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<全領域異常解決室>脚本家・黒岩勉氏&大野公紀Pが、制作秘話とクライマックスの見どころを語る「第9話と第10話でさらに振り切った話になる」

  • 2024.12.10
「全領域異常解決室」より (C)フジテレビ
「全領域異常解決室」より (C)フジテレビ

【写真】キツネの耳と尻尾をつけて踊る広瀬アリス

藤原竜也が主演を務めるドラマ「全領域異常解決室」(毎週水曜夜10:00-10:54、フジテレビ系 /FODでは毎週放送終了後から次週のエピソードを先行独占配信)の第9話が、12月11日に放送される。本作のクライマックスに向けて、脚本を手掛ける黒岩勉氏とプロデュースを務める大野公紀氏にインタビューを実施。制作の背景や興玉雅役の藤原と雨野小夢役の広瀬アリスのキャスティング、“不可解な異常事件”を解決していく1話完結型の物語から神話への急展開を見せた構成の理由などについて聞いた。

藤原竜也は「唯一無二の存在感と説得力がある役者」

――最初に、なぜ藤原さんを神様として配役したのでしょうか?

黒岩:そもそも藤原さんじゃないと成立しない企画なんです。「僕も神です」ってかなりハードルが高いセリフだと思うんです。神様だと言ってもそこまで「えー!?」とはならない助走を僕はつけたつもりですが、やはり演じている方に説得力がないと絶対に成立しない世界観だとも思っていて。だから、藤原さんが決まったときは、「いけるかも」と確信がもてました。ずっとご一緒したいと思っていた役者さんだったので、すごくうれしかったです。藤原さんになったからこそ、 こういう構成で引っ張れるんじゃないかとも思いました。

興玉雅というキャラクターは神様なので、掴みどころがありません。すごく雅やかで余裕があるんだけど、浮世離れしている。だけど、なんか深いところまで考えてそうだと思わせるキャラクターでと難しいお願いをしたのですが、それを藤原さんは完璧にこなされているので、やはりすごいですよね。

大野:藤原さんの起用理由で言うと、唯一無二の存在感と説得力がある役者さんだと思っていて。黒岩さんもおっしゃる通り、セリフに曖昧さを残しているときでも説得力がある。藤原さんの過去の作品を見ても、皆さんの心に残る名シーンを数々生み出してきていますよね。

今回、重要な神様役をやっていただく中で、 藤原さんだったらそんな過去の名シーンをさらに超えるような、もっと面白いものを作ってくださるんじゃないかという期待感とワクワク感がありました。興玉雅というキャラクターが深く形作られていく中で、もう本当に藤原さんしかいないと確信してオファーさせていただきました。

――バディを広瀬さんに抜擢した理由も教えてください。

大野:藤原さんとの化学反応に期待しました。広瀬さんが演じられている小夢は、第1話では別部署から“全領域異常解決室”という謎の組織に異動してくる存在だったので、視聴者目線のキャラクターです。興玉が群を抜いて変わった存在でもあるから、そこは視聴者の方々の目線に近いようなリアクションで演じてくださる方が良いなと思ったときに広瀬さんだなと。

広瀬さんのすごさは、自然体のお芝居はもちろんコミカルなお芝居もできる。そしてそれを完璧に演じ分ける器用も持っていらっしゃるところだと思っていて。 空席である“全決”の室長が実は小夢だったということが判明し、急に立場が変わるので、その切り替えに必要である、広瀬さんの器用さと溶け込む力が1つの起用理由となりました。

黒岩:神様なので、今回は叫ばない藤原さんを僕は見せたいと思っていました。何千年も生きていて、変わらない人格。もう最初から出来上がっているキャラクター。そのカウンターで、広瀬さんだなと。彼女は第1話から最終話まで変わり続けるキャラクターです。覚醒するというか、自分の持っているモノや自分の重要さ、周りの大事さ、世界の構造などに徐々に気付いていく。全く違う人間になっていくんですよね。

最後は神になるのか、人間になるのかというとこも含めて、それを表現できるのが広瀬さんだなと。変わらない人と変わっていく人というバディの形を面白く表現できるのがお2人だと思ったんです。

大野:黒岩さんとお話していく中で、 男女バディ物で、振り回す側と振り回される側みたいな構造はよくあるので、あえて振り回されない大人なキャラクターとして描こうっていう案が出て、小夢が出来上がりました。

黒岩:広瀬さんは、コメディの役者さんとしても素晴らしいのは知っていましたし、視聴者もおそらくそういう元気で明るい広瀬さんを求めているのかなとは思ったのですが、しっかり地に足のついた女性として始まった方が物語の雰囲気には合っているのではないかと考えました。

「僕も神です」というセリフは『もう一生書きそうにないセリフです (笑)』

――興玉演じる藤原さんの「僕も神です」というセリフが衝撃でした。日常生活はもとより実写作品でもあまり聞いたことがないインパクトがあるセリフですが、どのように思いついたのでしょうか?

黒岩:思いつくと言いますか…狙いとかでは全くなくて、流れの中で必要なセリフだったから書いただけで、最初からこれを言わせたいとかはなくて。狙ったセリフだと絶対に面白くないし、浮いちゃうんですよ。ただ、もう一生書きそうにないセリフですよね(笑)。

おっしゃる通り、アニメーションだったら全然あり得る言葉ですが、実写だとあまり聞き馴染みがない。僕のイメージではもう少しクスッと笑える感じになるのかなとも思っていたのですが、蓋を開けてみたら藤原さんの言い方と広瀬さんの受けのリアクションも含めて、ものすごく説得力がある言葉になっていて驚きました。制作側の僕たちが想像した以上のシーンになるのは、ドラマならではの面白さですよね。

――確かに言葉の強さを感じさせないくらいナチュラルでしたよね。

黒岩:そうですよね、これだけ突拍子もなく非現実的な話を実写の地上波、しかもプライムタイムでやるというのは、勇気がいることでした。神様である組織や個人の設定とかをちゃんと綿密に作らないと、どうしてもチープになってしまう。僕が視聴者だったら、子どもだましだと思った瞬間、一切観なくなりますから、嘘くさくなるのだけは避けようと思っていました。

裏設定も含めて、登場人物や組織、背景を徹底的に考えました。事件も生身の人間らしさもリアルに作るけど、神様でこういう特殊能力があるという部分だけはどうしても非現実的になってしまう。だから、その非現実的設定を特に細かく詰めて、神話監修もシビアにやりました。この努力が担保になって、そこに役者さんの凄みも加わったことで、説得力が増す。だから、この時間帯でのエンターテイメントとして成立するというギリギリのところを攻めました。

「刺さる人にはとことん刺さるものを作ろう」と完成したドラマ

――本作は、完全オリジナル作品ということですが、そもそもどのような経緯で誕生したのでしょうか?

大野:黒岩さんとお会いしたときに黒岩さんから「“全領域異常解決室”っていう組織がアメリカにあるんですけど、知ってます?」という話になったんです。

黒岩:2年前ぐらいに、「アメリカで未確認飛行物体(UFO)とかの異常現象に対応する組織を政府として立ち上げます」という記事を見て、面白そうだなと思ってたんです。「これをパッケージでやれないでしょうか?」と相談したときに、「いや、でも、神様の話もありますよね?」ってなって、「じゃあ、それ一緒にしちゃいますか」となって、なんとなくの塊が出来上がったのが始まりでした。

さかのぼると、 数年前に僕は伊勢詣をしたんです。そのときに、外宮から内宮までタクシーに乗せていただいたんですけど、その運転手さんが「途中に猿田彦神社があるからぜひ行ってください。そこに奥様の天宇受売命が祀られている佐瑠女神社というのがあるのですが、芸能の神様なんです」って言われたので、じゃあぜひって。

その神社で、いろいろなお話を聞いて、日本神話って昔からなんとなく知っているけど、深くは知らないなと。そこをちゃんとアカデミックにドラマでやるのはどうかと。最近、僕はテレビはアカデミックさが重要なような気がしていて。お勉強って言ってしまうと少しハードルが高いですが、そういう日本神話をモチーフにした学びがあるエンターテイメントを作ったら面白いんじゃないかと思ったんです。

今回の脚本のお話を最初にいただいたときに、「せっかくだったらあまり見たことがないドラマを作りたいですよね」と言ったら、フジテレビの方から「小野篁(おののたかむら)っていう神様になった人間がいるの知ってます?」って返ってきたんです。その小野篁がお祀りされている小野照崎神社というところがあるのですが、実は僕が毎年欠かさず参拝している神社で、奇遇だし縁を感じました。「では、僕も神様は面白いと思っていたので神様と神社でやりましょうか」という前段があったんですよね。

大野:そのため“神話”と“異常な現象”という、2つの莫大なリサーチが必要でした。

黒岩:最初から神様の話ですというのもできますが、中盤の第5話あたりからそういう話に持っていこうと計画しました。2012年に「O-PARTS~オーパーツ~」(フジテレビ系)というSFチックな4夜連続ドラマを深夜枠でやったんですよ。観てくださった方からの反応はすごく良かったのですが、やはり観客を選ぶんですよね。

そのときに、民放の地上波でオカルトをやることの限界と少し怖さを感じて。だから、「全決」は序盤は老若男女誰もが入りやすいパッケージにしておいた方が間口は広がるのかなと。その考え方で、1話完結型の事件ものにして、そこから神話に入っていくという構成になりました。

――広瀬さんの小夢役が、視聴者との橋渡しの役だとばかり思っていたら、まさかの神様(天宇受売命)かつ“全決”の室長だったことに驚きました。

黒岩:そこまで付き合ってくださった視聴者の皆さんには、「なんとなくおかしい」という違和感を抱かせておいて、それを第5話でひっくり返す。世界を反転させる。そうした方がいきなり1話で神を出すよりも、そこまでついてきてくれた視聴者の皆さんが、その後も最後まで同じ列車に乗り続けてくれる可能性が高いのではないかということで、こういう構成を選びました。ちょっとテクニック論になっちゃって…全然クリエイティブじゃないですね(笑)。

大野:打ち出し方に関しては、本当にすごくギリギリまで悩んで精査しました。第1話から神様って言ってしまったら、視聴してくださった方々が離れていってしまうんじゃないかという不安ももちろんありましたし、ファンタジーを地上波のドラマで描くことの難しさもあって。そこでまずは事件解決をエンタメとして楽しんでいただいて、その先にこんな奥行きがあったんだと知っていただいた方が、視聴者の方には2度楽しんでいただけるのではないかという結論に至りました。中盤からのゲームチェンジという意味でも大事だなと。

――一方でオカルトを期待して観始めた視聴者には、第5話まで引っ張るというのは結構長いようにも感じますが…。

黒岩:最初からオカルトを求めている視聴者の方もいらっしゃるのは分かっていたので、そういう方にはもの足りない部分はあったと思います。そこもあったので、オカルト要素も匂わせつつ、第5話まで展開していきました。 あとこの構成は、配信の存在も大きくて、最初からまた見直せるからっていうのもありますね。全体的にテレビは視聴率が取れなくなってきているので、いかに話題性を作るかも大事で。

だから、ドラマとして深さを求めるか広さを求めるかで、今回は深さでいこう、刺さる人にはとことん刺さるものを作ろうと。その考え方がみんなの共通にありました。オカルト要素を少しでも期待してくださっていた視聴者の方々には、第5話から待ちに待った展開になっているのではないかなと。1話だけで感動する物語ではないけど、長期的に見て楽しめる作りを選択しました。

大野:ある種、今回は連ドラだからこそ描けた作品だと思っています。SNSを筆頭にショートコンテンツが流行っている今、皆さんの日々の大事な時間を割いて見ていただくということは、とても貴重でありハードルが高いとも思っています。でも、この作品だったら回を追うごとにより楽しんでいただけるものになるのかなと。そういう点で、全10話の連ドラで描くからこそ意味のある作品になっているのではないかと感じています。

黒岩勉「1人、泣きそうになっていました」

「全領域異常解決室」より (C)フジテレビ
「全領域異常解決室」より (C)フジテレビ

――そんな第5話を観てから、第1話を見返すと、皆さんのお芝居の素晴らしさを改めて実感しました。セリフにはない部分も、しっかりと意味がある表情や仕草をしていて、驚きます。

大野:本当にそうですよね。第2話の小夢のきつねダンスの意味をはじめ、こういったちょっとした違和感の答えが、視聴者の方々に伝わる瞬間が楽しみの1つでもありました。

黒岩:撮影の最初の頃、各事務所さんから「このリアクションはどういう意味ですか?」とよく問い合わせが来ていたので、神様という設定等は説明させていただきました。ただ、その時点でまだ台本を(小夢が天宇受売命という神様であることが判明する)第7話までは書けていなかったので、役者の皆さんは演じるのが大変だったと思います。

でも、それを皆さんがしっかり解釈してお芝居をされていたから、第1話を観たときにすごく感動して。理解度の高さに驚きました。猿田毘古神である芹田正彦役の迫田(孝也)さんが、本当に何千年も守ってきた夫みたいな感じで記憶がない小夢を迎えに行くじゃないですか。その切なさに僕は1人、泣きそうになっていました。

――確かに、第7話放送後に私も第1話を見返して、そのシーンで胸がギュッとなりました。では、最後にクライマックスに向けて見どころをお願いします。

大野:ここまでご覧になってくださった皆さま、本当にありがとうございます。初めは不可解な異常事件を解決していく組織の物語という見え方から、途中から本当は人間界を守ってきた日本の神々の話なんですとなり、驚きの展開が続いたと思います。

第9話と第10話はこれまでの驚きをさらに凌駕するような展開になっているので、最後まで見届けていただけたらうれしいです。日本の神話を扱うこのドラマは、おそらく過去に例を見ないような作品になっていると思うので、まだご覧になってない方々にもぜひ見ていただきたいです。最後まで楽しんでいただけたらと強く願っております。

黒岩:第8話からまた少しギアが変わってきて違う世界観の話になってきたものが、第9話と第10話でさらに振り切った話になります。現実的ではないですが、素晴らしい役者さんとチームのおかげで、最後までご覧いただいた方には「見てよかったな」と感じていただけるものには絶対になっていると思います。

神様は現代社会に何を思い、 神様がいることを知った人間もまた何を感じるのか、そして神様は何のために存在しているのか…など、そういったちょっと変わった視点から今の世の中を見たときにどう切りとられるのかといったテーマもあります。あまり難しく考える必要はないのですが、そういったメッセージ性も感じていただけたらうれしいです。

構成・文=戸塚安友奈

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