極度の緊張で始まったハワイ旅行が、私の小さな箱庭を壊してくれた

私が小学校4年生の時。
初めて、ハワイ旅行へ行った。
普通の子供なら飛んで喜ぶ所だが、私は心配と不安でナーバスになっていた。

◎ ◎

初めてのハワイへ降り立った瞬間から強烈な甘い匂いに押され、驚いた。

「何コレ？！何の匂い？」

日本で過ごしてきて、味わった事の無い異国の匂い。
ハワイの花の匂いが私達を歓迎しているらしいのだろうけど、子供ながらに「この中で生活するの？」とかなり不安になった。

楽しい旅行なのにどうして不安になっていたかというと、この時期ある悩みがあった。
それが「外食」。
外食すると急に喉の改札口が「ピンポーン」と音を鳴らして食べ物を通してくれない謎の現象に悩まされていた。
そんなある時、急に両親が「ハワイに行くよ！」と言った。
ハワイってあのココナッツを胸にあてて、ひらひらのヤツで踊るあの常夏のハワイ？
嫌である。

◎ ◎

行くまでの脳内会議はパニック一色だった。

私A：「ハワイ」って事は「海外」って事！！
私B:「海外」って事は外食しか出来ないじゃない！！
私C:それだけじゃない。「空港」いや、それまでの道中からもう戦いは始まってしまう。
私D:どうするの？こんなの耐えられない…….。
私A:耐えられない所じゃない！雰囲気が悪くなって、旅行先で怒られでもしたらどーする。最悪の思い出になるぞ！！そうなると私の家族間での評価がだだ下がりだぞ！！！
私B:今までコツコツ積み上げてきた、「凄いぞ！もんちゃん！」イメージが「最悪。もんちゃん」にランクダウンするって事？！
私D:イヤーーー！！絶対イヤ！
私C:何のためにこんなリスクを負うんだ。日本でいいだろ！日本で！
私E:てか、「海外」って事は「外国人」しかいないんじゃね？
私ABCD:………。
私ABCDあああああああああああああああああああああああああああ

◎ ◎

行くまでに「冗談でしたぁ！！」とか何かしらの事で旅行が中止にならないかと、絶対にほぼ確実にない確率に私はフルベットしてルーレットが回るボールの行く先を待った。

そして、ハワイへ。

飛行機に乗る事も初めてで緊張し、降り立ったハワイは謎の甘い匂いに襲われ、旅行中に行くレストランと外国人だらけの世界に怯えた。

ホテルへ向かうバスの中から外を見ると見た事の無い景色が広がっていて、とにかくビックリした。
海外ドラマでしか見た事が無い様な町並みに人、ファッション。
ほぼ裸なのではないのかと思う様な姿で道を歩く人。
許されるのかと思う程に自分の常識ととにかく違う常識で生きている人達を目の当たりにして驚いた。

「現実？」

私の知らない世界で当たり前にその国の常識で生活している人達がいる。
日本しか知らない私の当たり前の常識は皆の常識では無いのだと。
だから、この匂いもハワイの人達は無臭に感じるのだろう。
でもハワイの人達が日本に来た時、自分達と違う異国の匂いに驚くに違いない。
私が感じた様に同じ様に感じる人は世界のどこかにいるだろうと思った。

◎ ◎

緊張状態で始まったハワイ旅は、徐々に慣れて行った。
甘い匂いは何日間か滞在して慣れ、外国人にも大体慣れ、海で泳ぎ、空を見れば虹が出て、気持ちの良い風を感じて楽しく過ごしたが夜のストリートパフォーマーとレストランだけは怖かった。
何年も経ち、徐々に気にせずハワイを楽しめる様になってきた頃、コロナウィルス感染拡大や円安ドル高でハワイに行けなくなった。

家の近くにチョコレートの「リンドール」が出来た。
チョコ好きには堪らないテーマパークで購入したココナッツフレーバーのチョコ。
口の中に入れて目を閉じ、歯でチョコを割る、ココナッツの香りが鼻に抜けて初めてハワイに降り立った時の匂い、風景、心境を思い出す。
「匂いは強く記憶に結びついている」と言うけど本当だ。

あの日、不安や緊張が勝ってなんでも怖がっていたあの日。
思い切って外の世界に飛び出した事で全く別の世界を見て、感じられた。
初めの第一歩を震えながら踏ませてくれた両親には感謝しかない。
おかげで、英語は喋れないけど外国人が怖くなくなった。

◎ ◎

今でも私の中の小さな箱庭を壊したあの日を思い出す。
リンドールのココナッツフレーバーと共に。

■もんずのプロフィール
両方フォアハンドテニスプレイヤー
テニスコーチの免許あり
家業を手伝いながら、レッスンしながら、
ギリ現役プレイヤー。
本読んだり絵を描いたり映画観たり音楽聴くのが好き
（アメブロ：https://ameblo.jp/mon2id)
（インスタ：https://www.instagram.com/mon2_art/）