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「年末にまとめて大掃除」よりも効率的…汚れそうな場所に先回りして手間を減らす"予防掃除"4つの方法

  • 2024.12.11

大掃除の負担を減らすことはできるのか。知的家事プロデューサーの本間朝子さんは、あらかじめ汚れそうな場所に対策をして掃除をラクにする「予防掃除」を提唱している。どんな方法なのか。生活史研究家の阿古真理さんが取材した――。

風呂掃除の道具一式
※写真はイメージです
汚れそうな場所に先回りして対策する「予防掃除」

そろそろ大掃除の季節。憂鬱な気分の人もいるのではないだろうか? 「大掃除をラクにしたい」「大掃除の習慣をなくしたい」、という人にこそ知ってほしいのが、あらかじめ汚れそうな場所に手当てをして掃除をラクにする「予防掃除」だ。掃除の世界もアップデートが続いているが、予防掃除は人気を集めているだけでなく、そのときどきでトレンドまで発生している。そこで今回は、予防掃除のパイオニアで知的家事プロデューサーの本間朝子さんに、概念とやり方、そしてトレンドの変化について聞いた。

時短家事を提唱する本間さんが、予防掃除について最初に発信したのは2013年。当時は予防医療が注目を集めていたことから、家事にその概念を応用できるのでは、と考えた。取材に来ていた『クロワッサン』(マガジンハウス)の編集者に「予防掃除」と言ったところ、同誌がその後、予防掃除を特集で組んだ。

予防掃除「4つの方法」

本間さんが提唱する、予防掃除の方法は大きく分けて4つある。

1,汚れるモノの使用をやめる。

例えばキッチンや玄関、トイレなどのマット類。使わなければ洗濯など手入れするモノを減らせる。

2,汚れがつかないようにカバーをする。

キッチンや食器棚、冷蔵庫などの引き出し・棚に新聞紙やキッチンペーパーを敷いておく。汚れたら紙を交換すればよい。棚の上や引き出しの中はもちろん、収納しているモノも汚れにくくなる。

3,汚れに強いアイテムを選ぶ。

例えば水回りに置くモノは、乾きやすい形状のモノを選ぶ、抗菌グッズを活用する。

4,汚れが溜まりやすい場所をなくす。

例えば家具のすき間は、フローリングワイパーや掃除機のノズルが入る幅にする、キャスター付きの収納を置くなど、掃除しづらい場所を減らす。

今年の大掃除をする際に予防掃除を実践すれば、来年は掃除がラクになるのではないか。

「吊るす収納」で水回りの掃除を減らす

本間さんが予防掃除を提唱して11年。その間に、さまざまな予防掃除が流行した。

2013年から2016年、本間さんはよく水回りに吊るす収納を提案していた。浴室では、洗い場の床・棚に置いたイスやシャンプーボトルの底に水垢がこびりつきやすい。濡れたまま放置すると、ピンク色の菌類が繁殖することもある。その掃除をしないで済ませるには、吊るす収納にして接地面をなくせばよい。

「当時は、シャンプー類の詰め替えパックに専用ホルダーを装着し、タオル掛けなどにフックで、あるいは吸盤タイプのフックを壁に付け引っ掛ける方法をご紹介していました。詰め替えパックをそのまま使えば、詰め替え作業も省けます」と本間さん。ところがその間、マグネットつきの浴室用品が増えてきた。「マグネットつきの洗面器、フックをつけやすいシャンプーボトル、浴槽の縁に掛けやすいバスチェアなど、吊るせるグッズがずいぶん増えました」と話す。実はユニット浴室の場合、壁面は壁パネルの裏に鋼板が入っていることが多いので、磁石がくっつく(※壁の材質によりくっつかない場合もある)。そのことが知られるようになり、今はマグネットつきのシャンプー用棚などが市販されている。

「洗面所でも、2017年頃に歯ブラシの穴にカードリングを取り付けてフックで吊るすアイデアが流行、歯ブラシも吊るす人が増えました。2018年頃には山崎実業の歯ブラシを浮かせて収納できるホルダーが注目を集め、今では100円ショップや雑貨屋でも、歯ブラシを吊るすグッズが売られています」と補足する。

シャンプーなどは壁に貼り付けたフックに吊るす
シャンプーなどは壁に貼り付けたフックに吊るす
歯ブラシでも「吊るす収納」が登場した
歯ブラシでも「吊るす収納」が登場した
「汚れがつきにくくするものへ」洗剤も進化

洗剤も、「汚れを落とすものから、使った後に汚れがつきにくくなるものへと進化しています」。例えばトイレ。小林製薬がトイレタンクの手洗い金具下に置くだけで、薬液が滴り落ち便器内を洗浄する「ブルーレット おくだけ」を発売したのは1986年。ジョンソンが便器内に押すとジェル状のスタンプがつく「トイレスタンプクリーナー」を発売したのが2011年だった。「去年は、花王さんの『トイレマジックリン こすらずスッキリ泡パック』がヒットしました。便器内にプッシュすると、泡が出て貼りつくので、5分ぐらい置いて流すときれいになります」と本間さん。

花王「トイレマジックリン こすらずスッキリ泡パック」(画像=花王プレスリリースより)
花王「トイレマジックリン こすらずスッキリ泡パック」(画像=花王プレスリリースより)

浴室では、ライオンが2012年に除菌成分の「銀イオンの煙」を浴室内に広げる「ルック おふろの防カビくん煙剤」を全国で発売し、大ヒットした。2010年代後半には、各社から吹きつけることで汚れがつきにくくなる水回り用の撥水スプレーも登場し、人気になった。

その他にも、さまざまなカビや汚れの防止を謳う洗剤が登場している。今や水回りも、進化した洗剤で予防掃除ができるようになっているのだ。

ライオン「ルック おふろの防カビくん煙剤」(画像=ライオンプレスリリースより)
ライオン「ルック おふろの防カビくん煙剤」(画像=ライオンプレスリリースより)
「1口コンロ用の油跳ねガード」で油を飛び散りにくくする

2020年頃からは、マスキングテープやフィルターが流行。「外の土やホコリもつきやすい窓のサッシの溝、手あかがつきやすいスイッチ回り、トイレの便器が床と接する部分、見落としがちですがホコリが詰まりやすい浴室ドアの通気口などにテープやフィルターを貼っておけば、汚れたときに交換するだけで済みます」。東洋アルミから出た、浴室ドアや浴室換気扇・浴室乾燥機用のホコリ取りフィルターのシリーズは、コロナ禍で大ヒットした。ちなみに、食器棚やキッチン収納に敷く専用シートもニトリなどで販売されている。冷蔵庫や棚類の上も、本間さんは2013年からラップなどを貼ることを提唱している。

窓のサッシの溝にマスキングテープを貼り、汚れたら交換する
窓のサッシの溝にマスキングテープを貼り、汚れたら交換する

キッチンについて本間さんは、調理中に1口コンロ用の油跳ねガードを置くようすすめている。「油は1.5メートルから2メートル跳ぶと言われているので、1口用を使えばガードの外に飛び散りにくくなります」と話す。

しかし、若い世代はコンロを使用しない傾向がある、と本間さんは言う。「今はバズる系のレシピ本は、電子レンジ調理をすすめているので、加熱を電子レンジで行えばその庫内が汚れるだけで済みます。電気調理なべを2台使ってコンロは使わない、というご夫婦もいます」。経済評論家の勝間和代が電気鍋を使うなどしてコンロを使わない生活を提唱したのが、2017年。家電に加熱調理を任せればコンロを汚さないで済むし、ほったらかしで調理できる、と考える人が増えた結果、油脂で汚れがこびりつきやすく水垢も出やすい、掃除に手間がかかるキッチンが、実はあまり汚れなくなっている人がいるのだ。

1口コンロ用の油跳ねガードを使えば、油の跳ねを防止できる
1口コンロ用の油跳ねガードを使えば、油の跳ねを防止できる
15年前は「家事をラクにしよう」とは言いづらかった

このように予防掃除のトレンドから、世代ごとの認識の違いも透けて見える。「私が時短家事を提唱し始めた15年前は、大きな声で『家事をラクにしよう』とは言いづらかった。でも、わざわざ遠方から夜行バスで来て、応援してくださった先輩たちがいて勇気づけられました」と話す本間さん。「当時は30~50代ぐらいに、やらなくていい、と考える世代のボーダーがあった感じなのですが、今はもっとやらない価値観の世代が出てきました」と説明する。

「本当はきちんとやるべき」と考える60代以上、「ある程度サボってもいい」とする40~50代、「できればやらない」30代以下という感じだろうか。若い世代には、「ていねいに掃除して家じゅうをピカピカに保つべき」という強迫観念は薄れてきたのかもしれない。家事をラクにしよう、というムーブメントが始まって約10年。時代は確実に変化している。

実践しやすい方法は人によって違う

ただ、予防掃除の何が実践しやすいかは個人差がある。マスキングテープやシート類をセットする手間を考えれば、こまめに掃除したほうがいい、と感じる人もいるだろう。一時期、調味料や洗剤を市販の容器に移し替え、すっきりシンプルな空間を作ることが流行したが、手間とコストを考えれば不要、という流れもここ2~3年で強くなった。そもそも、おしゃれな容器の洗剤も増えた。予防掃除グッズが増えたように、スッキリした容器類も増えつつあるのかもしれない。

掃除をラクにする最もシンプルな方法は、道具類を使う場所にセットし、気がついたときにサッと掃除する習慣をつけることだ。布巾などをあちこちに置いておき、歯を磨きながら洗面所の水垢を取る、料理しながらコンロ回り、シンク回りを拭く。スティック型掃除機やフローリングワイパーを取り出しやすい場所にセットして、ゴミを見つけたら取る。予防掃除とともにそうした、軽く掃除する習慣を家族で身につければ、ふだんのていねいな掃除もラクになるし、大掃除の代わりに今年は遊びに出かけた、などと言える日が来るかもしれない。

阿古 真理(あこ・まり)
生活史研究家
1968年生まれ。兵庫県出身。くらし文化研究所主宰。食のトレンドと生活史、ジェンダー、写真などのジャンルで執筆。著書に『母と娘はなぜ対立するのか』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『「和食」って何?』(以上、筑摩書房)、『小林カツ代と栗原はるみ』『料理は女の義務ですか』(以上、新潮社)、『パクチーとアジア飯』(中央公論新社)、『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版)、『平成・令和食ブーム総ざらい』(集英社インターナショナル)、『料理に対する「ねばならない」を捨てたら、うつの自分を受け入れられた。』(幻冬舎)などがある。

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