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京都はなぜ、スペシャルティコーヒーの街にもなったのか

  • 2024.12.10
京都〈み空〉店内

ポストコロナの時代に突入して京都は今、日本中、いや世界中からの観光客で日々賑わっている。〈イノダコーヒ〉や〈六曜社珈琲店〉などの老舗喫茶店は変わらず混み合う一方で、新たに増え続けるスペシャルティコーヒーのショップも人気。朝の一杯を求めて、外国人がスタンドに並ぶ景色ももはや珍しくない。

京都でスペシャルティの火つけ役といえば、まず名前が挙がるのは〈ウィークエンダーズコーヒー〉金子将浩さん。2005年に元田中でカフェを開業し、11年からは自家焙煎をスタート、19年には焙煎所を街中へと移転。一貫して豆本来の味わいを引き出す浅めの焙煎を追求し続けてきた。

長岡京で06年に〈ウニール〉を立ち上げ、「種からカップまで」の理念のもと、産地のトレーサビリティが明らかな豆を提供し続けている山本尚さんもキーパーソンの一人。一杯に思いを込め、提案してきた彼らの店でスペシャルティの魅力に開眼した人は数知れず。やがて自らコーヒーショップを開くに至ったフォロワーも少なくない。

『エンジョイ コーヒータイム』というイベントが16年に始まったのも、エポックメイキングだった。立ち上げたのは現在、〈コーヒーベース〉でディレクターを務める牧野広志さん。

「金子さんや山本さんがもたらした影響はすごくて、京都でもスペシャルティへの関心が高まっているなあ、と強く感じるようになったのが15年頃。ちょうどコーヒーカルチャーを追ったドキュメンタリー映画『A Film About Coffee』の上映会があり、そこに集まった人たちの盛り上がりを見て、今やるべきは京都の人気ショップが一堂に会するイベントだと。そこで始めたのが旧立誠小学校を会場にした『エンジョイ コーヒータイム』だった」と牧野さんは振り返る。

〈ウニール〉〈クラス〉〈大山崎 コーヒーロースターズ〉ら、人気店を揃えて始まった『エンジョイ』は、会場も替えつつ不定期に開催を重ねて、24年夏までにもう21回を数える。その都度、参加店は新規勢に入れ替わり、横のつながりを広げると同時に、互いの切磋琢磨もあり、シーン全体のブラッシュアップに大きく貢献している。

さらに世代を超えて、カルチャーが脈々と育まれているのも京都。老舗ながら、2000年代半ば頃からスペシャルティにいち早く取り組んだのは〈小川珈琲〉。

そこで経験を積んだ岡田章宏さんが16年に〈オカフェ キョウト〉を、20年には門川雄輔さんがエルサルバドルで現地買い付けを行う〈コヨーテ〉を立ち上げる、といった具合に、卒業生たちも独立して店を構え、認知されていく。14年に東山、15年に嵐山にオープンした〈アラビカ〉は特にSNSで外国人に人気となり、インバウンド隆盛の先駆けともなった。

その後、世界をパンデミックが襲い、京都もひっそりと静まり返る。しかし、そこから息を吹き返した22年には〈小川珈琲〉が“ネオ喫茶店”を掲げて京都旗艦店を作り上げ、〈オカフェ キョウト〉は新たに焙煎所を開くなど、人気店の2号店、3号店のオープンも続いた。梨木(なしのき)神社の名水を使う〈コーヒーベース ナシノキ〉が境内にオープンしたのもこの年。

23年には〈クラス〉で焙煎を担ってきた良原皓介(こうすけ)さんが〈ヨシハラ〉で独立し、24年に入ってからは門川さんが焙煎所〈コヨーテ ロースタリー〉を開いている。

東京〈グリッチコーヒー〉出身の奥井大輝さんがオープンさせた〈ブレンド キョウト〉、南禅寺近くの京町家建築でコーヒーのコースを提案する〈ブルーボトルコーヒー 京都カフェ〉など、いわば“余所”から京都へと入ってくるショップも続々。

メルボルンでバリスタ経験を積んだ店主の〈資(たすく)珈琲〉や、台南で焙煎を学んだ台湾人店主が営む〈シテ〉など、海外の風を吹き込む店も多い。

どこも、東京によくある店とは明らかに違う。改装した町家で、古い通りの中に溶け込んだ店舗で、店主たちが選び抜いて焙煎し、淹(い)れる味を求めて、地元民から観光客まで世代を超えてコーヒー好きたちが足を運ぶ。コンパクトな範囲に店が集まる街のサイズ感も、飲み歩きにはぴったりに違いない。

かくして最新のコーヒーショップの数々が、昔ながらの喫茶店と共存する街となった京都。それは暮らす人々のものを見極める目もあってこそ。流行りも含めて、よいものはよい。伝統を大切にしながらも、新しいものを取り入れることには案外、寛容なこの街に、スペシャルティはするりと溶け込んだのだ。

京都〈み空〉店内
北白川の一角、長らく使われていなかったビルの半地下に2024年に登場した〈み空〉。内装は京都のギャラリー〈HS〉が手がけた。
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