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ゼロ年代カルチャー再考:白武ときおが案内する、テレビバラエティの歴史

  • 2024.12.10

真剣勝負のネタ見せ、業界の余裕が生んだ大スケールのVTR。緊張と狂騒が交錯した震災以前のバラエティ

ざっくりとテレビバラエティの歴史を辿ると、1970年代にはザ・ドリフターズによる作り込まれた台本コント、そのカウンターとして80年代に『オレたちひょうきん族』の即興コントが登場。90年代には芸人の作家性が楽しめるコントへと発展してきました。いわばテレビコント全盛期ですね。これに対して、ネタ番組がテレビを席捲したのがゼロ年代の大きな特徴。『爆笑オンエアバトル』(99年〜)が下地を作り、その後『エンタの神様』(2003年〜)や『爆笑レッドカーペット』(07年〜)が放送されました。誰もが知る一発屋芸人、リズムネタや流行語が続出しましたね。そんな時代を牽引し、現在でも最も影響力のあるお笑いコンテストが『M−1グランプリ』【A】。

【A】島田紳助と当時吉本興業に勤めていた谷良一が企画した漫才コンテスト。コンビ結成10年以内(のち15年以内に変更)の漫才師だけが出場できる。通算20回目となる今年、総エントリー数が初めて1万組を超えた。

ご存じの通り、出場者は事務所もプロアマも問わず、ネタをプロが審査する真剣勝負。優勝賞金1000万円という大金もそのガチさに拍車をかけました。追って『R−1グランプリ』(02年〜)、『キングオブコント』(08年〜)、『IPPONグランプリ』(09年〜)と、お笑いの競技化が進み、定着した時代とも言えるでしょう。

またゼロ年代のテレビバラエティの傾向として、大勢の芸人やタレントが集まるいわゆる「雛壇」の番組が増えたことも挙げられます。芸人だけが雛壇に座る『アメトーーク!』(03年〜)は象徴的な番組です。芸人やタレントのみならず、アイドルの冠バラエティもゴールデンタイムに数多く進出しましたね。この時代には、絶対的な司会者のもとで独特の緊張感がある番組も数多くありました。BIG3やダウンタウンさん、とんねるずさんらの番組には独自の笑いの世界観やルールがあって、時に殺伐とさえしていました。画面越しにも伝わってくるピリついた空気を、誰が笑いで爆発させるのか。時代とともにテレビの中の緊張感は減っていき、今では仲良く楽しんでやっているものが主流になっています。

テレビ局では、04〜10年に視聴率三冠王【B】に輝き続けたフジテレビが存在感を放っていました。

【B】全日(午前6時~翌日午前0時)、ゴールデン(午後7時~10時)、プライム(同7時~11時)の3つの時間帯すべてで最高視聴率を得ると三冠になる。

中でもゼロ年代を代表する番組が『トリビアの泉』【C】です。スキージャンプ台でタイヤを転がしたら何mジャンプする?等身大ペッタン人形は高層ビルを何m進む?といった今ネットで調べてもわからないようなことを検証。VTRもわざわざ調べなくていいことを大真面目に、さいたまスーパーアリーナを借りてスケール感を出して検証するなど、子供のような発想を大人の技術で実現する、テレビにしかできない面白さがありました。テロップや演出にも発明がいくつもあり、「へぇボタン」は一大ブームに。

【C】人生に全く必要のないムダな知識、でも、つい人に教えたくなってしまうような雑学・知識「トリビア」を紹介し、品評する番組。番組内のコーナー「トリビアの種」ではバカバカしい素朴な疑問を、実際に検証。トリビア品評会会長のタモリが独断と偏見で評価した。

『カノッサの屈辱』(90年〜)など、それまでにフジテレビが手がけてきた知識教養バラエティの系譜の頂点的な番組だったと言えるでしょう。90年代にスタートした『めちゃ×2イケてるッ!』(96年〜)も、コントをドキュメンタリー的手法で見せる新たなスタイルを持ち、ゼロ年代に高視聴率を連発。抜き打ちテスト企画では30%超えも記録しました。

深夜帯に目を向けると、お笑いファンに人気の番組はテレビ東京やテレビ朝日からも生まれています。

初期の『Qさま!』【D】(04年〜)や『内村プロデュース』(00年〜)、『神さまぁ〜ず』(07年〜)などで、さまぁ〜ずさんが深夜バラエティの帝王として駆け上がっていくのを見ていました。

【D】クイズをプレゼンするバラエティ番組としてスタート。クイズの正解よりも、問題自体の面白さやプレゼンVTRに重きが置かれていた。番組名は「クイズさまぁ〜ず」の略に由来。

こうした傾向は東日本大震災を境に変わったように思います。楽しいお祭りという空気が薄れ、視聴率が取れる高齢者向けの番組が増えた。例えば林修さんなどに代表されるタメになる学びのバラエティが勢いを増す。その頃から少しずつ若年層が離れていくことになるんですが、20年頃になると49歳以下のコア視聴率が重視されることに。

そんな激動の時代の中でも、びくともしない老舗番組たちが人気番組ランキングの半分を占める。テレビバラエティ史は本当に奥が深くて面白いです。

2000

内村プロデュース』(テレビ朝日系列)放送開始。レギュラー放送は05年に終了。
『松本紳助』(広島テレビ。03年から日本テレビ系列)放送開始。03年に『松紳』に改題。06年終了。

2001

『M−1グランプリ』(朝日放送テレビ・テレビ朝日系列)がスタート。10年に終了し、15年に復活。

2002

『R−1ぐらんぷり』(フジテレビ系列)がスタート。21年に『R−1グランプリ』に改題。
『トリビアの泉』(フジテレビ系列)放送開始。レギュラー放送は06年まで続いた。
『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系列)放送開始。21年に『行列のできる相談所』に改題。

2003

『エンタの神様』(日本テレビ系列)放送開始。レギュラー放送は10年に終了。
『アメトーーク!』(テレビ朝日系列)放送開始。

2004

『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系列)不定期で放送開始。
『リチャードホール』(フジテレビ系列)放送開始。05年終了。
『ワールド・ダウンタウン』(フジテレビ系列)放送開始。同年終了。
『Qさま!』(テレビ朝日系列)放送開始。

2005

『ゴッドタン』(テレビ東京系列)放送開始。
『やりすぎコージー』(テレビ東京系列)放送開始。レギュラー放送は11年に終了。
『リンカーン』(TBS系列)放送開始。レギュラー放送は13年に終了。
『怒りオヤジ』(テレビ東京系列)放送開始。同年『怒りオヤジ3』に改題・リニューアル。09年終了。

2006

『厭魅の如き憑くもの』(著/三津田信三)で「刀城言耶シリーズ」刊行開始。
お化け屋敷『台場怪奇学校』が、デックス東京ビーチにオープン。

2007

『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系列)が特別番組として放送。08年から10年までレギュラー放送された。
『世界の果てまでイッテQ!』(日本テレビ系列)放送開始。
『神さまぁ〜ず』(TBS系列)放送開始。レギュラー放送は08年に終了。

2008

『キングオブコント』(TBS系列)がスタート。

2009

『IPPONグランプリ』(フジテレビ系列)不定期で放送開始。

profile

案内人・白武ときお

しらたけ・ときお/1990年京都府生まれ。放送作家。『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』、霜降り明星のYouTube『しもふりチューブ』
などを担当する。ボードゲーム『サンレンタン』が発売中。

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