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妻の友達は不倫相手で娘の父親……たどり着く真実と夫婦関係の捉え直し 『わたしの宝物』8話

  • 2024.12.10

ドラマ『わたしの宝物』(フジ系)は、夫以外の男性との間にできた子どもを、夫の子と偽り、産み育てる「托卵」を題材に描く。神崎美羽(松本若菜)と夫の宏樹(田中圭)は仲の良い夫婦だったが、結婚から5年が過ぎ、美羽は宏樹のモラハラに悩まされている。だが、幼なじみの冬月稜(深澤辰哉)と再会したことで、美羽の人生は大きく動くことになる。8話、冬月が美羽の不倫相手だと考えた宏樹は、ついに二人で対面することに。

冬月を喫茶店に連れ出した宏樹

子どもを妊娠する前、“友達”に頼まれて図書館でおこなわれたフリーマーケットに参加した美羽。その時、彼女がこれまで見たことのないような笑顔をしていた事実が、ずっと胸に引っかかっていたであろう宏樹。母子手帳に挟んであった刺繍(ししゅう)の栞(しおり)がなくなっていること。美羽の言う“友達”から冬月にたどり着いたこと。ついに宏樹は、美羽の不倫相手であり、娘・栞の父にあたる人物が冬月であると気付いたようだ。

宏樹は、真実を知ろうと図書館に行き、美羽と冬月が仲の良い幼なじみだったと職員から聞く。さらに、偶然会った冬月を車で連れ出し、もはや宏樹の癒やしのサードプレイスとも言える喫茶店「TOCA」に向かう。その際の一言が「コーヒー飲みに行きませんか」であることも、どこか生々しさがある。

宏樹しかり、美羽の親友・小森真琴(恒松祐里)しかり、冬月の同僚である水木莉紗(さとうほなみ)しかり、好きな相手のことや、好きな相手が思いを寄せている人物のことは、何がなんでも知りたくなるものなのだろうか。後述するが、冬月の相手がどんな人物かを知りたいがあまり、宏樹を通じて美羽を呼び出す莉紗の行動も、目に余るものがあった。

宏樹は冬月にこう告げる。「冬月さんが企画した図書館のフリーマーケット、妻がお手伝いしましたよね? あの時の妻の笑顔が、今もずっと忘れられません」。妻の名前が美羽であり、不倫していたことも打ち明け、「妻はその相手のことを、今もずっと大切に思っています。その相手は冬月さんですよね」と続ける。

冬月の心にどんな思いが去来したのか、視聴者が知るのは、もう少し先のことになるのだろう。冬月はまだ、栞の父が自分であると知らされていない。すでに美羽に手紙をつづり、気持ちの整理をつけたつもりでいる冬月にとって、事実が分かれば、再び心情をかき乱す火種が生まれることに繫がるだろう。

美羽と冬月は、お互いの思い出の象徴である刺繍の栞を、同じ本に「しまって」おいた。それは暗に、中学時代も含め、再会した後のやりとりも大切な記憶として収めておき、二度と取り出すことのないように……そんな決意が込められていたのではないだろうか。周囲からは、どこにでも起こり得るただの不倫だと断罪されがちな営みだが、それは、当人たちの心境とあまりにも乖離(かいり)している。

妻のことを知りたいのに……離れる心の距離

托卵、不倫、離婚……。耳目を引くキャッチーなワードが連なる『わたしの宝物』。それだけでも、視聴者を選んでしまうリスクがあるように思うが、本作はそんな要素を巧みに利用して「夫婦関係の捉え直し」を描こうとしている。

「TOCA」のマスター・浅岡忠行(北村一輝)に、美羽との離婚について話し合いが進んでいない現状を相談した宏樹。絡み合った糸に例えて、「切るしかないんでしょうね、自分の糸だけ」「俺が身を引くしかないと思ってます」などと言い、「俺の子じゃないんで」と、栞と血が繋がっていない事実にもあらためて言及する。浅岡は「それ、栞ちゃんに言えるのか?」と問う。

莉紗が、「以前、フリーマーケットに参加した方から率直な意見を聞きたい」と嘘をついて美羽と繋いでもらおうと宏樹に掛け合った後、宏樹は美羽とメッセージアプリを通してそのことを会話していた。もはや宏樹と美羽は、まともに顔を見合って話をすることもままならない。栞の父親が自分ではないと知り、美羽の人間性に疑問を覚えるようになった宏樹は、おそらく、自身も言っていたように「相手のことを守ろうとしてる妻に、腹が立ってる」のだろう。

しかし、それに対して浅岡が言った「相手の男のことが知りたいんじゃなくて、かみさんのことが知りたいんじゃねぇのかな」も、また真実を言い当てているように思える。

怒りの底には、悲しさや寂しさがあるものだ。宏樹は、自分ではない人物が彼女の笑顔を引き出している可能性と、自分と妻との心の距離が離れてしまった事実を突きつけられた衝撃から、美羽を自宅から追い出し、離婚の宣言に至ったのかもしれない。

美羽の「宝物」は娘の栞だけ?

美羽の本心はどこにあるのだろう。美羽にとっての宝物は、何なのだろう。

宏樹からのモラハラめいた言動に悩み、再会した冬月に癒やしを見付けた美羽にとって、海外で亡くなったと思われていた冬月が生きて帰ってきたことは吉報のはずだった。しかし、すでに栞の父は宏樹だ、と告げてしまった後のこと。娘が生まれたことで宏樹の物腰はどんどん柔らかくなっていき、かつて夫婦の間に漂っていた良好な空気が戻ってきたことで、美羽の本心も少しずつ軌道修正されたように見える。

美羽は、どんなきっかけであれ、宏樹との関係を修復したいと考えていたと思うし、冬月に対し心が揺れたのは、まさに浮気心めいた一瞬の“気の迷い”だったのかもしれない。

それでも、美羽の言動を見ていると、掴(つか)みきれなさを感じてしまう。

「冬月くんの思いは、ちゃんと受け取ったから」と言って、彼からの手紙を真琴に託し処分してもらう。「これからは、栞のためにできることを考えなきゃね」と言いながら、「私は、宏樹が出した答えを受け入れる」とも口にしている。これは、宏樹が栞を引き取ったうえで離婚をすると提示したら、甘んじてそれを受け入れるという意思表示だろう。

そして、美羽はついに自分から結婚指輪を外し、そっとテーブルのうえに置いた。宏樹と離婚し、かつ冬月とも決別するという覚悟のあらわれなのだろうか、それとも。

美羽に対面した莉紗が、「冬月稜は、私の大切な人です」「冬月は、あなたに会いたい一心で生きて帰ってきたんですよ」「あなたは冬月を傷つけた。私はあなたが許せません」と投げかけるシーンで、美羽の本音が覗(のぞ)くことを期待した。しかし、最後の最後まで確信が得られない。

彼女の「宝物」は娘である栞だけ、と見ることもできる。しかし、永遠に取り出さない記憶としての象徴である、刺繍の栞がカットインするたびに、やはり美羽が心の奥底で思っているのは冬月なのでは……と迷わされてしまうのだ。

■北村有のプロフィール
ライター。映画、ドラマのレビュー記事を中心に、役者や監督インタビューなども手がける。休日は映画館かお笑いライブ鑑賞に費やす。

■モコのプロフィール
イラストレーター。ドラマ、俳優さんのファンアートを中心に描いています。 ふだんは商業イラストレーターとして雑誌、web媒体等の仕事をしています。

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