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おにぎり食べれば大丈夫。連載コラム : 中瀬萌 #2

  • 2024.12.11

おにぎりが好きだ。

自分でつくるとおいしい。

誰かがつくってくれるとうれしい。

おにぎりひとつ、同じなのに全然違う。

出典 andpremium.jp

お茶碗に盛ったごはんと、握ったおにぎりとの大きな違いは「つい食べれてしまう」ということ。つい食べれてしまう、は食いしん坊のワードでもあるが、もう一つ私にとって大事にしている意味がある。それは「足りていないものがそこにある」ということ。

昨年、一冊の本に出合った。

『奥津典子の台所の学校』(WAVE出版)

奥津さんのことを知ったのは、どうしたらもっと、身体と近くなれるかを考えていた時だった。私自身、有難いことに身体はだいぶ丈夫な方で、アレルギーや持病も特にない。言い換えれば、体力だけが取り柄とも言えたりする。

ただ、何か、ぴたっとこない時がある。肩こり腰痛頭痛とか、そういうのではなくて、しっくり整っていないことがある。なんだか今の自分、勢いチカラ任せで生きている、そんな気がするように思っていたその時に、引き寄せのように出合ったこの本。

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“命が生まれ変わる場所で手を動かして、心を鎮める。”

表紙のこの言葉から、「あぁ、そういうことだったんだ」と腑に落ちた。

道具のことから、旬のこと、身土不二、一物全体、そして台所という場所の役割までが事細かく、ハッとさせられる論理が書かれている。読む行為というのは目の情報からだけなのに、なんだか本の内容自体が体の栄養のようだ。

この本と出会って以後、昨年の半年間、奥津さんの「台所の教室」というオンラインのオンデマンドクラスを受講し、料理はもちろん、毎日の小さな豆知識、生きること、といった壮大なテーマまで、たくさんのお話を聞くことができた。その中で特に身になったのが、玄米の炊き方とおにぎりのつくりかたである。

お米を炊く前に、まずはお米に触れるところから始まる。
サラサラ、しっとり、どっしり、ふわり、どんな個性を持っているのか感じて。

そして次に大事なこと。

お水に触れさせる前にほんの少しの時間だけでいいから目を閉じて、お米に手を合わせる。とても、静かな時間。米一粒、細胞一つ、合わさるひとときの時間。

最初は正直、そんな時間ない、やってられないとも思ったけれど、続けてみたら“足りないことがそこにあった”と、そこで気づかされた。

少量の塩で料理を自分好みの味付けにしていたことから転じて、他人任せにせず、自らが世話をして大切に育てることを意味することわざの“手塩にかける”とは言い得て妙、一粒が何百、何万粒にもなる丁寧に丁寧に育てられたお米を、ほかほかに炊き上げ、文字通り手に塩をつけ、ぎゅっとしかしふんわりとにぎり、そして食したものが、自らに吸収されていくということの尊さを改めて実感する。

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家でふとした時に甘いものが無性に食べたくなっていたらきっと、足りていない鉄分があるとわかる。

山に行く時は、汗をかくから塩を多めにする。

車で移動する時は、時間がゆっくりあるから口さみしくなりすぎないようにちょっぴり硬めに、具沢山にしよう。

季節の変わり目、お腹の調子を整えたいから、昆布と梅と炊く。

握る時のチカラの入れ具合と抜き加減から、今の自分のコンディションがわかったりする。“つい食べれてしまう”おにぎりで、小さな整えを繰り返す。

足りていないものを見逃さないように、感覚で見つける。余計なものは、排除しすぎず、たまーに少量、堂々とたべる。そのくらいがいい。

移動する時や、おやつ、登りに行く山のお供にはいつもおにぎりをむすぶ。朝、前日から浸しておいた玄米がぷくぷく呼吸し、ふくらんでているのを見ると、ほっとしてありがとう、と思う。

おにぎりは、人との縁も、結んでくれると信じている。

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どんなに忙しなくとも、忙しない時こそ、手を合わせ、いただく感謝だけは忘れずにいたい。

おにぎり食べれば大丈夫。

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大好きなお米は、長野県浅科の五郎兵衛米と、福島県会津の無の会のお米。

本当に、麗しく美しいお米です。

edit : Sayuri Otobe

アーティスト 中瀬萌

出典 andpremium.jp

神奈川県藤野町の麓で生まれ育ち、現在長野県在住。古代から使われる自然的顔料である蜜蝋を主に用いて、溶融した蜜蝋に色素を混ぜ合わせるエンカウスティークを独学で試み、自身が自然と触れある中で感じた景色、匂いや感情を記憶として閉じ込めるように絵画を制作している。

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