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「セクハラLINE」の線引きはどこから? 夕食に誘う、部下の予定を「デート?」と茶化す【弁護士が回答】

  • 2024.12.15
「部下のプライベートの予定を聞く」「夜、食事に誘う」など、LINEのメッセージはどこからがセクハラなのか。セクハラになり得るグレーゾーンを、企業コンプライアンスに詳しい弁護士に聞いてみた。
「部下のプライベートの予定を聞く」「夜、食事に誘う」など、LINEのメッセージはどこからがセクハラなのか。セクハラになり得るグレーゾーンを、企業コンプライアンスに詳しい弁護士に聞いてみた。

下記のLINEは、とある会社の男性の上司が女性の部下・Aさんに対して業務用のメッセージアプリ(LINE WORKS)を使って送ったものである。

※取材対象者の話を基に筆者が作成したLINEトーク事例
※取材対象者の話を基に筆者が作成したLINEトーク事例


メッセージを受け取ったAさんは、プライベートを詮索してくる上司に対して日頃から「気持ち悪い」と感じていたそうだ。だからこそ、「デート?」のひと言だけでセクハラだと感じたという。

昨今、企業のコンプライアンスの強化が叫ばれ、セクハラに対しても厳しい処分が下されている。そもそもセクハラとは「職場において」「労働者の意に反する」「性的な言動がなされた」ことが対象となる(男女雇用機会均等法第11条1項)。

では、上記のLINEは“セクハラ”に当たるのかーー。

この文面を見て、セクハラだと感じるかどうかは、関係性や状況で大きく変わってくるだろう。日頃から上司に対して不快に思っていれば「デート?」のひと言をセクハラと感じるかもしれない。一方で、関係が良好な場合、コミュニケーションの一環だと解釈できる可能性もある。「胸を触られた」など、分かりやすいセクハラではなく、「相手との関係性や状況によって受け手の感じ方が変わる言葉」に対しては、セクハラかどうかの線引きが難しい。

発注元→発注先へのLINE

職場でこのようなメッセージを受け取ったことがあるのは、会社員だけではない。

※取材対象者の話を基に筆者が作成したLINEトーク事例
※取材対象者の話を基に筆者が作成したLINEトーク事例


上記は、フリーのWebライターとして活動するBさんの話を基に筆者が作成したトーク事例である。20代のBさんは、発注元である担当編集者の40代男性から「仕事の話がしたい」と飲みに誘われたが、2人でお酒を飲むことに抵抗を感じたBさんはランチの代替案を提示した。

しかし、男性編集者は「仕事につながるいい話」という理由で、再度夜の予定を希望。このように、フリーランスで活動する女性に対し、発注元の男性から “仕事”という名目で2人きりの食事に誘われるケースはよく見聞きする。

“夜”というシチュエーションを譲らない男性に対し、Bさんは「夜に2人で飲むのはおかしいのでは?」と不安を感じた。それでも「彼女が誘いに応じるしかない……」と感じたのは、「誘いを断れば、契約を打ち切られるのではないか」という不安があったからだ。

2024年11月から施行されたフリーランス保護新法には「取引の適正化」に加え、「妊娠、出産・育児介護への配慮」や「ハラスメント防止措置義務」などが盛り込まれている。Bさんが編集者の誘いを断ったせいで仕事が打ち切られるようなことがあれば、れっきとしたセクハラにあたるだろう。

グレーゾーンをどう判断するか

では、単純に「LINEで食事に誘う」という行為はセクハラにあたるのだろうか。

企業コンプライアンスに詳しい尾崎聖弥弁護士に話を聞くと、「LINEの送り主に性的な意図がなくても、社会通念上『性的な内容』だと認められ、相手が不快だと感じたならばセクハラに当たる可能性がある」という。

尾崎弁護士は続けて、「『胸やお尻を触る』など、明らかなセクハラ行為ではなくても、プライベートを詮索したり、夜に2人きりで食事に誘ったりする行為はグレーゾーンです。本来、ビジネスの場で前述の行為をする必要はないはずです。よって、互いの関係性や、受け取り手の感じ方次第ではセクハラにあたることもあるでしょう。また、本人が明確に拒否をしたにもかかわらず、その行為を継続してしまった場合はセクハラ、あるいはほかのハラスメントにあたる可能性が高くなります」と話す。

コロナ禍以降、リモート業務が増え、メッセージツールを使ったコミュニケーションが増えた。今後、言葉での“グレーゾーン”は今まで以上に増えていく可能性があるが、過度にセクハラを恐れるがあまり、業務効率が低下するような状況は避けたいものだ。グレーゾーンに遭遇したときは、はっきりと拒否すること。それが難しければ窓口や信頼できる相手に早急に相談することを心掛けたい。

この記事の筆者:毒島 サチコ プロフィール
ライター・インタビュアー。緻密な当事者インタビューや体験談、その背景にひそむ社会問題などを切り口に、複数のWebメディアやファッション誌でコラム、リポート、インタビュー、エッセー記事などを担当。

取材協力:尾崎聖弥 プロフィール
第一東京弁護士会。エンターテインメント・ロイヤーズ・ネットワーク所属。企業に対するコンプライアンス研修などを担当している。

文:毒島 サチコ

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