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【驚愕】自分で人体実験!ウイルスを使った乳がん治療に挑んだ女性科学者

  • 2024.12.12
自ら培養したウイルスを使用して乳がんの治療を試みた研究者、その結末とは
自ら培養したウイルスを使用して乳がんの治療を試みた研究者、その結末とは / Credit:Canva

再発した乳がんの治療に、自己実験を行うという前例のない決断を下したクロアチア・ザグレブ大学 (University of Zagreb) のウイルス学者Beata Halassy (ベアタ・ハラッシ) 氏。

医師たちのモニタリングのもと、自身の研究室で培養したウイルスを用いて治療を行いました。

科学的挑戦と倫理的課題が交錯するこのケースは、新たながん治療の可能性を示すと同時に、慎重な科学的検証の重要性を浮き彫りにしています。

研究の詳細は2024年8月23日付で学術誌『Vaccines』に掲載されています。

目次

  • 再発した乳がんと科学者の決断:ウイルス療法への挑戦
  • 未知の治療法とその結末:ウイルス療法がもたらしたもの

再発した乳がんと科学者の決断:ウイルス療法への挑戦

2020年、49歳のウイルス学者のBeata Halassy (ベアタ・ハラッシ) 氏は、乳がんの再発という厳しい現実に直面しました。

左乳房を切除してから数年後、同じ部位で再び腫瘍が発生していることが判明したのです。

今回の診断は、筋肉にまで浸潤するステージ3の乳がんでした。

これまでの治療で再発を防げなかったという事実は、かなり彼女を落胆させました。

以前の化学療法で経験した副作用や身体的・精神的な負担を考えると、彼女は同じ治療方法を選択する気持ちにはなれなかったようです。

人によっては副作用の程度が異なる化学療法、再び同じ治療を選択するには躊躇いが生まれる
人によっては副作用の程度が異なる化学療法、再び同じ治療を選択するには躊躇いが生まれる / Credit:Canva

そこで、彼女は自身の専門分野であるウイルス研究分野で報告されている腫瘍溶解性ウイルス療法 (OVT)」 という新しい治療法に目を向けました。

OVTは、ウイルスを利用してがん細胞を攻撃すると同時に免疫系を活性化させる治療法です。

こうしたアプローチは、アメリカでは一部の皮膚がんに対する治療法として承認されています。

しかし、乳がんへの有効性はまだ十分に検証されておらず、かなりリスクの高い治療法です。

医師たちもこの治療法を患者に適用するという考えは持てませんでした。

そこで彼女が決断したのは、この治療法に対して自分自身を使った人体実験を行うという、自己実験の実施でした。

自己実験は、科学分野においてかなり倫理的な問題を問われる行為です。

とはいえ、歴史上自己実験の実施によって偉大な発見をした科学者はいくつか報告されています。

医学分野で有名なのは、オーストラリアの研究者バリー・マーシャル氏でしょう。

彼は、ヘリコバクター・ピロリ菌を自ら飲んでそれが胃の中で繁殖し、胃潰瘍や胃がんの原因になることを証明しました。(それ以前は細菌は胃酸で溶けてしまい胃の中では繁殖できないという認識でした)

井戸水などに潜むピロリ菌が胃がんの原因になる、胃カメラでピロリ菌を発見して除去できれば胃がんを回避できるなどの話は聞いたことのある人が多いでしょうが、その発見はこのマーシャル氏の自己実験からもたらされた成果なのです。

この発見は後に多くの人々の命を救うことに繋がったため、彼は2005年にノーベル医学賞を受賞しています。

このように、自己実験は倫理的な観点からは疑いの目を持たれているものの、十分な成果を上げた実例も存在しています。

そこで彼女は、OVTという新しい治療法について自身の科学的知識と経験を用いて自分の症例に適用するという判断をしたのです。

もちろん、思わぬ副作用の可能性があるため、彼女一人で実施できるものではありません。

そのため、この自己実験は医師たちによる慎重なモニタリング体制のもとで進められました。

ハラッシ氏の担当医たちは、治療の過程で経過を定期的に観察し、万が一悪化が見られた場合には従来の治療法に切り替える準備を整えていました。

未知の治療法とその結末:ウイルス療法がもたらしたもの

ハラッシ氏が選択した腫瘍溶解性ウイルス療法 (OVT) は、慎重に計画されました。

治療に使用したのは、彼女自身が研究で扱った経験のある麻疹ウイルスベシキュロウイルス

この2種類のウイルスは、乳がん細胞への感染性が示されており、安全性の高い株が選ばれました。

そして、自らの研究室で培養したウイルスを使用し、腫瘍に直接注射し治療を開始しました。

比較的安全性の高いウイルスを使用して実験に臨んだ
比較的安全性の高いウイルスを使用して実験に臨んだ / Credit:Canva

この治療は約2カ月間にわたり行われ、治療を開始してからその成果が徐々に現れていきました。

治療の進行とともに、腫瘍は次第に小さくなり、硬く固定されていた腫瘍が柔らかくなり、周囲の組織から分離されるようになりました。

この変化によって、腫瘍は手術で完全に切除可能な状態にまで縮小しました。

病理学的な検査では、腫瘍内に多くの免疫細胞が浸潤していたことが確認されました。

これは、ウイルスががん細胞を攻撃すると同時に免疫系を活性化させた可能性を示しました。

この治療プロセスでは大きな副作用は発生しませんでした。

一部で軽い発熱やインフルエンザ様の症状が見られたものの、いずれも短期間で収まりました。

その後、腫瘍が手術で完全に切除され、ハラッシ氏は1年間のトラスツズマブ (抗がん剤) 治療を受けました。

現在までに再発はなく、治療成功から4年が経過しています。

今回の取り組みは、がん治療における腫瘍溶解性ウイルス療法 (OVT) の可能性を広げる重要な結果を示しました。

OVTによって腫瘍の縮小と免疫系の活性化が確認され、がん治療における新しい方向性が示唆されました。

しかし、ハラッシ氏は、この療法が「最初に選択されるべき治療法ではない」と強調しています。

今回のケースが実現したのは、彼女自身が科学者としてウイルスに関する専門知識を持ち、研究室での設備とリソースを活用できたからこそ実現した、非常に特殊なケースです。

また、彼女は未検証の治療を自己判断で行うリスクを深く理解しており、「他の患者が安易に模倣すべきではない」と明言しています。

自己実験にはリスクがつきもの、倫理的観点が論ぜられる
自己実験にはリスクがつきもの、倫理的観点が論ぜられる / Credit:Canva

ハラッシ氏はこの治療経験を科学の発展に役立てるため、学術誌への発表に踏み切りました。

しかし、自己実験を伴う研究という特性から倫理的な懸念が生じ、掲載を拒否されることもありました。

特に、自己治療が他の患者に誤解や模倣を誘発するリスクが問題視されました。

それでも彼女は「知見を共有する責任」を胸に、最終的に学術誌『Vaccines』に研究を発表しました。

今回のケースは、OVTの可能性と課題を浮き彫りにしました。

腫瘍の縮小と免疫系の活性化を同時に実現できるOVTですが、安全性と有効性の確認には十分に管理された臨床試験が不可欠です。

ハラッシ氏の経験は、科学者としての知識とリソースがあったからこそ可能になったものであり、さらなる研究が今後の発展に必要であることを示しています。

参考文献

This scientist treated her own cancer with viruses she grew in the lab
https://www.nature.com/articles/d41586-024-03647-0
Is it ever OK for scientists to experiment on themselves?
https://theconversation.com/is-it-ever-ok-for-scientists-to-experiment-on-themselves-243612

元論文

An Unconventional Case Study of Neoadjuvant Oncolytic Virotherapy for Recurrent Breast Cancer
https://doi.org/10.3390/vaccines12090958

ライター

岩崎 浩輝: 大学院では生命科学を専攻。製薬業界で働いていました。 好きなジャンルはライフサイエンス系です。特に、再生医療は夢がありますよね。 趣味は愛犬のトリックのしつけと散歩です。

編集者

海沼 賢: 大学では電気電子工学、大学院では知識科学を専攻。科学進歩と共に分断されがちな分野間交流の場、一般の人々が科学知識とふれあう場の創出を目指しています。

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