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佐津川愛美「俳優がウチワで扇いでもらえるのは偉いからじゃない」。照明、小道具、演出ーープロ達へのインタビューで知る”映画という共同作業の魅力”【インタビュー】

  • 2024.12.6

14歳で映画の世界に飛び込んだ俳優・佐津川愛美さんは今年、デビュー20周年。そんな記念すべき年、静岡や東京など4都市で「佐津川愛美映画祭」が行われた。9月にはその一環として、佐津川さんの地元・静岡の子どもたちと短編映画を作るワークショップを開催。さらに、次世代に映画の魅力を伝える取り組みとして、佐津川さんが映画作りのプロ20人に話を聞いた書籍『みんなで映画をつくってます』も発売した。

演出、照明、撮影、美術・小道具など、あらゆる映画の仕事に携わる人々に、仕事内容や大切にしていることを聞いた本書。書籍やワークショップを通じて、愛する映画の魅力を伝え、分かち合う時間は佐津川さんにとってどのような経験だったのだろうか。書籍作りの出発点から話を聞いた。

実は知られていない映画作りの仕事を伝えたかった

――書籍『みんなで映画をつくってます』を作ろうと思った理由は?

佐津川愛美(以下、佐津川):映画の世界って、知られていないことがすごく多いので、映画業界に興味のある若い方も含めて、映画の各部署のお仕事を伝えたかったんです。たとえば、映画は好きだけど、人とコミュニケーションをとるのが苦手だから現場で撮影をするのは難しいと思う方もいるかもしれないけど、実際は個人でできる仕事や、いろんなジャンルの仕事があるので、それも知ってもらえる本にしたいと思いました。

――皆さんがその仕事に就くまでのステップもさまざまで、面白かったです。

佐津川:専門学校で技術を学んだ方や、たまたまこの世界に辿り着いたら仕事が楽しくてずっとやっている方とか、いろんな背景を持った方がいる不思議な世界です。私、映画業界って、言ってしまえば誰でも入れる世界だと思っているんです。一方で、映画の世界ってちょっと難しいイメージがあるのかなっていうのも、20年やってきて感じることもあります。

でも、映画にそこまで詳しくなくても、現場が好きだから仕事をしている方も多くて。私自身、ラッキーなことに初めての撮影が映画の現場で、それがすごく楽しくて映画に携わっていきたいと思った人間なので、専門的な勉強はしていないんですが、だからといって入ってはいけない世界ではない、入ってからも学べる世界だと思っています。

――完成した今、改めて、どういう本になったなと思いますか?

佐津川:この本には、映画業界がより思いやりを大切にする世界になってほしいという希望も込めたんです。映画を作っていると意見が食い違うこともあるけど、なぜこの人はそう言っているのか、その背景が理解できたら納得できることもあると思うんです。相手の仕事内容や、作品のためにやっているということを知れば、歩み寄れる部分も生まれる。だからこそ、映画作りの各部署の仕事を、私も知りたいし、映画の世界にいるみんなにも知ってもらいたくて。この業界で働いている方たちにも、相手を知る手がかりとして読んでいただける本になったと思うので、それはすごく嬉しいです。

子どもたちが目をキラキラさせて映画を作る姿に感動

――20年前、佐津川さんが映画の現場を「楽しい」と思えた一番の理由は何だったんでしょうか。

佐津川:皆さんがすごく真剣な目で作品を作り上げている姿に感動したんです。そういう一生懸命な大人の姿を初めて見たんです。この間、地元の静岡で子どもたちと一緒に短編映画を作ったんですが、その時、「監督や先生たちが一生懸命な姿を見られて感動しました」という感想をいただいたんです。まさに私が14歳の時に思ったことだったから、すごく嬉しかったです。

――お子さんたちと短編映画を作るワークショップを振り返っていかがでしたか?

佐津川:もう、私の人生で一番楽しかった瞬間だなっていうぐらいの経験でした。子どもたちが目をキラキラさせながら、一生懸命、機材の使い方を教わって自分でやってみたり、意見を出して演出してくれたり、カメラワークも自分で考えてやってくれたりする姿に感動して、私が現場を好きな理由がここに詰まっているなって思いました。映画の現場って、それぞれの仕事をする方が作品に対してどう思っているかっていう意見がすごく大事なんです。意見を出し合って答えを探っていくことを子どもたちが自然とやってくれている姿を見て、胸がいっぱいになりました。

――子どもにとって、自分の意見を持ってみんなで何かを作り上げる体験は貴重ですよね。

佐津川:共同作業だし、自分と相手の意見を大事にすることを学べるので、教育に取り入れてもらいたいなと思いました。親御さんからの感想で印象的だったのが「監督が一番偉いと思っていたけど、そうではなくて映画作りのいろいろなお仕事のひとつなんですね」という言葉で。監督や俳優が偉いと思われがちですが、子どもたちには、そうじゃないということも伝えました。たとえば、ワークショップ中は暑かったので、メイク部の方が、俳優部の子をうちわで扇いでくれていたんです。俳優部の子に、「これは、あなたが偉いからじゃないよ。汗かいてメイクが崩れちゃいけないし、俳優部は代えがきかないから体調を崩したら大変だから扇いでくれてるんだよ」と言ったら、その子は「なるほど」って言って、扇いでもらうたびに「ありがとうございます」って言っていました(笑)。それが伝わったようで嬉しかったです。

映画では監督や俳優が目立ちますが、後ろにはその何倍ものスタッフさんが関わっていることを、皆さんなんとなくはわかってはいても、理解まではしていないと思うんです。監督や俳優の力だけで作っているわけではないということも、ワークショップやこの本で伝わってほしいです。

好きなものを心から好きだと発信できた喜び

――佐津川さんが「俳優部の仕事って何ですか?」と聞かれたら、どう答えますか?

佐津川:私が考える俳優の役割は、台本に書かれている世界観を、自分の体や声を使って体現することです。どういう気持ちになってこの台詞を言うのかとか、こう言っているけど本当は違う気持ちを感じているとか、共演者の方と考えて表現していくことだと思います。いろんな部署の方が舞台を作ってくださったり、衣装やメイクでキャラクターを作ってくださったりした上で、最終的に自分の体を使って表現する人。俳優部って唯一、何も機材がなくて、自分の体が大事な仕事道具だから、とにかく体調管理が大事。そしてコミュニケーションが重要な仕事です。

――では、俳優になるために身に付けたほうがいい力は?

佐津川:台本を読む力はあったほうがいいと思います。私、子どもの頃から、登場人物の気持ちを考えましょうっていう現代文の授業が好きだったんです。そういう国語力と想像力は大事だと思います。あとは、とにかくいろんな経験をすること。この仕事のいいところは、つらい経験も悲しい思い出も、すべて糧になって、いつか使えるんです(笑)。学校生活や日常をちゃんと生きることも、演じる力につながると思います。

――佐津川愛美映画祭というご自身の名前を冠した映画祭を終えて今、どういう思いですか?

佐津川:私は表に立つのが苦手なので、本当は自分の名前がついた映画祭は恥ずかしくて(笑)。でも、開催したいって言ってくれた方とのご縁に応えたいっていう気持ちでここまで来ました。企画してくれたのが地元の後輩の女の子なんですが、私の映画祭をやりたいってずっと言ってくれていたんです。去年、私がたまたま、仕事と距離を置きたくなって休んでいたタイミングで会った時、「20周年の今、やるべきですよ! やりましょう!」って熱い思いを語ってくれて。それに対する感謝の気持ちで動き出しました。だから、改めて映画に向き合うきっかけをもらえたと思っています。気持ち的には休んでいたのを、「休んでちゃいけないな」って気持ちにさせてもらえたんです。

この映画祭をきっかけにできた本作りやワークショップもすごく楽しくて、「これが私のやりたいことだ」って思えました。映画の現場って楽しいですよって伝えられたことが、すごく嬉しかった。自分が好きなものを好きだって心から発信できたのは、20年で初めてだと思います。最初は映画祭だけのお話だったのが、子どもたちと映画を作れることになるなんて1年前は考えてもいなかったので、行動を起こすと広がっていくんだなって実感しました。

――この経験は、佐津川さんのこの先の活動にも影響を与えそうでしょうか?

佐津川:資金を集めたりメールのやりとりをしたり、社会人としてのいろいろな経験ができました(笑)。その新しい世界を知れたのも楽しかったし、子どもに関わることがやりたいという気持ちを形にできたので、この先につなげていきたいです。映画業界を良くしたいという気持ちがあるので、これからも「こういう楽しい世界があるんだよ」と伝えて、映画を身近に感じてもらえるような発信をしていきたいです。

取材・文=川辺美希 撮影=水津惣一郎

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