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潜在的に懐かしさを感じる匂い。感覚から呼び起された実家の記憶

  • 2024.12.10

友だちの家の匂いはなぜか良い匂いがする。その人のイメージに合っているような気がするのも不思議だ。

しかし、自分の家の匂いはどうしてか匂わない。嗅ごうと思っても匂わない。友だちに聞くと、私の家の匂いはちゃんとあるのだと言う。私の実家は、フレグランスや柔軟剤にこだわっていなかったので、ちゃんとした香りを纏うことはなかった。生活していて生まれる匂いそのものを纏っていたのだろう。

たまに、私にとって刺激のある匂いを醸している家がある。思わず顔をゆがめてしまうときもあるのだが、自分も同じような匂いを放っていないだろうかと思わず不安になってしまう。子どもの頃はやけに自分の放つ匂いが気になったときがあったのだ。

実家を出て一人暮らしを始めたとき、自分でも感じられる匂いにしようとルームフレグランスを取り入れてみた。お気に入りの匂いと共に過ごす空間は幸せではあったものの、生活臭と混ざって嫌な匂いになっていないか心配にもなった。

実家を出てからも家の匂いや自分の放つ匂いに敏感だった。とにかく不快な匂いを放たないようにと、とらわれたように頭の中にその考えが存在していたときもあった。

◎ ◎

そんなある日の帰り道、ふと懐かしい匂いが鼻をかすめた。どこかで嗅いだことのある匂い。気になって頭から離れないその匂いは、何日も私の中に居座った。

仕事から帰る時、必ず通る場所で嗅ぐ匂いであり、匂うたびに私の体に馴染んだ。

数日経ってから、ひとつの答えをひらめいた。これはもしかすると、実家の匂いかもしれない、と。

実家の匂いは嗅げないものだと思っていたが、一人暮らしを始めてから帰省をすると昔に戻るような匂いとして自然に受け入れていた匂いがある。きっとその匂いに近い匂いを嗅いでいたのだ。

だから懐かしい匂いであり、私の体にやけに馴染みがよかったのだ。すべてがつながり、納得できた気がした。

それ以来、帰り道にいつもの場所を通る時は意識をして匂いを嗅ぐようになった。実家に帰る頻度はさほど高くないが、帰省の時期が近づくと、一層懐かしさを感じられる。

匂いがするのは、アパートの近くを通った時。そのアパートのとある家庭に、勝手に親近感を感じている。

◎ ◎

実家の匂いはずっと嗅げないと思っていた。今まで自分が過ごしてきた当たり前の空間で、当たり前に嗅いでいた匂いで、嗅ぎたくてもできなかった匂い。しかし、実家を離れて新しく生活を始めたことで、これまでとは違った匂いを新たに自分の匂いとして纏っていた。

そうか、これなら実家の匂いがわかるんだ、と発見をした瞬間でもあった。

妙に感心した。顔を歪めてしまう匂いではなかったことに安心もした。実家の匂いは言葉に表すのが難しい。長年自然に匂っていたために鼻が普通の匂いとして認識しているのだろう。デフォルトやベーシックな匂いというとわかりやすいのかもしれない。

だからこそ、自分がこれまで知っていたけれど匂えなかった存在に外から触れた時、少し嬉しさを覚えたのだ。

この匂いを嗅いだとき、私の体が覚えていた。匂いに対して、匂いそのものから引き出された記憶ではなく、潜在的な感覚で懐かしさを感じたのだ。感覚から呼び起こされた実家の記憶。

匂いは記憶と結びつきやすいため、エピソード記憶として覚えていることも多いだろう。一方で、なんとなく覚えていた感覚や、潜在的な懐かしさから連想を経て記憶が呼び起こされたことは、そう多くはない事のように思う。

◎ ◎

今日も帰り道にあの匂いを嗅いだ。意識してみると、こんな匂いだっただろうかと思ってしまうくらい当たり前に、日常的に嗅いでいたらしい。

僅かな時間だけタイムスリップしたかのように、実家の居間がよみがえる。

一人暮らしにすっかり慣れ、こちらが日常になっている今の暮らしに、つかの間の懐かしさをくれた匂い。感覚ではなく、意識で覚えていた匂い。そんなもの、忘れるなんて絶対にない。むしろできない。そう思う。

■kanon.のプロフィール
自分らしさ、今を楽しむためには、を考える駆け出しの社会人。 HSPの持ち主。強みに変えられる生き方を探し中。

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