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星付き、ビストロ、伝統料理。一度の滞在で3タイプの料理を味わう食の冒険。【ル・ドメーヌ・ドゥ・ラ・クラウスへ5ツ星の旅/後編】

  • 2025.1.1

フランスの東部、ドイツとルクセンブルクに接するフランスのロレーヌ地方モゼル県。森あり、平原あり、池ありと美しい風景に恵まれている。そのモントゥナックで地元の人々にも愛されているホテルの「Le Domaine de la Klauss(ル・ドメーヌ・ドゥ・ラ・クラウス)」にスパを求めて人々が集まるけれど、ここにはもうひとつ足を運ぶ理由がある。それはブノワ・ポドゥヴァンによるレストラン「Le K(ル・カー)」のクリエイティブなガストロノミー料理だ。年に数回食事に来る客、月に一度通う客......常連も少なくない。

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2019年からホテルはルレ・エ・シャトーのグループ。
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シェフのブノワ・ポドゥヴァン。

ガストロノミー・レストラン「Le K (ル・カー)」

2024年春にミシュラン1ツ星を得たレストランが生まれたのは、ホテルの開業翌年の2017年だった。小さなスペースでのスタートだったが、オーナーのアレクサンドル・ケッフは2020年に新型コロナ感染防止策でクローズを余儀なくされた折を利用してレストランを拡張。さらに2022年にはキッチンを4倍の広さに大改造し、300平米というシェフとそのチームが働きやすい環境が作られたのだ。さらにアーチ型の石の天井のスペースが追加され、席数も増えて......。レストランの壁の一部はガラスで仕切られ、そのキッチンが覗ける仕組みである。キッチン内には4席のシェフズテーブルも設けられているので、シェフの説明を聞きながら特別な時間を過ごすのも一興だろう。

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地元の石を用いた内装にイタリアのシャンデリアが輝くレストラン内。この満席の客席に運ぶ料理をお盆に乗せたサービス担当者たちが、キッチンの両開きの扉から次々と出入りする光景はまるでちょっとしたコンテンポラリーダンスを見ているようで楽しい。
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ル・カー併設のワインカーヴ。

ほぼ毎晩満席というル・カーのシェフを務めるのは、開業時から働くブノワ・ポドヴァンである。ミシュランの星をとったいまも、次なる星ではなく「お客様が満足することだけを考えています」と語る彼。地元のフレッシュでクオリティの高い食材を最優先している。従ってメニューは季節に左右されるけれど、自然のこの拘束にクリエイティビティがより刺激されるそうだ。素材はホテルが所在するモゼル県産が多く用いられている。オーナーのファミリーが持つ農家の家禽類や持続可能な農業を目指す畑で育つ穀類、周囲の自然からの獲物、近隣で生産されるチーズ、いちばん近いところではホテルの敷地内の庭で育つハーブ類......これらに、環境に配慮した漁を行うパートナーからの魚介類などが加わる。地球へのリスペクトを持って調理場に立つシェフ。彼が生み出す洗練された現代的な料理は味わいとテクスチャーの喜びを口にもたらし、酸味がもたらす軽快さも忘れがたい。ひとつの素材を複数の調理法で用いたり、ジャストな火加減で素材の持つ味わいを引き出し、味のアクセントをスパイスに頼ることなく自己流に見いだす見事な技。未知の野菜の味わいの驚きを食べ手と分かち合いたいシェフの気持ちも随所に感じられ、ひと皿ごとの登場が期待を持たせる。白いテーブルクロスの上に置かれるお皿の中には色彩があふれ、味覚だけでなく視覚の美しい思い出がもたらされる。お腹の満足ももちろんだけれど、幸福感に包まれて後にするレストランなのだ。

コースメニューはエクスプレッション・メニュー(105ユーロ)、野菜メニュー(120ユーロ)、シグネチャーメニュー(150ユーロ)の3種類。キッチン内には2〜4名のためのカウンター席が用意されている。この席はシグネチャーメニュー(飲み物別、205ユーロ)をシェフの解説付きで味わえるという特等席だ。

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上: アミューズ・ブーシュから。ホテル内のハーブ園で育った野生セロリのリヴェッシュ。マギー・コンソメの味に似ているので、リヴェッシュ・マギーとも呼ばれるそうだ。炒った蕎麦とのテクスチャーをひと口で楽しむ逸品。下: スプーンと同時に供されるのは、地元の食材、地元の味のシェフ流プレゼンテーションだ。これから始まる食事の見事なプレリュード!
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上: 小麦粉とそば粉のパンはモゼル県のMOFニコラ・ストレイフ製だ。下: ミニタルトが登場し、同時にノワゼットとリヴェッシュのバター、そして独特のコクがあるカムリーヌ・オイルがパンのために登場する。カムリーヌは"ドイツのゴマ"、"雑種の麻"といった別名を持つ植物だ。オイルはホテルのブティックで販売もしている。
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シェフのデッサン通りに、ラディッシュがお皿に花を描く。
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イチョウガニとキャビア。ル・カーのシグネチャー前菜だ。
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食べるのが惜しくなる愛しらい盛り付けは、植物オンリーのひと皿。バターナッツをラヴィオリ、マシュマロ、ピクルスなど味もテクスチャーもさまざまに。photography: Mariko Omura
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デサートのひとつである柑橘類のパンナコッタ。ベルガモット、ブッダの手、レモン、キャヴィア・レモンなどの甘酸っぱさのパレードだ。ディナーの締めくくりは柑橘類のリキュール、Eau d'Orの食後酒で。

Le K(ル・カー)/Le Domaine de la Klauss

2, impasse du Klaussberg 57480 Montenach

営)19:00〜21:00

休)日全日、月〜土 ランチ

www.domainedelaklauss.com

ビストロ「Le Komptoir(ル・コントワール)」

ガストロノミー・レストランのル・カーが拡張され、そして新しいキッチンが作られて......その結果かつてレストランがあった場所にビストロの「Le Komptoir(ル・コントワール)」が設けられた。comptoirをもじってcの代わりにkというのがクラウス(Klauss)丘のケッフ(Keef)家の店らしい。ドイツに帰属していたこともあり、単語にkが多用されるフランス東部にいることも感じさせる。

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薪窯のある石造りのビストロ。
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左: ホテルの宿泊客、外部の食事客で賑わうビストロ。食前酒は地元の発泡ワイン、クレマンを。右: シェフのアレンジによるキッシュ・ロレーヌ! photography: Mariko Omura
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竈焼きのチキンのサラダや、近隣のエスカルゴ、養殖マスのグジョネットなどメイン以外にも魅力の料理がいっぱい。
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薪の窯では豚、鶏といった肉だけでなく人気の海産物であるタコもローストされる。

このビストロの料理はオーナー、アレクサンドルの従弟で、かつて別の街のレストランでシェフを務めていたルシアン・ケッフに任された。店内に備えられた薪窯を活用し、メイン料理はポークやビーフのロースト、いまの季節らしくチーズのモンドールの竈焼きなど。ポテトなど添え野菜もたっぷりなので、お腹を空かせて食事に行くのがいい。軽めが希望なら、タパスや前菜を組み合わせたランチを。何か地元名物を、と思うならキッシュ・ロレーヌを試してみよう。見た目は全く別料理のようだけれど、食べてみるとまさしくキッシュ・ロレーヌの味という、シェフの遊び心が込められたクリエイションだ。

ワインリストの"泡もの"コーナーにはシャンパンと並んでフランス北東部のスパークリングワインcrément(クレモン)も見つかる。シャンパンと同じ瓶内二次発酵で生産されるのだけれど、シャンパーニュ地方産ではないのでクレモンと呼ばれるのだ。この地方まで来たからには、やはりクレマンで食事を始めたい。

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ビストロは夏には建物の外にあるパイヨット(ワラ小屋)と呼ばれる場所に移動。こちらのキッチンにも薪窯が備えられている。プールとクラウス・ビーチクラブがもたらす陽気な雰囲気をシェアできる場所だ。

Le Komptoir (ル・コントワール)/Le Domaine de la Klauss

2, impasse du Klaussberg 57480 Montenach

営)12:00〜14:30(日〜土)、19:00〜22:00(金、土、日)※要予約

休)月〜木ディナー

www.domainedelaklauss.com

歴史の始まり、オーベルジュ・ドゥ・ラ・クラウス 

ル・ドメーヌ・ドゥ・ラ・クラウス内ではないのだけれど、この地を訪れたのだから知っておきたい店を紹介しておこう。それは1869年に開店したオーベルジュ・ドゥ・ラ・クラウスである。ホテルを出てすぐの場所だ。オーベルジュといっても宿ではなく、その昔旅人が馬を休ませ、食事をとっていた場所である。ル・ドメーヌ・ドゥ・ラ・クラウスが生まれたのも、オーナーであるアレクサンドル・ケッフの曽祖父祖父がモントゥナックにこのオーベルジュを開いて成功を収めたことに起源を辿れるのである。ホスピタリティに傾ける情熱、良い物への愛情が昔からいまへと受け継がれているケッフ家。ルクスエアのパイロットとしてヨーロッパの空を駆け巡るアレクサンドルは、そんなDNAに導かれて2009年にスパを備えたホテルという構想を思いつき、パイロットを続けながら企業家の道を歩み始めたのである。

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1869年に開店したオーベルジュ・ドゥ・ラ・クラウス。ロレーヌ地方の典型的な建築物である。全てはここが出発点だ。photography: Mariko Omura

オーベルジュ・ドゥ・ラ・クラウスは現在彼の父シャルルが経営し、弟フレデリックがシェフを務めている。温かな空気が流れる、地方のアットホームなレストランという雰囲気の店内。着席するとすぐにパンとリエットが登場するこの店では、それに合わせてロレーヌ地方の名産であるミラベルがカシスの代わりのキールを食前酒にしてみるのはどうだろうか。

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食事の始まりは、パンとリエットとミラベルのキールで。photography: Mariko Omura

メニューに並ぶのは、地元の伝統的な料理ばかり。ところどころに、"うちの豚" "うちの鴨" "うちの農家の"といった言葉が読み取れる。シェフのフレデリックは家族経営の農家の責任者でもあり、自家製フォアグラや養殖しているマス、畑の野菜といった"ホームメイド食材"を用いてシンプルな調理で素材の味わいを満喫できる料理を提案している。何を食べてもおいしそう。セットメニューもあればアラカルトでも選べるので、迷う時間は長くなりそうだ。

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左: ファミリアルな温かさがあふれるレストラン内。右: フォアグラのポワレ。鴨農場を持つレストランならではの新鮮さだ。photography: Mariko Omura

レストランの並びにはアレクサンドルの父が80年代にこしらえたワインセラーがある。奥のワイン倉には6万本のワイン、さらに19世紀と20世紀のミレジムのアルマニャックが揃えられ、グループを対象にデギュスタシオンが行われる。倉の一角には14メートル高さの煙突を設けた燻製場があり、そこではハムをスモークしている。ル・カーのシェフは14メートルの上方に魚を吊ってスモーク。燻製臭があまり強くない良い結果が得られるそうだ。エントランス部分はブティックとなっていて、農場のフォアグラやパテ、ハム類、さらにモゼル県で作られるジャムをはじめとする産物、地ビールなどセレクションは豊富だ。ホテル敷地内の養蜂箱から取れるハチミツやシェフが使うオイル、オリジナルのルームフレグランスなどを販売しているル・ドメーヌ・ドゥ・ラ・クラウスのフロント脇のブティック、そしてこの店がこの旅のお土産調達場となるだろう。

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看板にそそられてCave de la Klaussへ。扉のステンドグラスは地元ならではのモチーフだ。photography: Mariko Omura
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店内、ワインセラーの手前のブティックにオーベルジュ・ドゥ・ラ・クラウス製や地元モゼル県の商品が並んでいる。photography: Mariko Omura

Auberge de la Klauss

1 route de Kirschnaumen 57480 Montenachレストラン

営)12:00~14:00(毎日)、19:00~21:00 (火水のみ) ブティック・ワインセラー

営)10:00~20:00

休)月

https://www.auberge-de-la-klauss.com/

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ケーフ農場の鴨たち。photography: Mariko Omura
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大自然のピュアな空気も素晴らしいごちそうだ。photography: Mariko Omura
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