1. トップ
  2. 恋愛
  3. 幼児期の先取り教育は逆効果だった…「小学校4年生で成績は逆転する」衝撃の研究結果と本当に必要な早期教育

幼児期の先取り教育は逆効果だった…「小学校4年生で成績は逆転する」衝撃の研究結果と本当に必要な早期教育

  • 2024.12.13

幼児期から読み書きや算数などの早期教育を行う家庭が増えている。しかし、アメリカ シリコンバレーの日英バイリンガル幼稚園「そら幼稚園」の創立者・中内玲子さんは「先取り学習で、子供の能力を伸ばすことはできない。ある研究では、幼稚園でアカデミックな教育を受けてきた子供が小学4年生になる頃には、そうじゃない同年代の子供と比べてテストの点が低く、特にリーディングや数学のスコアが低かったと言う――。

小学4年生になる頃に…成績が逆転

幼児期に勉強中心の生活を送った子供たちが、その後どのように育ったか、アメリカのボストンカレッジで心理学の研究教授を務めるピーター・グレイ教授の興味深い論文があります。

その一つが、1970年代にドイツで行われた大規模な比較調査。アカデミックな教育を導入した幼稚園の卒園生と、導入していない幼稚園の卒業生について調べたものです。ここでのアカデミックな教育とは、小学校で習い始めるような学問的な学びのことを指します。

それによると、アカデミックな教育を導入した幼稚園に通っていた子供たちは、小学1年生時の学力テストでは他の子供たちよりも成績が良かったといいます。しかし、その後徐々にその差が薄れ、小学4年生になる頃には、比較されたすべての尺度で、アカデミックな教育を導入していない幼稚園に通っていた子供たちよりもスコアが低くなる結果が出たというのです。

英語の宿題をする女の子の手元
※写真はイメージです

特にリーディング、数学のスコアが低く、社会的・情緒的な適応度も低かったといいます。

これは、早期教育が思ったほど有益ではないということだけではなく長期的に見ると早期教育が弊害を引き起こす可能性がある証拠であると、グレイ教授は指摘しています。その弊害は、特に社会的・感情的な発達の領域に見られるとされています。

「語彙力」の差が浮き彫りに…

もう一つ、日本での研究をご紹介しましょう。お茶の水大学の内田伸子名誉教授らの研究チームが、決められた時間に先取り準備教育を行う「一斉保育型」と、遊びの時間を多く取る「自由保育型」の幼稚園や保育園の園児たちを対象に、読み書きの力や語彙力にどのような差があるかを調査したものです。

その結果、どちらの保育型でも読み書きの力に差はないものの、語彙力については「自由保育型」の園児たちの得点が高いという結果になりました。しかも、その差は3歳よりも4歳、4歳よりも5歳と、年齢が上がるほど開いていったのです。

読み書きや算数などの早期教育を受けていた園児たちの語彙力が低いのはなぜなのでしょう。

この研究チームでは、自由保育型の幼稚園での、子供たちの「知りたい」「やってみたい」という気持ちからくる能動的な行動や机上ではなく直接触れて感じた体験、遊びを通した試行錯誤の回数、お友だちとの言葉のやりとりなどが、より多くの語彙を脳に植え付けたのではないかと見ています。

6歳までは「勉強よりも遊びを優先」すべき理由

私は、小学校に上がる前(6歳頃まで)は、先取り教育をするにしてもほどほどに、遊びや能動的な活動を優先して時間を使ったほうがよいと考えています。

それは、「この時期にこそ身に付けたい力」があるからです。主体性や探究心、社会的スキル、他者への思いやりなどです。

外廊下を走る小学生低学年のグループ
※写真はイメージです

なかでも社会的スキルは、何を使って遊ぶか友だちと相談したり、ケンカをしたりしながら育まれるもので、与えられたタスクをこなすだけの学習では育てられない力です。

6歳までは「脳の基礎体力」を育てる時期です。基礎体力ができていないのに、あれもこれも覚えさせ、何時間も勉強させ、さらにその結果を出せと求めるのは無茶というもの。小さいうちから無理に勉強をさせたいがために子供が勉強嫌いになってしまったら、本末転倒です。

子供の成長を植物に例えるなら、親の役割は子供が自ら育つための「よい土壌」を作ってあげること。それが、この「脳の基礎体力」です。

それによりどのような方向にどう育つかは、その子次第。その子が生き生きと育つ良い土壌を作るためには、親はまず「その子の成長のためにはどのような土壌を用意すればよいのか」を知ることが大切なのです。


◎「読み書き」は不要…ではない

もちろん、読み書きや計算などの勉強も、子供の世界を広げるために必要なものです。私が運営している幼稚園でも、15分ほど机で学ぶ時間を設けています。ただし、この時間は勉強させるというよりも、「学びの窓」を開くための時間。文字が書けるとお友だちや家族に手紙が書けるし、文字が読めると外遊びで見つけた花や昆虫の名前を図鑑で調べられる。そういった学ぶ意欲、学ぶための好奇心を養い、子供の世界を広げるための時間です。

また文字を書くことで、「ファインモータースキル」を鍛えることもできます。ファインモータースキルとは、鉛筆を持つ、はさみを使う、小さい物をつまむ、はしを使うなど、指先の細かい筋肉を動かすための運動能力です。このスキルを鍛えることは、脳の発達にもよいとされています。「ほどほどに」「遊びを優先」しながら取り入れてみてください。

脳の基礎体力をアップさせる方法

では、実際に、幼児期に「脳の基礎体力」を上げるために、周囲の大人や親ができることとは? 具体的な方法を知りたいと思います。

当園の例を挙げると、遊びの時間をバランスよく取り入れるため、「フリーワークタイム」を設けています。「フリーワークタイム」とは、子供が自分の意思で活動に取り組む時間。モンテッソーリ教育に由来するもので、いくつかの日本の幼稚園でも採用されています。

教室内をエリア分けして、それぞれのエリアにワークを設定しています。ごっこ遊びをするソーシャルエリア、ブロック遊びをするクリエイティブエリア、モンテッソーリ教育の教具で指先の筋肉や集中力を鍛えるエリア、お絵描きなどをするアートのエリア、数学や文字をさまざまな形で学ぶラーニングエリア、日本語と英語の本を自由に読めるライブラリー、少し休みたい子がくつろげるソファなど。「フリーワークタイム」では、子供たちが自由にエリアを選んでワークをします。

このような「フリーワークタイム」はご家庭でも設けていただけます。具体的には、子どもが興味を持ったものをセットで用意し、自由に遊ばせるとよいでしょう。例えば、お絵かきに興味がある子どもには、紙やペン、クレヨンなど、お絵かきに関連する一式を揃えてあげるといいかもしれません。

木製ブロックのおもちゃで遊ぶ子供と見守る母親
※写真はイメージです

このように、子供が自分で考え、自由に遊ぶ時間をもうけ、次のSMILEを育むことこそが、子供の「脳の基礎体力」を上げることになると考えています。


S:Social Skills:心からの思いやりをもって人と接し、よりよい関係を築いていける社会性を育みます。

M:Manners:美意識を基に、あいさつや食事など、日常におけるさまざまな生活習慣とマナーを身に付けさせます。

I:Interests:好奇心を大切に、みずから学び、表現し、未来への可能性を広げていく姿勢を育みます。

L:Languages:国際的な感性を養い、多様な文化への理解と言語を修得し、世界の人々と向き合い、理解し合える語学力を育みます。

E:Enthusiasm:自信をもって考え、行動し、その先に出会った疑問や興味に対して、粘り強く追求する意欲と熱意を育みます。

小学校低学年までに育てたい「5つの力」

最後に、これからの教育で重視すべき力として注目されているものを紹介します。「SMILE」を育むことで、スムーズに習得が叶っていくと私が考えるスキルです。もちろん「SMILE」を育みながら、同時に習得していく子供もいるでしょう。

それは、最近耳にすることが多くなった「非認知能力」です。興味や関心、意欲、協調性、粘り強さ、忍耐力、計画性、自制心、創造性、コミュニケーション能力など、「数字では表せない能力」のことを指します。OECD(経済協力開発機構)では、非認知能力を「社会情動的スキル」という言葉で表し、「個人が21世紀の課題に対処し、もたらされる機会からの恩恵を受けるのに役立つ」スキルとしています。

学歴は高いのに人とのコミュニケーションが得意でないために仕事がうまくいかない人や、知識は豊富なのに実行力がなくてそれを生かしきれない人がいることを考えると、非認知能力が人生においていかに重要か理解できると思います。

この非認知能力は、幼児期から小学校低学年くらいまでに育てるのが効果的であるとされています。実際、子供が社会的・情感的スキルが小学校での最初の数年間の成績の基盤となっていることが、さまざまな研究によって指摘されています。

さらに、これから世界で求められ、子供が自分の才能を生かして世界で羽ばたくために欠かせない力として「自己肯定感」「考える力」「意志力」「社会的スキル」「国際的スキル」の5つがあると、私は考えています。それぞれ、説明します。

日本人は特に自己肯定感が低い
●自己肯定感

すべての力の基盤となるもの、子供の成長における「栄養」のようなものです。自己肯定感がなければ、意欲や行動力、コミュニケーション能力などが育ちませんし、子供の持てる力を十分に発揮することができません。日本人は特に自己肯定感が低いので、最重視したい力です。

●考える力

豊かな想像力や感性、思いもよらない発想、ものごとを分析する力や自分で考えて判断する力です。まだ言葉を十分に話せない1歳の子供でも育てていくことができ、さまざまな体験や遊び、読み聞かせ、美意識を育てる家庭環境が、これらの力を養います。

●意志力

自分のやるべきことをやり遂げるために、自分の思考や感情、行動などをコントロールする力です。非認知能力に含まれる忍耐力や自己制御能力は、意志力を養うことで身につきます。似たものに「実行機能」がありますが、幼児期に実行機能を身に付けるかどうかが、その後の人生にも影響すると言われています。

●社会的スキル

協調性やコミュニケーション能力、共感する力、これからの世の中に欠かせない非認知能力です。また次の国際的スキルは、この社会的スキルがなくては育ちません。

●国際的スキル

多様性や文化の違いを尊重し、自国の文化を大切にしながら、他国への理解を深める力です。英語をはじめとした語学力も、世界と渡り合うための基本ツールです。ただし語学力だけでは不十分で、この国際的スキルがあって初めて、国際社会で通用するようになります。

これら5つの力は、学校や塾に頼らずとも育むことができます。むしろ、家庭でなければ育てられない力も多いかもしれません。子供のことをよく知っていて、子供との愛着関係を持つ保護者だからこそ、育てやすいものです。

あれもこれも…は子供のためにならない

小学校入学の前と後では、子供を取り巻く環境は大きく変わります。小学校に入ると学習する教科が増え、習い事に通う子も多くなり、幼児期に比べて自由に遊べる時間が少なくなります。もちろん小学生になってからでも子供はどんどん学び、ぐんぐん成長しますが、主体性を育て、好奇心や探究心の基礎を育み、社会的スキルを身に付けるにベストな時期は、小学校入学前なのです。

そのため、先取り学習に熱心な親御さんを目にするたびに、私は「今、必要なことをやらせてあげなくて、いったいいつやるの?」と歯がゆい思いをしています。

わが子に幸せな人生を送ってほしいと願うなら、親の役割は、たくさん与えたり、先取り教育をさせたり、あれもこれもさせたりすることではありません。

子供が自分らしく輝くための手助けをすること。 子供を信じて、自立できるようにすること。 そのための土台となる環境づくりをすること。

しゃがんで子供の視線に合わせて話しかける母親
※写真はイメージです

ここまでSMILEに非認知能力、5つのスキルと、多くのスキルを紹介しましたが、この3つの基本姿勢を保つことこそが最低条件として必要なことであり、親の愛情だと私は考えています。

中内 玲子(なかうち・れいこ)
日英バイリンガル幼稚園「そら幼稚園」創立者
台湾生まれ、日本育ち、アメリカ在住のトリリンガル(日・英・中)。3人の子どもたちもトリリンガルに育てた、2男1女(15歳、11歳、7歳)の母。グーグルなどシリコンバレーの企業に勤める親たちから人気の日英バイリンガル幼稚園Sora International Preschool創立者。AMIモンテッソーリ国際免許取得。日本で念願の幼稚園教諭になったものの、「みんな一緒」を重視する日本の保育に疑問を抱き、英語も話せない、知人もいない、お金もないまま24歳で渡米。さまざまな国籍の子どもが集まるシリコンバレーで保育を学ぶ。シリコンバレーでの生活は20年以上になる。サンフランシスコ州立大学音楽学部を卒業後、モンテッソーリの幼稚園勤務を経て、2007年に自身の理想の教育を実現する教育施設をつくり、2011年にカリフォルニア州認可幼稚園を設立。教育事業のアドバイスをするコンサルタントとしても活躍中。世界中の教育者が互いの思いやアイデアをシェアできる場をつくるために、教育現場を取材する活動を続けている。最先端企業が集まるシリコンバレーの視点をもとに、「自分の才能を伸ばし、国際社会で羽ばたける子」を育てる実践法を提唱。

元記事で読む
の記事をもっとみる