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他人の目より、今は自分の価値観に自分自身が背くことが一番怖い

  • 2024.12.14

「どんな時が一番怖い?」

うーんと悩んで、電話相手は私に尋ねた。なつめは?と。
その時は即答した。「他人からの信頼や人望を失った時」だと。でも今は違う。

信頼や人望がなければ、人を動かせない。私の言葉を信じてもらえない。仕事などの場では特に、自分の言葉に重みを持たせるためには、まず、自分の話に耳を貸すだけの価値があると思わせなければならないと思っていたからだ。
私は特に、年齢やルックスなどの点からよく言えば可愛がってもらいやすく、悪く言えば軽んじられやすい。年上の多いコミュニティにいることもあるだろう。

◎ ◎

私は年齢だけ上で、技術も知識も、経験も劣っている新人に最初から馴れ馴れしくタメ口を使われるのが心底嫌だ。別に職歴の浅いお前は私に敬語を使え、私がタメ口を使う側だろなんて傲慢なことは言わない。

ただ、私は年齢と人生経験が上のあなたを敬って敬語を使います。だから、あなたはこの職場では歴が長く、知識もある私に敬意を払って敬語を使ってくださいと言いたいのだ。私はあなたの近所に住むお嬢ちゃんじゃない。ここは仕事場だ。プライベートのバックグラウンドなんて知ったこっちゃない。

でも、それも私の勝手な価値観で、少なくともこの主婦層の多い職場では私の意見なんて堅苦しいと掻き消されてしまうだろう。価値観や考え方に決まった一編通りの正解はなくとも、その環境ごとでの常識ならある。私にとっては納得し難いが、ここでは私のではなく、年功序列の彼女の考え方が常識なのだ。

◎ ◎

それは仕方ないことだと思う。本当にその考え方が気に入らないのであれば、私は私の価値観が常識である場所にいられるよう、身を置く環境を変えなければならない。この場所の環境を変えるよう努力するというのも時によってはありだろうが、下っ端のバイトにはそんなことやる権利はない。私は責任を持てる立場にないのだから。

でも、私はここにいる選択をした。納得できなくとも、それ以外にここにいる理由が私にはあるからだ。だから、ある程度は理解できないものもあるよねと自分をいなし、一方で、少しでも働きやすくなるよう周りからの信頼を得るように意識した。周りは私をしっかりした“子”だと言うようになった。“若い”のにすごいと言うようになった。私が得られる賞賛は、あくまで私の年齢に紐づいたもので、私が脱却を求めるものから離れることはないのだった。

◎ ◎

それでも、期待はずれ、戦力外、若いから仕方ないとだけは言われたくなかったから、信頼を得られるよう働いた。
そんな時、暇つぶしのためにたまたま手に取った本に書かれていたある1行に出会った。

「この世界にあなたしか人類がいなくなっても続けますか」

いいえ。
何をとも書かれていなかったし、私に向けた問いでもなかった。でも、私は心の中で即答していた。

私は、他者がいないのであれば、信頼も人望もどうでもいい。そもそも、それらは誇れる自分でありたくて、自分の信念や価値観を貫きたくて、そのために欲したものだった。

今私が一番怖いのは、自分の価値観に自分自身が背くことだ。周りにダメなやつだと批判されるからではない。ただでさえ特別なことなどない私が、私の価値基準にすら背いたら、私は私を認めてあげられないからだ。

私は強い人ではないから、それでも他人の目は気になる。でも、それはもう一番怖いものではない。

■なつめの抹茶のプロフィール
料理と茶道が好きな女子大生。
いわゆるリケジョだけど、言葉を紡ぐこと、紡がれた言葉を読み解くことも大好きです。

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