1. トップ
  2. レシピ
  3. 【暗闇で光る魔法の木材】菌類の生物発光を付与することに成功

【暗闇で光る魔法の木材】菌類の生物発光を付与することに成功

  • 2024.12.7

自然界にはキノコやイカ、ホタルなど光を発する生物が存在します。

もし、加工が可能な「木」や「木材」に生物発光を付与できるなら、私たちの生活空間はより魅力的なものとなるかもしれません。

例えば、「暗闇で光る机や椅子」「真っ暗な公園の中で輝く木の掲示板」「道筋を照らす木造フェンス」「夜に輝く木製アクセサリー」などを作ることができるでしょう。

スイス連邦材料試験研究所(EMPA)に所属するフランシス・シュワルツ氏ら研究チームは、木材と生きた菌類を組み合わせることにより、「暗闇で光る木材」を開発することに成功しました。

研究の詳細は2024年9月12日付の学術誌『Advanced Science』に掲載されました。

目次

  • 昔から知られていた自然界の「光る木材」
  • 緑色に光る「木材と菌類のハイブリッド」の開発に成功

昔から知られていた自然界の「光る木材」

生物発光を示すキノコ / Credit:Wikipedia Commons

光るキノコやイカが存在することはよく知られています。

では、光る「木」は自然界に存在するのでしょうか。

今のところ、木そのものが生物発光を示す例は見つかっていません。

ただし、生物発光を示す菌が腐朽した木に取り付き、まるで木が光っているかのように見せる事例はあります。

こうした例は18世紀の鉱山労働者によって確認されており、彼らは光る木の棒を松明の代わりとして扱っていました。

そして1900年代には、この光が枯木や生木に発生するナラタケ属(学名:Armillaria)によって生じていることが確認されたのです。

このような、木材に生息する特定の菌類が放つ微弱な光は、以前から「フォックスファイア(Foxfire)」と呼ばれており、その名は「偽」を意味する古いフランス語の「Faux」に由来していると考えられています。

ちなみにもっと過去には、ギリシャの哲学者「アリストテレス(紀元前384年-322年)」と古代ローマの博物学者「大プリニウス(紀元23年-79年)」も、フォックスファイアについて言及しており、これが2000年以上も前から知られていた現象だと分かります。

顕微鏡で観察した菌糸。木材のリグニンを分解することで、ナラタケ属の菌糸束は緑色に光る / Credit:Francis W. M. R. Schwarze(EMPA)_How to make wood glow(2024)

では、ナラタケ属はどのようにして枯木や木材を発光させるのでしょうか。

ナラタケ属は木材を白く変色させる白色腐朽菌であり、木材中のリグニン(植物の細胞壁を構成する主要成分)を分解する能力があります。

そして一部の種では、リグニンの分解によって生成される特定の成分が、発光物質「ルシフェリン」に変換されるため、その種の菌糸束が緑色に光ります。

つまり、ナラタケ属の菌は木材のリグニンをエサに緑の光を発するわけです。

ナラタケ属に侵食された木は暗闇の中で緑色に光るため、夜の森で最初にこれを見つけた人は、さぞ驚いたに違いありません。

今回、シュワルツ氏ら研究チームは、この現象を応用し、研究室の中で光る木材を開発することに成功しました。

緑色に光る「木材と菌類のハイブリッド」の開発に成功

研究チームは、人工的に「光る木材」を生み出すために、自然界で光るいくつかのキノコを分析し、その遺伝子を解読しました。

また光る木材に向いている木材の種類も調べました。

その結果、最も効果的な組み合わせは、ナラタケ属の一種「ナラタケモドキ(学名:Armillaria tabescens)」と「バルサ材(学名:Ochroma pyramidale)」だと分かりました。

またバルサ材の中で、ナラタケモドキを十分に成長させるには、湿った環境が必要であることも分かりました。

光る木材の作成手順。湿った環境でバルサ材にナラタケモドキを定着させる / Credit:Francis W. M. R. Schwarze(EMPA)et al., Advanced Science(2024)

研究チームは図のように、バルサ材のブロックに大量の水を吸収させた後、水性の培地に移して、そこで生きたナラタケモドキがバルサ材に定着するよう促しました。

そしてこの環境で3カ月間培養することで、最大の光度が得られると分かりました。

この間、バルサ材は重量の8倍もの水分を吸収し、培養後は空気(酸素)にさらされることで発光が始まります。

実験では、この光る木材は560nmの波長の光を放っており、最大10日間光り続けました。

暗闇で光を発する「光る木材」 / Credit:Francis W. M. R. Schwarze(EMPA)et al., Advanced Science(2024)

そして気になるのは、「菌が木材のリグニンを分解する」という点です。

研究チームがこの点も観察と分析を行ったところ、確かにバルサ材内部のリグニンは分解されていきました。

リグニンは植物の剛性と安定性を担っているため、光る木材の強度の劣化が気になるところです。

しかし研究チームは、セルロース(植物繊維の主成分)は分解されずに残るため、「木材全体の安定性は低下しない」と主張しています。

リグニンが分解されたとしても、他の成分により、木材としての強度をある程度保つことができるのでしょう。

今回の研究では、木材と菌類の組み合わせにより、人工的に光る木材を作り出すことに成功しています。

ただこれは実験段階の話であり実用にはまだ遠く、研究チームは今後、光る木材の強度と寿命を高めていきたいと考えています。

こうした研究が上手くいくなら、将来、「暗闇で光る机や椅子」「道筋を照らす木造フェンス」などオシャレで不思議なアイテムを作ることができるかもしれません。

https://amzn.to/3ZlVYWA

参考文献

How to make wood glow
https://www.empa.ch/web/s604/eq86-leuchtholz

Glow-in-the-dark wood passively lights homes or parks
https://newatlas.com/materials/glow-in-the-dark-wood/

元論文

Taming the Production of Bioluminescent Wood Using the White Rot Fungus Desarmillaria Tabescens
https://doi.org/10.1002/advs.202403215

ライター

大倉康弘: 得意なジャンルはテクノロジー系。機械構造・生物構造・社会構造など構造を把握するのが好き。科学的で不思議なおもちゃにも目がない。趣味は読書で、読み始めたら朝になってるタイプ。

編集者

ナゾロジー 編集部

元記事で読む
の記事をもっとみる