み育てたいと思わせるインセンティブを設計したうえで、子どものいる人に向けて「子育てのコストを下げながら、かつ教育環境を充実させる」という二階建て思考で取り組む必要があるのではないでしょうか。

子ども1人につき1000万円というインセンティブ

その財源に「子ども国債」を重点的に充てるのです。繰り返しになりますが、この国債の発行条件は、あくまでも「用途は教育関連のみ」ということが重要です。

子どもを産む人へのインセンティブとしては、「子ども1人の誕生につき1000万円支給」など、まさに出産の奨励金のような発想が必要です。「えっ?」と驚かれた方も多いでしょう。ですが、この額面は、決してむやみなものではありません。

なぜ、「1000万円」なのか。根拠は教育学費です。幼小中高大とオール公立教育であれば、学費の総計はおよそ1000万円といわれています(物価高の現在では、さらにコストはかかっているでしょう)。ですから養育に伴う1000万円の支給があれば、子どもが成人になるまでの教育費はとりあえずまかなえます。

ただし一括で支給されるわけではなく(そうすると親のポケットに入り込んでしまう可能性もありますから……)、子どもの成長に合わせて分割支給するなどといった工夫が必要になるでしょう。

【図表】主な政党の少子化対策・財源を巡る公約
まずは国立大学の授業料を引き下げよ

そして、子どもの教育環境の整備について。

現状、国は児童手当の拡充や高校無償化など支援を増やしていますが、それでも多くの親にとって子育てに対する心配事は減りません。そもそも男女問わず、自分自身がずっと働き続けられるかどうかの不安が根本にある。もしもに備えた遺族年金や、セーフティーネット制度は、どんどん改悪されつつあります。そうした不安を軽減するのが、国の「財政」のあり方です。しかし、現在のように増税ありきで良いのか、減税というオプションを組み合わせながら経済成長を生み出すのも、国の義務だといえるでしょう。

教育環境における具体的な悩みとしては、公立学校への不信感、そこから派生する中学受験の問題、そして大学の教育費をどうするか、といった点が挙げられます。

特に大学改革は急務です。私自身、いったん私立大学に入学したものの、家庭の経済的な事情で国立大学に入り直して救われたという経験があります(その後に持ち直したこともあり、両親には感謝しかないです)。それほど国立大学というのはすべての人にとって最後の砦ですから、授業料を安価に維持するばかりでなく、むしろ引き下げること。これは第一に行うべき改革です。

外国人留学生の負担を検討すべき理由

現状、東京大学の授業料も2025年度の学部入学者から2割引き上げられますが、授業料を引き上げるくらいなら、外国人留学生たちの負担を検討すべきではないかと思うのです。というのも本年4月より、国立大学に通う外国人留学生の授業料の上限は文科省により撤廃され、値上げは可能になりました。

東京大学 本郷キャンパス 赤門
東京大学 本郷キャンパス 赤門(写真=Guilhem Vellut/CC-BY-2.0/Wikimedia Commons)

また、公立大学には、その市や県内の人とそうでない人の学費に、優遇措置の差があります。海外の例を見ても、イギリスの名門大学LSE(ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス)などでは、留学生とそうでない人の学費は明確に異なります。差別でもなんでもなく、納税者になる可能性の人と、そうでない人を分ける視点があるのでしょう。

「国立大学の授業料を値上げすると、外国人留学生が来なくなる」という声もありますが今は、私が見る限り修士課程も博士課程も海外(特に中国)の富裕層が非常に多いです。少々授業料を値上げしても、外国人留学生が来なくなるとは考えにくい。

【図表】外国人留学生数の推移
日本留学情報サイト Study in Japan「外国人留学生在籍状況調査」より

ですから国立大学は、外国人枠は引き上げつつ、授業料そのものを引き下げる。そしてその財源にも「子ども国債」を役立てる。こうした発想は理に適っているのではないでしょうか。このような具体策が一つひとつ日本の土壌に実っていくためにも、あせらず声を上げていきたいと思います。

構成=池田純子

崔 真淑(さい・ますみ)
エコノミスト
2008年に神戸大学経済学部(計量経済学専攻)を卒業。2016年に一橋大学大学院にてMBA in Financeを取得。一橋大学大学院博士後期課程在籍中。研究分野はコーポレートファイナンス。新卒後は、大和証券SMBC金融証券研究所(現:大和証券)でアナリストとして資本市場分析に携わる。債券トレーダーを経験したのち、2012年に独立。著書に『投資一年目のための経済と政治のニュースが面白いほどわかる本』(大和書房)などがある。

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