国の文化的支援が十分ではない中、伝統工芸の世界でも女性たちが活躍するようになってきた日本。職人として働くことを選んだ人、現代に合わせたデザイン提案や技術を伝える人、場所を紹介。
江戸切子職人三澤世奈
1989年、群馬県生まれ。明治大学商学部卒業。2014年、堀口切子入社。19年より同社のブランド、Nを立ち上げ、企画、制作を担当。 https://www.kiriko.shop/
赤や青の鮮やかなガラスに繊細な彫りでさまざまな模様を描く江戸切子。200年近い歴史を持つ伝統工芸に三澤世奈が魅せられたのは大学時代、美容クリームの容器に江戸切子が使われていたのを見た瞬間だった。
「青いガラスにキラキラとした細かい模様が美しくて。伝統工芸を新しい用途に使っている点にも将来性を感じました」
製作したのは、100年以上続く切子家系の三代秀石、堀口徹。大学在学中に弟子入りを乞うもタイミングが合わず一度は断念。卒業後はネイリストの仕事に就いたが、採用募集を知ると再びチャレンジし、職人の世界へ足を踏み入れた。
「親方の後ろでじっと見て覚える時代ではありません。即戦力としてどんどん作業を任されます」
もともと手仕事が好きだった三澤は、ほどなく才能を現し、年に一度開催される江戸切子新作展に出展。これまでにない柔らかい色合い時代とともに変化すること、次世代に伝えていくこと。と、すりガラスのようなマットな質感の作品を見た親方は、三澤に新しいブランドを一任した。
「私が作りたかったミニマルなデザインのWAPPAは、装飾的な切子に対して、江戸切子の文脈がわかりづらいと思い、代表的な籠目文や菊花文をモチーフとしたデザインをともに発表しました」
時代に合わせて変化することで伝統を未来へ繋ぐ、という親方の考えに強く共感する三澤。自分が心地いいと思うものを発信したことで、手ごたえを感じ始めている。
「若い世代の方や、カジュアルなお店からの注文も増えました」
現在、堀口切子では若い職人も増え、プログラミングやSNSの発信など得意分野を生かした多様な働き方を実践している。機械ではできない細やかな技を要する切子だが、「作っていると自分自身が癒やされる。自分が教わったことを次世代に伝えることで恩返ししたいです」
*「フィガロジャポン」2025年1月号より抜粋