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「大人のための絵本」モデル・アンヌさんの名作選クリスマスの贈り物に、ときめく2冊~村上春樹訳『急行「北極号」』美しいジオラマ作品『360°BOOK雪降る森』~vol.27

  • 2024.12.26

「本」を包む 贈り物に悩んだら

こんにちは。アンヌです。
毎年12月に入ると贈り物のことが気になります。家族や友人、お世話になった方々が喜びそうなものをとネットやセレクトショップで探してみますが、これがなかなか選べない。だからといって、欲しいものを尋ねるのではサプライズの楽しみが台無しです。
そこで、フランスではどんなクリスマスプレゼントをするか、思い出してみました。
小物やチョコレート以外に、「本」という選択肢もポピュラーです。
私が暮らしていたパリ東部、下町の住宅街の一角に小さな本屋さんがありました。ウナギの寝床さながらの店内は、クリスマスシーズンになるとお客でぎゅうぎゅうに。あらゆる書籍が天井まで伸びるほど山積みにされて、危なっかしい。体をすぼめて吟味する姿や、ラッピング待ちで店外まで伸びる列が風物詩のようでした。そのくらいプレゼントに本を選ぶ習慣があるんです。
ある年末、高校生だった私は一冊の本を抱えて長い列に並びました。通っていたリセの先生にと選んだのは、大江健三郎の『個人的な体験』の仏訳版。大人たちが絶賛していたのを小耳に挟み、「こういう作品が好まれるらしい」と思ったからでした。内容も十分把握しないまま購入し、先生に。16 歳そこそこの未熟な私は、差し上げる時に「子どもの死を望む話です」と短絡的な説明をしてしまいました。先生は少し戸惑ったご様子だったのを覚えています。なぜそんな「恐ろしい話」をと驚かれたのでしょう。
フランスでは本を贈ると、たいてい感想が返ってくるものです。しかし先生からの感想はなく、代わりに谷崎潤一郎の仏訳版『細雪』が入った包みを渡されました。私は不思議に思いました。なぜわざわざフランス語で? そのうち日本語で読めばいいと思い、感想を述べることもなく、そのまま本棚へ。ただ、「君ならきっと好きだろう」という先生の一言はずっと心に残り続けました。
それから年月が経ったころ。ふとしたことから仏語版を読んでみると、そのわけが分かりました。美しい世界観に私の心はすっかり奪われてしまったのです。もしかしたら先生も、ずっと後になってあのときあの生徒はなぜ、という思いで『個人的な体験』のページをめくり、素晴らしい物語の扉を開いたのかもしれません。
そんな経験から、贈り物をするときは、なぜ選んだのかを伝えています。「思い」はずっと人の心に残り続けると信じて。
今回は、クリスマスの贈り物にふさわしい2冊。ときめくような世界に、いつまでも心躍らせてほしいという思いを込めて。
 
 

『急行「北極号」』

作/クリス・ヴァン・オールズバーグ
訳/村上春樹
(1650円 あすなろ書房)

クリスマスイブの夜。サンタクロースがやってくることを待ち侘びているひとりの少年。でも、家の前に現れたのは、不思議な汽車でした。思い切って乗り込むと、中は子どもたちで賑わっています。雪の森を抜け、高い山を越え、北へ北へと進む『北極号』。終点で待っていたのは? 念願のプレゼントは? 幻想的な展開に、もう一度夢を膨らませたくなるに違いありません。

『360°BOOK 雪降る森』

作/大野友資
(3,300円 青幻舎)

建築技術からヒントを得て作られた立体作品。ぐるりと360 度に広がり、オブジェのようになる仕掛けが施されています。中を覗き込むと、繊細な技術で表現された冬の森が。もみの木や雪の結晶が織り成す小さな白銀の世界に、年齢問わず引き込まれるはず。9×9㎝のコンパクトサイズで、かさばらず、さりげない贈り物に最適です。同じシリーズに『富士山』もあり、海外の方にも喜ばれそう。

Photo:Gottingham

*画像・文章の転載はご遠慮ください

この記事を書いた人

モデル、絵本ソムリエ アンヌ

アンヌ

14歳で渡仏、パリ第8大学映画科卒業。 モデルのほかエッセイやコラムの執筆などで活躍。 最近は地域で絵本の読み聞かせ活動も行っている。

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