1. トップ
  2. 恋愛
  3. シャネルがフィルムメーカーの育成を長期的にサポート。そのプログラムの全貌とは

シャネルがフィルムメーカーの育成を長期的にサポート。そのプログラムの全貌とは

  • 2024.12.8

稀代のフィルムメーカーたちが若手育成をサポート

「CHANEL AND CINEMA―TOKYO LIGHTS」の主要サポーターとなった是枝裕和監督とティルダ・スウィントン。
「CHANEL AND CINEMA―TOKYO LIGHTS」の主要サポーターとなった是枝裕和監督とティルダ・スウィントン。

CHANEL AND CINEMA―TOKYO LIGHTS」は、シャネルが3名のフィルムメーカー(あるいはフィルムメーカーの卵)を選出し、ショートフィルムの制作・発表をサポートすることで、新しいフィルムメーカーを発掘するというサステナブルな取り組みだ。今回の2日間にわたるマスタークラスとワークショップへの参加は、その選考にあたっての応募資格の条件になっているという。

是枝監督を中心に西川美和監督、俳優の役所広司、安藤サクラ、そしてシャネルのアンバサダーでもある俳優のティルダ・スウィントンを講師に迎えたマスタークラスとワークショップは、若手フィルムメーカーたちにとって、時代の最先端で活躍する映画人たちと直に触れ合う特別な時間であり、大きな学びとなったはずだ。

オープニングの〈イントロダクション〉に登場した是枝監督は、日本映画業界が人材育成に対してどう取り組んでいくのかを考えているときにシャネルと出合い、コラボレーションに発展したという。「本来は映画業界がやるべき取り組み。(このシャネルの活動を機に)業界全体にも、若手を育てることに取り組もんでいこうという姿勢が広まっていくといい」と語った。

ティルダを変えたデレク・ジャーマンとの出会い

早稲田大学の大隈講堂で開催されたマスタークラスの観客席には、俳優の小松奈々、宮沢氷魚、橋本愛などの姿も。
早稲田大学の大隈講堂で開催されたマスタークラスの観客席には、俳優の小松奈々、宮沢氷魚、橋本愛などの姿も。

また、ティルダ・スウィントンは「10年以上、シャネルと一緒に活動するという素晴らしい幸運に恵まれている」とシャネルのアンバサダーとして世界中を旅し、さまざまな人と出会い、稀有な文化的な経験を享受してることへの感謝を語り、また是枝監督を始め、会場にいる参加者たちと特別な機会を共有することへの期待を口にした。

その後に開催されたマスタークラスでは、ティルダはその興味深い映画との関わりを明かした。スコットランド出身のティルダは、ウェス・アンダーソン監督の常連であり、ジョージ・クルーニー主演の『フィクサー』(2007年)でアカデミー助演女優賞を受賞。ハリウッドでも活躍する華麗なキャリアの持ち主だが、インディーズ魂あふれる実験的な作品への貢献でも知られている。

「非常に独特な感性を持ってフィルムメーカーとしてのキャリアをスタートした」と語るティルダだが、ケンブリッジ大学(専攻は政治学と社会学)を学んでいた頃は、詩作に熱中しており演技にはまったく興味を持っていなかったのだという。その彼女を変えたのは鬼才デレク・ジャーマンとの出会いだった。「予算もなく、ギャラもゼロで、でも、完全な自由がありました。これが私が知っていた世界です。これが私の育った環境です。これはアーティストとしての私の糧でした」

ティルダにとって俳優としてのデビュー作となった『カラヴァッジオ』(1986年)や、ティルダがヴェネチア国際映画祭で女優賞を受賞した『エドワードⅡ』(1991年)といった鮮烈な作品を遺して、ジャーマン監督が1994年にHIVでこの世を去ったときには、「途方に暮れた」と当時の心情を吐露した。

自身を「俳優」ではなく、「フィルムメーカー」だと称するティルダは実際、脚本を受け取って演じるという関わり方ではなく、プロジェクトの初期段階から監督と共同作業をしながら映画を作り上げていく関わり方を好む。ジャーマン以降も、イタリアの名匠ルカ・グァダニーノ韓国ポン・ジュノ、タイの異才お世話になります。アピチャッポン・ウィーラセータクンといった監督たちとも、人間的な信頼関係を基本に映画を制作してきたという。

終始熱量の高いクラスに、観客席からも大きな拍手が

2日目午後のセッションに参加した若手監督や俳優たち。ティルダや是枝監督から温かいアドバイスの数々も。
2日目午後のセッションに参加した若手監督や俳優たち。ティルダや是枝監督から温かいアドバイスの数々も。

実際に、是枝監督とともに開催したワークショップは、そうしたティルダのフィルムメーカーとしての気概と人間性が垣間見られる素晴らしいセッションとなった。ワークショップは、ステージ上で、監督、俳優、カメラマンたちが、あらかじめ用意された脚本をもとに、全セリフ英語で撮影実演を行い、その過程を是枝監督とティルダが批評、指導するというもの。緊張しセリフが出てこなくなった俳優にティルダが駆け寄り、ハグし、「脚本通りでなくても、日本語でもいいから、自由にリラックスして演じてみて」と激励する姿も印象的だった。

役所広司とのマスタークラスとワークショップには、『素晴らしき世界』(2020年)で役所を主演に起用した西川美和監督も参加した。出演作のプロモーション以外で、公の場に登場して語る機会がほぼない役所だけに、Q&Aタイムには会場の参加者からも熱い質問が投げかけられた。

〈左から〉マスタークラスに登壇した是枝裕和監督、西川美和監督、ティルダ・スウィントン。
〈左から〉マスタークラスに登壇した是枝裕和監督、西川美和監督、ティルダ・スウィントン。

安藤サクラのワークショップも、俳優視点からのアプローチが際立つ興味深いものになった。俳優には、いわゆる役作りの段階の「ワーク」と実際にカメラの前に立ったときの「プレイ」の2工程があるが、安藤は俳優としてカメラの前の立つまでの独自の方法論を展開して見せた。実践体な方法論として参加者へ学びをもたらしただけでなく、安藤の俳優としての底力に触れる貴重な機会となった。

演劇論などを公の場で語る機会の少ない役所広司も参加。
演劇論などを公の場で語る機会の少ない役所広司も参加。
安藤サクラも自身の経験に基づく実践的なワークショップを展開した。
安藤サクラも自身の経験に基づく実践的なワークショップを展開した。

2日間におよぶセッションは、ワークショップとしては決して長いものではないが、まったく異なる個性をもつアーティストたちのケミストリーが呼応し合う、豊かな時間となったことは間違いない。このワークショップの受講者の中から選ばれたフィルムメーカーによる短編映画は2025年、日本とフランスでお披露目される予定だ。

Text: Atsuko Tatsuta Editor: Yaka Matsumoto

Read More

元記事で読む
の記事をもっとみる