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今、香水に惹かれる理由。いっそう自由になるボトルの表現

  • 2024.12.30
フレグランス専⾨店〈ル シヤージュ〉⽶倉新平さんがセレクトした香水

聞いた人:米倉新平さん(〈ル シヤージュ〉店主)

⾒よ、この⾹⽔たちを。⾹り、デザイン、バックグラウンドもさまざまな“今”を表す品々だ。ここは京都のフレグランス専⾨店〈ル シヤージュ〉。

〈J.F. Schwarzlose Berlin〉の1A‒33、〈Olibanum.〉のSacra、。〈HISTOIRES de PARFUMS〉のThis is not a blue bottle、〈KITOWA〉のEau de Parfum HIBA、〈sous le manteau〉 のessence du sérail n°4 〈ELECTIMUSS〉のCE LESTIAL、〈Mark Buxton Perfumes〉 Wood and Absinth
01:老舗ブランドが満を持してリブート。復活を果たした1856年創業、〈J.F. Schwarzlose Berlin〉の1A-33 50ml 26,400円。02:肌、地球にも優しいサステイナブル。「オリバナムと1つの原料」にこだわる〈Olibanum.〉のSacra(Sa) 50ml 16,940円。03:名は「青い瓶ではない」アートが生む香り。ルネ・マグリットの油彩画「イメージの裏切り」から想起。〈HISTOIRES de PARFUMS〉のThis is not a blue bottle 1/.4 120ml 26,400円(奥)、同1/.3 60ml 16,500円(⼿前)。04:香道の精神を受け継ぐ日本代表。和⽊を伝道する〈KITOWA〉のEau de Parfum HIBA 100ml 24,200円。05:古代の媚薬レシピを現代の感性で変換。19世紀の薬学書を発⾒し始動した〈sous le manteau〉のessence du sérail n°4 100ml 28,600円。06:最高級の素材を惜しみなく使用。シルクロードを辿り⾼級な⾹油を集めた古代ローマから着想した〈ELECTIMUSS〉のCELESTIAL 100ml 53,900円。07:熟練デザイナーが液体から紡ぐ物語。⻑年メゾンで経験を積んだデザイナーが⽴ち上げた〈LIQUIDES IMAGINAIRES〉のBLOODY WOOD 100ml 28,600円。08:あの名香を生んだ調香師のブランド。〈COMME des GARÇONS〉初の⾹⽔も⼿がけた調⾹師による〈Mark Buxton Perfumes〉のWood and Absinth 100ml 25,300円。

確かな審美眼で国内外の⾹⽔をセレクト、懇切丁寧にレクチャーを⾏うことから初⼼者、愛好家、作り⼿も列を成す話題店だ。店主の⽶倉新平さんを訪ね、今、⾹⽔に惹かれる理由を聞いた。

「調⾹師(A)が独⽴してブランドを始めたり、別業界のデザイナーが参⼊したり、はたまた廃業した⽼舗が復活したり。今、フレグランス業界でさまざまな動きが起きているのは間違いありません。最⼩限の⾹料だけを使うサステイナブル系もあれば、最⾼級の⾹料をふんだんに使うところもある。モチーフも酒、本、旅、映画、⾳楽、アート……と、どのジャンルにも紐付く⾹りがうちの店だけでもあります。

(A)アイデアを基にバランスと構造を計算し、香料を調合する職人。「監督で映画を選ぶように、調香師で香水を選ぶのもおすすめ」と米倉さん。香水検索サイトFRAGRANTICAを参考にするのも楽しい。

2024年3⽉にイタリア・ミラノで開催されたニッチフレグランス(B)の展⽰会『エクサンス』に⾏ってきたのですが、2023年の出展ブランド数が298だったのに対して、2024年は360でした。作り⼿が増えているのも間違いありませんね」

(B)小規模生産のコンセプチュアルな香水。天然香料中心、ジェンダーレスであることが条件に挙げられることも。2000年代初頭、マーケティング主体の香りを販売していた大手に対するアンチテーゼとして生まれたとされる。

ブランドの増加は、「香水を作りやすい仕組みが整ってきたのも後押ししている」という。西欧を皮切りに、香料会社が柔軟にインディペンデントな作り手と取引を始めた流れもある。では、香りそのものも変化しているのか。そもそもファッションのように、香水にも時々でトレンドがあるのだろうか?

「感覚的な部分もありますが、全然違うブランドが“同じように作っているな”ということは少なからずあります。大きい流れで言うとここ十数年くらい、中東マーケットに向けたアガーウッド(沈香(じんこう))やフランキンセンス(乳香)をたっぷり使った濃い香りが顕著でした。ですが最近はそれも落ち着いて、ファミリー(C)で言うところの、チェリー、ベリー系のフルーティノートが増えたように思います」

(C)オルファクティブ(嗅覚の)・ファミリーの略。近しい香りの系統、共通するキー成分で香水を大まかに分類したもの。シトラス、フローラル、フルーティ、アンバー、ウッディ、オリエンタルなど。

ただし香水を選ぶうえで、流行りやSNSの情報に左右されることには“待った”をかける米倉さん。「結局、一番嗅ぐのは自分自身ですから、好みや直感を大切に。〈シャネル〉の№5のような超定番と呼ばれる香りも今、何周も回ってフレッシュに感じることもありますしね」

〈LE SILLAGE〉店内のバーカウンター
〈LE SILLAGE〉の店内。バーカウンターからカクテルを提供するように、一人一人に国内外約30のブランドから香水を提案する。時には3時間かけて接客することも。

躍進の日本ブランドと、24年秋冬の“付け方”

フランスを中心に、西欧で育まれてきた香水文化。だがここ日本でも疑問や危機感を覚えて学び始めた作り手や、香りやコスメの知見を持った企業が強みを生かしてフレグランスに参入するケースも目立っている。

「筆頭は〈日本香堂〉をバックグラウンドに持って始動した〈キトワ〉。“日本の和木を世界に伝える”というコンセプトが一貫していて、アコード(D)の完成度も高く、デザインもいい。この国から最高級のオードパルファム(E)を作ろうという気概を感じます。メイド・イン・ジャパンはそれだけでブランドになりますし、侘(わ)び寂(さ)びなどの日本のモチーフは人気ですから、可能性は秘めているはずです」

(D)英語で「和音」を指す。2つ以上のノートを機能させ、バランスを取って生み出す新しい香りの調和のこと。

(E)アルコールに溶かした香料の濃度が10~15%で、持続時間は5~10時間目安。香水の名称は濃度の高い順にパルファム、オードパルファム、オードトワレ、オーデコロン。用途で使い分けるもの。

馴染みの深い香りは当然親しみやすいもの。「西欧のモノは強くて苦手」という人にも日本製は打ってつけだが、そもそも香水を「強い」と感じている場合、付け方を間違えていることが多いという米倉さん。

「いろんな言説がありますが、うちでは首、手首、腕の周りに付けるのはやめてくださいと言っています。顔から近すぎる、動きすぎる部分だともちろん香りを強く感じる。イヤホンで音楽を大音量で聴いて、“音がうるさい”って言っているようなものですよ。

トップノート(F)から綿密に計算された持続力のある香水は、必然的に濃くなります。肩、腰、もも、膝、足首の内側に付けてください。僕でもだいたい下半身だけ。動いた時に服の内側からふわっと香り立つくらい、これが2024年秋冬現在、日本における香水のベストな付け方かと。(頭上に)シュッと噴射してくぐるとかも、やめてくださいね(笑)」

(F)フレグランスを付けて、5~10分で消える香り。トップノート、ミドルノートの順に消え、常に下支えしているのがベース(ラスト)ノート、と捉えるとわかりやすい。

心地のよい服を着るくらいの感覚で、自分が心地よいように香りを身にまとう。用途、要領を心得たら、いざ香り選びへ。

香料
勉強用にワインセラーにストックしている数々の香料。試香のリクエストにも応じる。
〈LE SILLAGE〉店内
ディスプレイ横の本棚には、米倉さんも参考にする香水にまつわる書籍がずらり。調香師・新間美也が翻訳した『香水のすべて』(3,850円)など一部販売もあり。
〈LE SILLAGE〉外観
〈LE SILLAGE〉の外観。

Information

LE SILLAGE

「香りを経験し、嗅覚で楽しむ場所」がコンセプトのフレグランス専門店。国内外約30のブランドを取り扱う。店名のフランス語は「航跡」から転じて「残香」を指す。

ル シヤージュ
住所:京都府京都市東山区中之町205-2 WILLPARK神宮1F | 地図
TEL:075-752-2018
営:11時~19時
休:不定休
営業時間外は予約制。オンライン販売も。
HP:lesillage-kyoto.shop

profile

〈LE SILLAGE〉店主・米倉新平

米倉新平(〈LE SILLAGE〉店主)

よねくら・しんぺい/1989年滋賀県生まれ。調香師 ・新間美也のスクール〈アトリエ・アローム&パルファン・パリ〉にて幅広く香りについて学ぶ。2018年、京都・東山にフレグランス専門店をオープン。
HP:https://lesillage-kyoto.com/

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