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【見た目エイリアン】水深8000mの闇の世界から「新種の捕食生物」を発見!

  • 2024.12.12

水深8000メートル級の深海からエイリアンが、いや、新種の捕食生物が発見されました。

米ウッズホール海洋研究所(WHOI)によると、この新種生物は南米チリ沖のアタカマ海溝で見つかったとのこと。

彼らが棲息する場所は、海の中でも最も深い領域を示す「ヘイダル・ゾーン」です。

甲殻類の一種であり、小さな獲物を狩って生きていると見られます。

しかしパッと見は完全にエイリアンですね。

一体どんな生物なのでしょうか?

研究の詳細は2024年11月27日付で科学雑誌『Systematics and Biodiversity』に掲載されています。

目次

  • 水深8000m級の暗闇に潜む「新種生物」を発見
  • ヘイダル・ゾーンでは「ハンター」が珍しい

水深8000m級の暗闇に潜む「新種生物」を発見

今回の新種生物が見つかったアタカマ海溝は、南米の西側ペルーとチリの沖合い約160キロの地点にある海溝で、ペルー・チリ海溝とも呼ばれます。

全長は約5900キロメートル、平均幅は約64キロに達し、最も深い場所は8065メートルに達します。

世界一高い山のエベレストが標高8848メートルですから、エベレストをひっくり返した深さとほぼ同等と言えるでしょう。

新種生物が見つかった場所(赤丸)、右のメーターは色ごとの水深を示す/ Credit: Johanna N. J. Weston et al., Systematics and Biodiversity(2024)

研究チームは2023年にアタカマ海溝の生態調査の一環として、餌付きトラップを深海底に沈め、何らかの生物が採取できるかどうかを調べました。

すると水深7902メートルという驚異的な深さから4匹の生物が捕獲されたのです。

体長は4〜5センチほどですが、その生っ白く、ぬめりとした見た目は映画『エイリアン』シリーズでお馴染みの顔に張り付くフェイスハガーによく似ていました。

実際の画像がこちら。

フェイスハガーに似ている新種生物(ちなみに左が頭で、右が尾部です)/Credit: Johanna N. J. Weston et al., Systematics and Biodiversity(2024)

彼らが棲息する水深7902メートルというのは「ヘイダル・ゾーン」という領域にあたります。

海の世界はその深さに応じて、次のように区分けされるのが一般的です。

・有光層(エピペラジック・ゾーン):水深0〜200メートル
・中深層(メソペラジック・ゾーン):水深200〜1000メートル
・漸深層(バシペラジック・ゾーン):水深1000〜3000メートル
・深海帯(アビサル・ゾーン):水深3000〜6000メートル
・超深海帯(ヘイダル・ゾーン):水深6000メートル以上

捕獲された生物のいるヘイダル・ゾーンは海の中で最も深い領域であり、光のまったく差さない暗闇の世界となっています。

ヘイダル・ゾーンという呼び名も、そこが冥界のような場所であることから、ギリシャ神話に登場する冥府の神・ハデスにちなんだものです。

さらにチームが形態調査およびDNA分析を行った結果、この生物は甲殻類の一グループである「テンロウヨコエビ科(Eusiridae)」に属するものの、それ以上は過去に記録がなかったことから、新属新種の生物であると断定されました。

チームは本種が冥界のような暗い世界に住んでいることを踏まえ、南米のアンデス地方で「闇」を意味する言葉を取り入れた「ドゥルシベラ・カマンチャカ(Dulcibella camanchaca)」と命名しています。

また研究者らは、本種の形態や棲息環境から、この生物がヘイダル・ゾーンでは珍しい「ハンター」であることを突き止めました。

ヘイダル・ゾーンでは「ハンター」が珍しい

そもそもヘイダル・ゾーンのような深海において、捕食生物はとても珍しい存在です。

水深8000メートル級にもなると、光はまったく差さず、水圧は海面の約800倍もある上に、水温はほぼ凍結点近くにあります。

こうした状態では一般的な食物連鎖が成り立たず、ヘイダル・ゾーンに暮らすのは上から降り落ちてくるデトリタス(有機物の粒子)を栄養源として利用する小さな生物がほとんどです。

そのため、何らかの獲物を捕まえて食べる捕食者はかなり珍しいと言えます。

そんな中、新たに見つかったドゥルシベラ・カマンチャカ(以下、D. カマンチャカ)は、ヘイダル・ゾーンでは極めてレアな捕食者(ハンター)であると推測されました。

実際に彼らが獲物を食べている姿は観察できていませんが、研究者らが「捕食者である」と断定したのにはちゃんと根拠があります。

まず彼らが属するテンロウヨコエビ科は捕食性や肉食性の傾向を持つことが知られているので、D. カマンチャカも捕食性である可能性が高いです。

それからサンプル標本をよく調べた結果、D. カマンチャカは獲物を捕まえて保持するのに適応した鋭い爪状の脚やアゴを発達させていました。

さらに餌資源に乏しく、高圧環境でもあるヘイダル・ゾーンでは、生物が小型化する傾向にあり、体長が数ミリ〜数センチ程度のものが多いです。

その中でD. カマンチャカの体長5センチは、一見すると小さく聞こえますが、彼らが属するヨコエビ類ではかなり大きめであり、ヘイダル・ゾーンに住むとなると尚更です。

そこでD. カマンチャカの体型を維持するには、効率的に高カロリーの餌資源を得る必要がありますが、それは上から降ってくるデトリタスでは足りません。

これらを踏まえると、D. カマンチャカは彼らより小さなヨコエビ類や、底生の多毛類(ゴカイ)などをハントして食べていると考えられるのです。

水深8000mで狩りをして生きている/ Credit: canva

しかし水深8000メートル級の真っ暗闇の中で、獲物を見つけられるのがすごいですね。

彼らはおそらく、獲物から発せられる微量の化学物質を検知したり、わずかな振動を感知して獲物を捕まえていると見られます。

研究者らは今回の結果を受けて、「D. カマンチャカのような新種が見つかったことは、アタカマ海溝に固有の生物多様性が構築されている可能性がある」と話しています。

チームはアタカマ海溝での調査を続ける予定であり、今後もさらなる新種生物の発見が期待できます。

参考文献

Woods Hole Oceanographic Institution and partners discover new ocean predator in the Atacama Trench
https://www.whoi.edu/press-room/news-release/dulcibella-camanchaca/

元論文

A new large predator (Amphipoda, Eusiridae) hidden at hadal depths of the Atacama Trench
https://doi.org/10.1080/14772000.2024.2416430

ライター

大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。

編集者

ナゾロジー 編集部

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