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なんで今さら「言語化」が大賞に…?辞書のプロが選んだ理由に納得 「今年の新語2024」選考発表会レポート

  • 2024.12.24

2024年12月3日、都内で「今年の新語2024」の先行発表会が行われた。

「今年の新語」は今年でついに10年目。大きな節目となる2024年に選ばれたのは、以下の言葉たちだ。

大賞 言語化
2位 横転
3位 インプレ
4位 しごでき
5位 スキマバイト
6位 メロい
7位 公益通報
8位 PFAS
9位 インティマシーコーディネーター
10位 顔ない
出典:Togetterオリジナル

選考発表会には『三省堂現代新国語辞典』編集主幹の小野正弘さん、『三省堂国語辞典』編集委員の飯間浩明さん、『大辞林』編集部編集長であり、『新明解国語辞典』の出版部長でもある山本康一さん、そしてゲストとして校正者の牟田都子(むたさとこ)さんが登壇した。進行役はエッセイストの古賀及子さん。

先行発表会では、今年も辞書のプロたちによる白熱した選評が飛び交った。その様子をレポートする。

10回?10周年?

「今年の新語」は、一般人から「その年によく聞いた、よく見た言葉」を募り、集まった候補の中から辞書を編む専門家が選んだ新語トップ10を発表する企画。

一時的に爆発的に流行して、その後すぐ忘れ去られる流行語ではなく「将来辞書に収録される可能性がある日本語」を選び、日本語の変化をいち早く捉えること
出典:Togetterオリジナル

という主旨で行われている。

会場が期待に包まれる中始まった選考発表会、オープニングトークがさっそくグッと来たのでご紹介しよう。

左から古賀及子さん、山本康一さん、牟田都子さん、小野正弘さん、飯間浩明さん 出典:Togetterオリジナル
飯間:「今年の新語」は今年で10年目という節目です。しかし、10「周年」という言葉を使うと、年齢と一緒でその1日前までは「9周年」という扱いになります。なので、言葉の意味として幅を持たせたい場合は10「回」と表現したほうが良いかもしれませんね。
山本:しかし「今年の新語」としては実は11回なんですよね。
飯間:あ、そうですね。「今年の新語」は2015年からスタートしましたが、その前年の2014年に、私が個人のブログで「今年からの新語」という記事を書いたことがきっかけで生まれたイベントです。それも含めると、今回が11回になります。
山本:なので、2014年に始められた飯間先生に敬意を表して「10周年」と言っても良いのでは。
飯間:ありがとうございます。つまり今年の新語2024は「10回」でもあり「10周年」でもあると。
古賀:皆さんも、この曖昧さを飲み込んでいただけたらなと思います!笑
出典:Togetterオリジナル

「10年の節目」と聞くと、すぐ「10周年」と言ってしまいたくなるところだが、「10周年」と「10回」では微妙なニュアンスの違いがある。言葉についてのこんな細かなやりとりが行われるのもまた、辞書のプロたちが集う「今年の新語選考発表会」ならでは。

「メロい」が形容詞としてレアな理由は

ここからは、2024年に選ばれた新語の中でも、特に選考委員の皆さんが注目した言葉についての選評をご紹介する。

6位「メロい」
今年はメロい推しが多かった 出典:Togetterオリジナル
小野:メロいは、元々の「メロメロ」の「メロ」だけとって「い」をつけて形容詞にしちゃった言葉です。
古賀:語釈には「見ているほうがだらしなくなるほど」と書いていますが、この「だらしなくなる」にあまりネガティブなニュアンスがないですよね。
小野:そうですね、「それほど(対象に)魅力があるんだから、しょうがないじゃん!」というニュアンスです。
古賀:推し文化からくる「肯定」の意味が込められた言葉ですよね。
出典:Togetterオリジナル
だらしなくても、いいじゃない! 出典:Togetterオリジナル
飯間:ところで、「メロメロ」などのオノマトペに「い」がつく活用の言葉が少ないのはなぜでしょうか。
小野:「○○い」の活用は言葉として短すぎるため、「別の言葉とぶつかりやすい」というのがあるかもしれません。これを言語学では「同音衝突」と言います。
例えば「キラキラ」の「キラ」を取って「い」をつけて「キラい」とすると、「嫌い」と音が被ります。「フラフラ」を「フラい」としても「フライ(揚げ物)」になっちゃいますよね。これに対して、既に定着している「チョロい」や「ペラい」は別の言葉とぶつかりませんし、「メロい」も同じです。
新語として定着する上で、「同音衝突しない」という視点はとても重要だと思います。
出典:Togetterオリジナル
4位「しごでき」
「しご○○」、確かに増えたかも 出典:Togetterオリジナル
飯間:「しごでき」も特に今年になって用例数が増えています。「しごおわ」「しごおつ」「しごはや」など「しご○○」の形の言葉が増えたなと思い、その一つに「しごおわ」を選びました。
小野:本来「仕」と「事」で切る言葉を、敢えて「しご」で区切っているところが特徴的ですよね。
今回選ばれた「顔ない」もそうですが、「顔」と「ない」、「仕事」と「できる」といった、とても基本的な言葉の組み合わせでできた新語がよく使われていました。誰でも使う言葉なのに、それをくっつけて使おうとした人がこれまで(新語として定着する前まで)は誰もいなかったのが面白いです。
出典:Togetterオリジナル
2位「横転」
かつては「車の横転事故」くらいでしか見なかった…? 出典:Togetterオリジナル
飯間:「横転」は、特に今年になってSNSで急に多く使われるようになった言葉です。
X(Twitter)で午前0時から9時頃までの投稿頻度を調べたところ、ちょっと前までは使用件数が10件くらいと、すごく少なかったんです。ところが、去年は100件を超え、今年になると同じ時間を調べただけでも600件を超えました。来年はもっと増えそうです。
「点数低すぎて横転」「テストが多すぎて横転」といった「○○で横転」という構文で使います。笑っちゃうことを示す「草」にも近い使われ方をしています。
山本一種の「感動詞」的な使い方ですよね。
出典:Togetterオリジナル
成績がヤバすぎて横転…っと(横転はしていない) 出典:Togetterオリジナル
小野:「横転」という言葉の「動作性がなくなった状態」と言えますかね。「ずっこける」というと、そのままずっこけている様子が浮かびますが、「横転」を使うと、「横転の気分そのもの」が伝わるという。
飯間:「草」も実際に笑っているわけではないですもんね。それと同じだと思います。
出典:Togetterオリジナル

言語化、もう普通に使ってるけど…?

大賞が「言語化」と聞いて、正直「ん?なんでこれが?」と思った人も多いのでは。選考発表会の会場でも「ん?」という反応が出ていた。筆者もそうだった。

「言語化」が”2024年”の新語になった理由やいかに。

1位 「言語化」
みんな当たり前に使ってますよね? 出典:Togetterオリジナル
飯間実は「言語化」って辞書に載ってない言葉なんです。なぜかというと、以前は日常的には使われてなかったからです。
小野:というのも、「○○化」という言葉はたくさんあって、辞書に全部載せているとキリがないんですよね。しかし「言語化」は、言葉に関するとても重要な概念ということで、辞書の中で新語として特別に出していいんじゃないかという判断で大賞に選びました。
飯間:「言語化」自体は昔からある言葉ですが、元は論文の中などで「概念を言語化する」とか「心理的要素を言語化する」といった形で、非常に学術的な使われ方をしていた言葉です。大手新聞の4社のデータベースを調べても、2010年代くらいまでは年間数件~50件くらいしか使用されていませんでした。
ところが、2020年代になると、年に200件以上使われるようになってきました。この急激な増加に注目したのです。
出典:Togetterオリジナル

もともとあった「言語化」という言葉が、どうしてここまで急激に使われることになったのか。

小野:このあいだ学生が大学の授業の感想で「『チルい』という説明しがたい言葉をうまく言語化した」というような形で使っていて、面白いなと思いました。私からすれば「チルい」という言葉を使うこと自体が既に言語化しているではないか、と思うのですが。
飯間:今の人たちは、なにかモヤモヤッとしてうまく言葉にできなかったものを、ぱっとうまく言葉に出せた、という感覚を「言語化」だと捉えているのかもしれませんね。
出典:Togetterオリジナル
新明解の語釈の細かさ、的確さに痺れる 出典:Togetterオリジナル
山本:今話題の新書で三宅香帆さんの『「好き」を言語化する技術 推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない』(ディスカヴァー携書)という本がありますよね。推しへの想いを言語化するという、これぞまさにこのニュアンスでの「言語化」の使われ方ですね。
飯間:本のタイトルでも「言語化」という言葉がよく使われるようになりましたね。
小野「言語化」という言葉の簡単さも良いですよね。簡単な言葉で複雑で難しい概念を言い現すことができるようになった、という点でも使いやすくていい言葉を手に入れたなと思います。
牟田:みんながどう言えばいいか分からなかった事象について、誰かが昔からあった「言語化」という言葉を見つけて「これだ!」と当てはめた結果、一気に広がったのかもしれませんね。
山本「言語化」という言葉が当たり前に日常的に使われるようになりすぎて、皆さんにとっては「新語」という感覚が無いかもしれないという点もポイントですね。
小野:大賞としては渋い言葉を選んだな、と思われたかもしれませんが、これぞ辞書を編む人が選ぶ「今年の新語」ならでは、だと思ってほしいですよね。
出典:Togetterオリジナル

いやぁ、今年も選評を含めて「なるほど、だから今年の新語に!」と膝を打つ言葉ばかりだった。

ちなみに今回、10回の記念ということで、過去10年分の「今年の新語」をまとめた資料も配布された。

そっか、この年の時点ではまだ「新語」だったんだ。と思う言葉がたくさんある 出典:Togetterオリジナル

こちらざっと眺めると、今ではすっかり当たり前に使われるようになった言葉ばかり。これこそ「今年の新語」というイベントが

一時的に爆発的に流行して、その後すぐ忘れ去られる流行語ではなく「将来辞書に収録される可能性がある日本語」を選び、日本語の変化をいち早く捉えること
出典:Togetterオリジナル

というコンセプトをしっかりと体現している何よりの証拠だろう。

三省堂の公式HPでは、今年の新語2024で選ばれた全ての新語について選評を公開している。本記事で紹介しきれなかった分も含めて、ぜひチェックしてみてほしい。

「今年の新語2024」全語釈

大賞 言語化
2位 横転
3位 インプレ
4位 しごでき
5位 スキマバイト
6位 メロい
7位 公益通報
8位 PFAS
9位 インティマシーコーディネーター
10位 顔ない

文:ふ凡社 編集:Togetterオリジナル編集部

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