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離婚したのに名字を変えなかった母。今ならわかる隠された真意

  • 2024.12.11

私の母は30歳で結婚し、42歳で離婚した。離婚の理由は夫婦喧嘩がエスカレートしたものだと思われる。夫婦間の詳しいことは離婚して8年経つ現在も教えてもらえずにいるが、夕飯時のギスギスとした雰囲気から、離婚の原因は意見の食い違いやすれ違いといった類のものだと推測している。

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母は30歳で私を産み、35歳で弟を産んだ。完璧主義で何に対しても手を抜かない性格の母は、時折少し無理をしているように見えた。母はストレスを極限まで溜め込んで一気に解放するタイプだった。不器用な父は、母がストレスを爆発させるまで気がつかない人だったので、家族間のバランスは不安定だった。最終的に、母にストレスをぶつけられた父が限界に達し、離婚をすると言い出したのである。

離婚後、私と弟はそろって母についていった。当時私は12歳、弟は7歳。親が離婚をして母についていくと、名字が母の旧姓に変わることはなんとなく理解していた。当時仲良くしてもらっていた友達が、親の離婚で名字が変わったからだ。

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名前を変えるからといって何かが劇的に変化するわけではない。だが「新しい人生の幕開けのような気持ちだ」と友達が格好つけて言うのを聞き、羨ましく思っていたのは事実である。そんなときに両親が離婚をすると聞いたので、迷わず母についていくことを決めた。経済的な理由で、父についていくことを促されていたのだが、名字を変えてみたかった私は母を選んだ。弟はまだ母から離れられない年齢だったので、2人セットで母のものになった。

父と離れて暮らすことになる寂しさは、名字が変わることのときめきがすっかり消してくれた。7歳の弟に「お母さんと一緒に暮らすことになったら名前が変わるんだよ」と嬉々として説明したことを覚えている。母の旧姓を聞いて、漢字の練習までしていた。今思い返すと、父に対して感じの悪い態度だったと反省している。

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双方合意の上での離婚だったため、母ははやく旧姓に戻したい気持ちだろうと思い込んでいた。しかし、母は名字を変えなかった。名字が変わることを楽しみにしていた私は母の選択に納得できなかったが、なぜか理由を聞く気持ちにはなれなかった。だが娘であり女である今の私には、母の本心がわかる。

母はどれだけ喧嘩をしても、父のことがずっと好きだったのだ。離婚後も名字を変えないということは、「離れてもあなたと同じ名前で生き続けます」という愛の決意表明である。同時に、結婚をして父から名字をもらうと決めた過去の自分に対する誠意でもあるのだろう。どこまでも自分に厳しく、思いを貫く人である。母に理由を聞いても「手続きが面倒だっただけ」と誤魔化すだろうが。

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8年間、私と父の唯一のつながりは、名字だけである。連絡先も住所もわからない。父が今も元気に生きているのかということすら、簡単には確認できない。
しかし私はこれからも、自己紹介をする度に父のことを思い出し、父を愛している母に思いを馳せる。たとえ私が愛する人と名字を共有しても、私の旧姓は父とずっと同じである。
人はそうやって生きていくのである。

■rainのプロフィール
哲学専攻女子大学生、冬生まれ。
note:https://note.com/rena_0190

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