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悪役「草彅剛」の熱気に圧倒される! 舞台『ヴェニスの商人』舞台稽古レポート

  • 2024.12.13

草彅剛の熱気、気迫にただただ圧倒される。シャイロックが憑依している、としか思えない圧巻の演技だった。草彅剛が初めてシェイクスピアに挑むと話題の『ヴェニスの商人』。その公開舞台稽古が、12月5日に東京・日本青年館ホールにて行われた。出演者には草彅のほか、野村周平、佐久間由衣、大鶴佐助、長井短、華優希、小澤竜心、忍成修吾らが名を連ねている。演出は、第21回読売演劇大賞・最優秀演出家賞にも輝いた森新太郎が担当する。


『ヴェニスの商人』舞台稽古レポート

古典の名作を斬新な演出で魅せる

ヴェニスの高潔な商人・アントーニオ(忍成)が、高利貸しのユダヤ人・シャイロック(草彅)から金を借りたことから始まる群像劇が展開する。アントーニオの親友バサ-ニオ(野村)は、ベルモントに住む富豪の美女・ポ-シャ(佐久間)に恋をして、求婚したくても資金がない。アントーニオはバサーニオを援助したかったが、全財産は航海中の船の中だった。アントーニオは自分の胸の肉一ポンドを担保に悪徳高利貸しシャイロックから借金してしまう。ところが、彼の商船は嵐でことごとく遭難し、財産の全てを失ってしまった。借金返済の当てのなくなった彼はいよいよ胸の肉を切りとらねばならなくなるのだが——。 『ヴェニスの商人』といえば、英国の作家ウィリアム・シェイクスピアの傑作の一つ。1594年から1597年の間に書かれたとされていて、すでに400年以上に渡って上演されてきた古典的な名作だ。幕が開いた瞬間、いきなり驚かされる。下手から俳優たちがぞろぞろと舞台上に現れ、舞台奥に設置された長椅子に次々と着席し、客席を見つめるという斬新な演出。舞台上は、木製の壁と床に囲まれ、大掛かりなセットは一切ない。使用されるのは、天秤やナイフ、椅子や机といった最小限の小道具のみだ。衣装も最小限だが、イタリア・ヴェニス、架空の都市・ベルモント、屋敷の中や法廷と場面転換が多く、キャストの衣装が変わる際は、奥に座ったキャストが、そのまま舞台上で着替えていく。

野村は長い黒髪に紫のスーツ姿で、富豪の美女、ポーシャへの思いに胸を高鳴らせるバサーニオを情熱的でロマンチックな男として好演。ロレンゾー役の小澤は、シャイロックの娘ジェシカと恋に落ち、彼女を前にしたとき、その瞳を輝かせ、生き生きとした存在感を発揮。

忍成は、敬虔なキリスト教徒であり、無利子で人に金を貸す親切さを持ち合わせたアントーニオを品の良い佇まいで表現。ドレッドヘアーに、黒とショッキングイエローの衣裳に身を包んだ大鶴は、バサーニオの友人・グラシアーノを底抜けに明るく演じる。

ポーシャがバサーニオら各国の男たちから求婚されるシーンは、見どころの1つ。佐久間は美しさと聡明さを併せ持ったポーシャを説得力を持って好演。長井は、ポーシャの侍女・ネリッサをコミカルに演じ、佐久間と息の合ったセリフのやり取りでシーンに笑いを足す。

シャイロックとして舞台を支配する草彅剛

森の演出も目を引くが、草彅が「稀代の悪役」とも言われてきたユダヤ人高利貸しのシャイロックをどのように演じるのか、彼の登場までの間、どんどん期待が高まる。そして、シャイロックとして舞台に登場した草彅は、白髪混りのヘアスタイルで、聴き馴染みのあるソフトな声ではなく、少ししゃがれた声色で高圧的に話す。表情や歩き方、手の動きなどすべてにおいて、シャイロックとして生きていると納得できる存在感。一言では言えないほど複雑な人間性を持つシャイロックを重厚な演技で見せて、舞台の空気を支配していた。 出番が終わり、長椅子に座って控えている姿も印象的だった。他のキャストが舞台上の様子を見つめているのに対して、草彅は顔を伏せたり、床を見つめていたりしていた時間が長い。シャイロックと対話しているのか? それとも自分自身と? 精神統一しているような空気感を放ち、その姿も物語の一部と感じられ、いろいろな想像を掻き立てられた。

シャイロックとアントーニオの対峙シーン。毛嫌いするシャイロックに対しては、軽蔑した眼差しを向け、高慢さを演技に漂わせるアントーニオ。一方、アントーニオに金を貸すシーンでは、アントーニオを挑発するように犬のモノマネをし、時に冷淡さを浮かび上がらせるシャイロックにぞっとする。

シャイロックの〝正義“をどう演じるのか

シャイロックの娘・ジェシカを演じる華は、シャイロックとのシーンでは父の意思を尊重する従順な娘を可憐に演じているが、ロレンゾーと駆け落ちするシーンでは、ジェシカの弾ける恋心を身体いっぱいで表現している。

シェイクスピアの時代、高利貸しのユダヤ人は異端と呼ばれ、不当な扱いをされていた。そんな時代にあって、法廷でシャイロックは、情に厚いヴェニスの商人・アントーニオ(忍成)の肉1ポンドを担保として求めるとはなんて奴だ、やっぱり人でなしだと責められる。 法廷で周りから責め立てられる中、シャイロックに扮した草彅は、全身全霊の演技で自身の正義、正当性を熱弁する。彼のその主張は、現代を生きる私たちにとっては正論に聞こえる。シャイロックは金を貸す際利子をとっていたから人でなしとされたが、現代では当たり前のこと。金利で商売することも、法が定める範囲内であれば何も悪いことはしていないように感じる。むしろ、アントーニオの方が、シャイロックがユダヤ人の金貸しであることを理由に「唾を吐きかけ」「足蹴に」してきて、今ならば問題になるのでは?と考えさせられる。 シャイロックはアントーニオへの憎悪から、借金の担保としてアントーニオの肉1ポンドを要求する。草彅の演技の力もあって、行動は理解できないが、アントーニオを憎むシャイロックの気持ちはわかると感じる瞬間も多かった。特に一幕のラスト、娘のジェシカ(華)が、バサーニオらの友人の1人・ロレンゾー(小澤)と駆け落ちしたあとの場面では、草彅は、シャイロックの悲哀を切々とした語り口で語り、複雑な胸の内を繊細に表現し、“悪人”とは簡単に決めつけ難いキャラクターを浮かび上がらせた。 クライマックスは緊迫の法定シーンが続き、やがて大ドンデン返しが待っている。最後にシャイロックがどんな表情を見せるのか、じっくりと見て欲しい。そして、草彅に負けじと、ボルテージをあげていく忍成、野村、佐久間らの熱演も見応え大だ。草彅を中心としたキャストの熱演によって、古典シェイクスピアの魅力を改めて発見し、今の時代にこそ響くものを感じる作品だ。

娘のジェシカ(華)が、ロレンゾーと駆け落ちしたあとの場面。娘を奪われたシャイロックは、アントーニオやロレンゾーらキリスト教徒への怒りに燃え上がり、アントーニオが全財産を失ったことから、「胸の肉一ポンド」を巡って法廷での最終決戦に持ち込まれる。

取材・文=杉嶋未来

【公演情報】

『ヴェニスの商人』
【東京公演】2024年12月6日(金)~22日(日) 会場:日本青年館ホール
【京都公演】2024年12月26日(木)~29日(日) 会場:京都劇場
【愛知公演】2025年1月6日(月)~10日(金) 会場:御園座
<チケット料金>S席:13,000円、A席:9,500円、車イス席:13,000円(税込・全席指定) 出演:草彅剛、野村周平、佐久間由衣、大鶴佐助、長井短、華優希、小澤竜心、忍成修吾、春海四方、大山真志、青柳塁斗、石井雅登、冨永竜、田中穂先、天野勝仁、久礼悠介
脚本:ウィリアム・シェイクスピア
訳:松岡和子
演出:森新太郎
主催:TBS/CULEN
舞台『ヴェニスの商人』公式サイト

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